【連載】ヒューマニエンス 「“不安” ヒトが“自らつくった”進化のカギ」(13)悩むロボット、改めて不安による動機づけの是非を考える
昨日に続いて、11月25日にNHK-BSで再放送【初回放送は6月1日】された、NHK『ヒューマニエンス』、
●「“不安” ヒトが“自らつくった”進化のカギ」
についてのメモと感想。本日で最終回。
『傾聴のコツ』に関連して放送の最後に紹介されたのは、徳丸正孝さん(関西大学)の、ロボットに親しみを感じてもらう研究であった。徳丸さんは、
●我々はコミュニケーションの中で100%確実な手段を持たない。コミュニケーションの複雑さを理解しているということが相手に伝わることで親しみにつながる。
と論じておられた。研究の概要と議論は以下の通り【要約・改変あり】。
- 徳丸さんのチームがプログラムした『ジョン』というロボットは共感に通じるポーズをとることができる。具体的には「腰に手を当てたポーズ」と「顎に手を当てたポーズ」であり、この2つのポーズをとると相手は「共感してもらえている」
- 徳丸さんは、近い将来、ヒトと家庭や学校などで家族や友人のようにコミュニケーションをとれるロボットを考えている。その時には、ミスをしたり失敗をしたり悩むような不安なしぐさを表現することでかえってコミュニケーションが親密になると考えている。
- スタジオでは実際に織田さんがロボット『ジョン』と織田さんの好きなスポーツ(ゴルフ)について英語で会話をする試みが行われた。ロボットは時々間を作っていた(←しばらく会話を停止)が、いとうせいこうさんは、「間を作ると、【本当は】何も思っていないのに「思っているかも」と感じているところを利用している。【間を作る】ことには、共感というか、相手をおもんぱかる機能がある」とコメントされた。
- 徳丸さんが実験参加者にアンケートをとったところ、親しみやすさを感じたかという問いに対して、「悩むロボット」には50%が、「悩まないロボット」には18.2%が「そう思う」と答えた。このことから、「悩むロボット」のほうが親しみやすさを感じやすいことが分かる。
- 我々のコミュニケーションの中で「言葉」はほんの一握りであって、考えるしぐさを出すことで「ちゃんとあなたのことを考えてますよ。自分の考えたことを押しつけていません」と伝わるのが重要。
- 【藤井アナ】ちょっと間があったりするのは、ちゃんと聴いているよ、受け止めているよ、ということで人間同士でも当てはまる。傾聴は大切。
- 【いとうせいこうさん】インタビューの仕事をしている時など、傾聴するだけで、「聞いているよ」と相手に伝えることでコミュニケーションが深まる。そうするとことで、聞いているこちらの側も相手の言葉が重く入ってくる。この人のことをわかろうと思っていく。
最後のところでは、もともとのタイトルであった「不安」に関して以下のようなコメントが交わされた【要約・改変あり】。
- 【徳丸さん】不安は、いい面と悪い面が共存する不思議な感覚だが、我々はコミュニケーションがうまくいくかどうか常に不安に思っている。そのこと【不安】が【相手に】伝わるのがコミュニケーションの潤滑油として役立つ。
- 【河田雅圭さん】気候変動の不安があるから対策を立てる。がんの不安があるから健康的なものを食べようと思う。【不安の】活用のノウハウがわかれば不安をポジティブにもっていける。
- 【いとうせいこうさん】人は少なくとも不安が無ければ前に進めない。前に進もうとするから不安が起きる。不安があった時は、自分は何か新しい変化をしようとしている、と少なくとも思い込もうとしているのが大事。つまり不安を燃料にする。もちろんうつ病の時は本当にそれができなくて大変だが、それを自分で責めないような社会を作るためにも、お互いに傾聴しあう社会があればその中で人は不安をガソリンにすることができる。
- 【藤井アナ】不安はお友達。一緒にやっていかないと。
- 【織田さん】不安は恐れなくていい。楽しめるようになれば。
ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、最後の傾聴や「悩むロボット」との話題は興味深い内容ではあった。しかし放送内容全体は、
- 不安、セロトニンをめぐる動物実験の紹介
- 反応を感じやすい(感じにくい)遺伝子
- うつ病の対処法の1つとしての傾聴
- 「悩むロボット」とコミュニケーションにおける傾聴の重要性
というように、体系性に欠けているような印象を受けた。特に上記4.のロボットの話題は本来は「いかに円滑にコミュニケーションを進めるか」というテーマで取り上げられる内容であって、不安やうつ病とは独立して論じられるべきものではないかと思う。もちろん、ヒューマニエンスは学術講演ではないので、視聴者が興味を持てそうな話題を雑多に紹介するということもアリだとは思うが。
あと、当初の話題である『不安』については、今回の放送ではそれが進化の過程で有用であり現在においても動機づけに役立っていることが指摘されていた。確かに不安が全くなければ慎重さを失って暴走してしまうとは思う。しかし、行動分析学的に見れば、個人あるいは社会にとって望ましい行動を増やすための基本はポジティブな強化(『好子出現の随伴性』)であり、「○○しないと嫌なことが起きるのでこうするべきだ」といった『嫌子出現阻止の随伴性』はできれば避けたいところである。というのは『嫌子出現阻止の随伴性』による強化は、
- 義務的に遂行される行動になる。
- 嫌子を避ける別の手段が強化される可能性がある。例えば「○○しないと先生に叱られるので○○しなさい」という状況は、先生に見つからない別の手段があれば強化されない。
- 嫌子に脅かされること自体がストレスになる。
- 嫌子が生じる確率がきわめて低いと、それを阻止する行動は強化されにくくなる(大地震、核戦争など)
といった問題を含んでいるからである。
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