じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 濃霧バージョン(2/22撮影)、3回目は農学部農場の梅。



2月24日(土)

【思ったこと】
_10224(土)[心理]象牙の塔とアクション・リサーチ(7)「名人」を雇うことの有効性

 2/23の日記の続き。昨日の日記で、学問的方法としての実験法と、日常生活場面や実践場面における実験的方法との違いについて、次のような考えを述べた。

  • 日常生活場面や実践場面で行われる実験では、再現性が保障されることが大切。ある条件、あるいは働きかけが包括的に再現できるならば、必ずしも要因に分解する必要はない。その文脈内で有効性が検証されれば十分。
  • 学問的方法としての実験法では、一般性が要求される。そのためには、実験操作の中のどの「成分」に一般性があるのか(=別の文脈でも同じ働きをするのか)を保証しなければならない。
 ここで、包括的に再現できるとはどういうことなのか、次のような仮想の事例を挙げながらもう少し考えてみることにしよう。
ある男の子がちっとも勉強しないので、2学期から女子学生Aさんを家庭教師に雇った。その後めきめきと成績が上がり自習時間も増えた。
 この事例では、家庭教師を雇用した依存して望ましい変化が見られているので、とりあえず有効性が確認されたと言える。もっとも、単に2学期になって涼しくなってきたことと、日が短くなって外で遊ぶ時間が減ったために勉強をするようになったのかもしれない。もし、上記に加えて、
その後Aさんは交通事故に遭い2カ月ほど休むことになった。その2カ月の間、子どもの成績や自習時間は一時的に停滞したが、Aさんが再び復帰すると元通りのペースで勉強に取り組むようになった。
という情報があれば、家庭教師Aを雇用することの有効性がかなりの確からしさで確認されたことになる。じっさい、条件の交替に任意性が無いという欠陥を除けば、これは単一被験体法の中の「A-B-A-Bデザイン」に近い実験手続で有効性を確認したと言えないこともない。

 では、上記の事例は研究報告になりうるだろうか。否である。なぜならば、上記の例では、家庭教師Aさんが、どういう教育を行ったのかが何も示されていないからである。
  • Aさんが自作した教材が有効であったのか
  • 自習計画の指導が有効であったのか
  • 何を誉めるかが的確であったのか
  • 誉める方法が上手だったのか
  • それとも単に、その男の子がAさんに恋心を懐いていて一生懸命自習をしたためなのか
上記の事例ではこのうちのどれが当てはまり(←複数かもしれない)、どれが当てはまらないのか、何も実証されていない。Aさんと男の子という「関係」の枠外の世界に向けて一般性のある情報が何も伝えられないというのが、研究報告とは呼べない本質的な理由である。

 とはいえ、この男の子の世界ではAさんの「有効性」は確認された。さらに、もしAさんが、同じぐらいの年齢の別の男の子の家庭教師を引き受けた場合、同じように効果を上げる可能性はかなり高いとも言える。対象が類似していればいるほど、「再現性」を期待できるからである。家庭教師に限らず、医者や弁護士、カウンセラーなどでも同じことだが、評判の高い「名人」にお願いするほうが有効性が期待されるという経験的知識にはそれなりの根拠があるのだ。

 よく知られている個体間の実験計画では、実験群や対照群の平均値を比較して一般的な効果しか検討されない。その限りにおいては上記のような、固有の対象だけで成り立つ包括的な有効性は決して実証されない。しかし、実験法を単一被験体法まで拡張してみると話は別である。固有の現実場面では実験的方法は十分に役立つと考えられる。
【ちょっと思ったこと】

仮想現実の現実らしさ

 少し前のことになるが、昼食をとっている時、NHKの「昼どき日本列島」で、東大にある仮想現実の研究施設を紹介していた。ゲストの谷川真理さん(マラソンランナー)が装置の中に入ると周囲に立体画像が現れる。遠く離れた人と握手をするポーズもとれるし、空を飛んでいるような景色を楽しむこともできる。技術の進歩には驚かされるばかりであった。

 もっとも、この仮想現実、視覚的にはいくらリアルでも、能動的に働きかける範囲はきわめて限定的であった。自分の動きによって景色が変わる、あるいは、何かを触ると堅さが実感できるというような感覚レベルのリアリティは実感できるが、対象自体を変化させて世界そのものを変えてしまうことはできない。

 この点、能動的に働きかけることでストーリーに一定の変化を与えるRPGゲームのほうが、画像はアニメレベルであってもはるかにリアリティがあるようにも思える。そう言えば、先日来、息子がファイナルファンタジーIXに熱中している。このシリーズのIVとVしかクリアしていない私から見ると、比べ物にならないほどリアルになっていることに驚く。もっとも、それが本当らしく見えるのは映像自体の精密さにあるのではない(←もちろんそれも前提ではあるが)。プレーヤーの働きかけに呼応して変化することにこそ真のリアリティがあるのだと思う。1/26の日記に記したテーマパークの面白さも同様。景色を外国に似せて作るだけではすぐに飽きられる。持続的な面白さを与えるカギは能動的な行動をいかに多様に強化するかにかかっている。



歯科医師の厳しい現実

 2/25の朝日新聞「ウィークエンド経済」によれば、歯科診療所の数はコンビニの2.2倍あるという。一日の患者数は平均15人前後。10人に満たない歯科医師が移転する話が紹介されていた。

 そう言えば、私がお世話になっている医院は、以前は予約を入れても一週間待たされることがあったが、最近では即日でも診てもらえるようになった。妻が急患で診てもらった別の歯科医院の場合は、数十万円の治療プランを勧められた。結局断ることになったが、その後も意向を問い合わせる電話がかかってきたりしたが、そのうちに閉院。近所の噂では、予約していた患者をほったらかして夜逃げしたそうだ。

 少子化が進む中で大学の経営危機が深刻に議論されるようになったが、患者絶対数が減るという点では歯科医師の経営にも同じような厳しさがあるだろう。しかも最近では、虫歯になりにくいお菓子が普及するようになってきた。

 歯科医師の場合、虫歯の予防を旗印に掲げながら、虫歯が完全に予防されてしまったら職を失うというジレンマがつきまとう。虫歯菌を完全に除去するような口内殺菌剤のようなものが発明されたらどう対処されるのだろう。