【連載】チコちゃんに叱られる! 「その日の気分で食べたいものが変わるのは腸内細菌のせい?」
3月30日に続いて、3月28日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は
- デパートの1階に化粧品売り場があるのはなぜ?
- その日の気分で食べたいものが変わるのはなぜ?
- NHK放送100年記念特別企画 歴代クイズ番組の問題に答えてみてクイズ!
- 大河ドラマはなぜ大きな河?
- 【こんなんのコーナー】くるくる回ると体が柔らかくなっちゃう現象
- バカが「馬」と「鹿」なのはなぜ?
という6つの話題のうち2.について考察する。
「その日の気分で食べたいものが変わるのはなぜ?」については放送では「腸のバクテリアに命令されているから。」が正解であると説明された。
さて、今回の解説は、内藤裕二さん(京都府立医大)であった。内藤さんは、
- 2021年7月29日ヒューマニエンス「“腸内細菌” 見えない支配者たち」 その1 腸内細菌が好みを決める
- 2023年10月10日漫画家イエナガの複雑社会を超定義「人間を操る?!〜腸内細菌で人生変わっちゃう? 」
などにも登場されており、今回はその内容を一般向けに解説したものであった。
内藤さん&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- その日の気分で食べたいものが変わる理由は、脳に経験として刷り込まれているからであると考えられてきた。ところが最新の研究でもう1つ大きな理由があることが分かった。
- これまでの定説:例えばカレーを食べると、脳はカレーが血行促進、たんぱく質、ビタミンなどが補える良い食べ物であると認識し記憶する。その後テレビでカレーを見たり街中でカレーの匂いがあると脳が思い出し食べたくなる。
- 最新の研究:バクテリアに命令されている。
- 一人の大腸には約1000種類のバクテリアが生息している。総数は100兆個。
- バクテリアは人が摂取した食べ物からエネルギーを得ている。その対価としてバクテリアは体にさまざまな良い影響を与えている。例えば
- ラクトバチラス・プランタラムは睡眠を促進する代謝物を生成しており、このバクテリアが多くいる人は寝付きがよい、
- ブラウティアが多い人は肥満や糖尿病になりにくい。
つまり人間とバクテリアは持ちつ持たれつの関係を保ってきた。
- 1000種類以上のバクテリアの中には、肉好き(ルミノコッカス)、野菜好き(プレボテラ)、砂糖好き(ビフィドバクテリウム)というように好みのエサが違う。他の種との生存競争に勝つために、自分がより成長できる栄養素を摂取するように脳に働きかけたり、逆にライバル種が欲しい栄養素を抑制するように働きかけたりしている。つまり、腸のバクテリアが脳を操っている可能性がある。
- 腸と脳は迷走神経でつながっており、バクテリアはこの迷走神経を操作し、肉や野菜といった特定の食品の摂取を促したり抑制したりする。
- 日によってラーメンを食べくなったりケーキを食べたくなったりするのは、脂質好きのバクテリアと砂糖好きのバクテリアが激しくせめぎ合った結果。
- 野菜嫌いの番組ディレクターの腸内細菌を調べたところ、野菜好きのバクテリア(ファーミキューテス門)が少なく、脂質好きのバクテリア(バクテロイデス門)が多いことが分かった。野菜・食物繊維ばかりの食事を10日間続けたところ、野菜好きのバクテリアは42%から47%に増加、いっぽう肉好きバクテリアは53%から43%に減少していることが確認された。
ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、食物の好みが経験(=学習)によって変わることについては、相当昔の話になるが、
●食物選択における学習の役割哺乳類科学 Vol. 22 (1982) No. 3,29-51.
などの総説論文を書いたことがあった。
留意すべき点としては、
- 好みの個体差が形成される原因、あるいは食べたい物の優先順位がその日の気分や過去の摂取履歴によって変動するというのは、雑食性の動物の一部に限られている。草食性や肉食性の動物でも食物の好みはあるが【例えば、おいしい草とマズい草】、それらは生得的に決まっている。但し、コアラのユーカリの好みの違いに見られるように、幼少時に母親のフンを食べることで母親と同じ好みが刷り込まれる場合もある。
- 経験的な好みは、Aという食物に関連する刺激(匂いや味など)と、Aを食べた時の結果(エネルギーの補給、その他栄養的な効果)の関係によって形成される。
- 生理的に必要な栄養分が不足した場合、例えば疲労困憊時に「甘いものを食べたい」とか大量に汗を流した後で「しょっぱいものを食べたい」というような場合は、本能的なメカニズムによってそれらが補給される場合もある(=特定飢餓)。
- なお、チベット人の僧侶が3食バター茶のみ、北極圏の人たちが生肉や干し肉ばかりで暮らしているように、地球上のすべての人たちが雑食性の食事スタイルをとっているわけではない。
今回の解説は、上記とは別に腸内細菌の働きを指摘したものであったが、一般向けの解説という制約からか、いくつか不明な点が残ってしまったように思う。以下思いつくままに挙げてみると、
- 内藤さんは、肉を食べたい時と甘い物を食べたい時が短期間で変動するのは、脂質好きのバクテリアと砂糖好きのバクテリアが激しくせめぎ合った結果であると説明されていたが、数日以内のスパンで2種類のバクテリアの比率がそんなに変わるとは思えない。
- 肉を食べたことで脂質好きのバクテリアが増えたとすると、その後はそのバクテリアの影響力がさらに強まり、もっと肉を食べたくなるはずだ。これでは肉の次に甘い物を食べたくなる現象は説明できない。このような短期間の好みの変化は、特定食物を食べたことによる「飽和化」として説明するべきであろう。
- 番組ディレクターによる野菜摂取の実験では、野菜好きのバクテリアは42%から47%に増加、いっぽう肉好きバクテリアは53%から43%に減少していることが確認されたというが、であるならばこのディレクターの好みは肉好きから野菜好きに変容したはず。しかしじっさいには最後に「ベーコン」と叫んでいたように、相変わらず、肉好き傾向は変わらなかった。
- 食べ物の好みは多種多様であり、例えば牛肉は食べたいが豚肉は嫌だというように、脂質好きのバクテリアの「命令」では区別できない場合が殆どではないかと思われる。
というように考えてみると、腸内細菌が食物の好みに影響を及ぼすこと自体は正しいとしても、それは数年以上の長期のスパンでみたときの影響であって、数日間における好みの変動の説明には適用できないのではないか、というのが私の考え。
次回に続く。
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