じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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2010年版・岡山大学構内でお花見(45)文学部西側のイギリス式庭園

 昨日に続いて文学部西側の庭園の写真。ナニワイバラ、オステオスぺルマム、ツルニチニチソウ、ヒルザキツキミソウ、ラベンダー、ツツジ、アヤメ、キンギョソウなどの花が見られる。ちなみに、昨日掲載のアニソドンティア・マルバストロイデスは、写真中央奥に咲いており、この写真のアングルとは南北方向が正反対になっている。



5月10日(月)

【思ったこと】
_a0510(月)[心理]「ハーバード白熱教室」が面白い

 5月10日付けの朝日新聞(大阪本社)で、NHKの

ハーバード白熱教室

が紹介されていた。4/4の初回放送分をオンデマンド経由で視聴した人は10日間で2800人を突破し、教育テレビとしては過去最高を記録したという。

 じつは私自身もこの放送に熱中しており、幸いなことに、こちらの講義一覧の初回分からきっちり録画している。

 このマイケル・サンデル教授の講義はスゴイ。時たま画像が紹介されることがあるが、通常は左手をポケットにつっこんだ状態で、壇上を行ったりきたりしながら語りかける。パワーポイントなどは無用の存在だ。しかも、大ホールでの講義ながら、時々、学生からの意見を求めており双方向の授業がちゃんと成立している。もっとも、こういう授業を行うには、聴講する学生側にもそれなりの意見表明の力が要求されるだろうとは思う。日本の大学で同じ授業をやっても、ああいう形で挙手をして意見を述べる学生はそんなに出てこないかもしれない。




 この放送は二カ国語放送となっており、まことにありがたいことに、DVD-Rでダビングすると、左音声で日本語、右音声で英語への切り替えができる。おかげで、日本語放送の分かりにくいところも、元の英語で確認することができた。例えば、第6回のところで、
カントは、人間を理性的で自律した存在であるとした。しかし人間には、苦痛と喜び、苦しみと満足の能力もある。
というような日本語吹き替えがなされていたが、これだけでは、「苦痛」と「苦しみ」の区別が分からない。英語放送で確認したところ、苦痛は「pain」、苦しみは「sufferings」であると聴き取ることができた。




 さて、講義の内容であるが、これまでに特に面白いと思ったのは第1回の導入部、第2回のベンサムとミルの話、さらに第6回のカントの話である。

 このうち、第2回のミルのところでは、「高級な喜び」と、「低級な喜び」の区別があった。行動分析学ではこれは「好子」の概念に対応するものであるが、高級か低級かというのは、「好子」自体ではない。好子が生得性であるか習得性であるか、好子出現の随伴性が単線的であるか入れ子構造を持った持続的な随伴性の構造になっているかどうかが、「高級」か「低級」かを区別することになるのではないかと私は思っている。

 同じ回では、ソーンダイクの「代償としていくら貰えば、その不快な行動をしてもよいと思うか」という調査が紹介された。オリジナルの出典は、

Thorndike, E. L. (1949). Valuations of certain pains, deprivations and frustration. The Journal of Genetic Psychology, 51, 227-239.)

にあるようだが(←調査実施年は1934年だったらしい。複数回、いろいろな調査をしているのかもしれない)、ネットで検索したところ、

How Much to Eat a Worm? Personal Perspective Influences Value.

という学会発表抄録がヒットし、その中で、ソーンダイクのオリジナルのリストが引用されていることが分かった[追記]。備忘録を兼ねて、そのリストをここに再掲しておく。【あくまで孫引き。この質問票の追調査を行う場合は必ず原典で確認していただきたい。】
 サンデル教授の講義では、調査対象者は「政府からの生活保護を受けている若い人を対象に」となっていた。いっぽう、上掲の学会発表抄録のほうでは「Thorndike asked employed and unemployed volunteers how little money they would be willing to accept as compensation to suffer certain pains, deprivations, frustrations, and repulsive acts. 」となっていて、別の調査であった可能性がある。
Thorndike’s Questions
  • 1 Have one upper front tooth pulled out.
  • 2 Have all your teeth pulled out.
  • 3 Have one ear cut off.
  • 4 Have your left or right arm cut off at the elbow.
  • 5 Have a little finger of one hand cut off.
  • 6 Have the little toe of one foot cut off.
  • 7 Become entirely bald.
  • 8 Have all the hair of your eyebrows fall out.
  • 9 Have one leg cut off at the knee.
  • 10 Have both legs paralyzed.
  • 11 Have small pox, recover perfectly except, for about 20 large pock-marks on your cheeks and forehead.
  • 12 Become totally deaf.
  • 13 Become totally blind.
  • 14 Become unable to chew, so you can eat only liquid food.
  • 15 Become unable to speak, so that you can communicate only by writing, signs, etc.
  • 16 Become unable to taste.
  • 17 Become unable to smell.
  • 18 Require 25 per cent more sleep than now to produce the same degree of rest and recuperation.
  • 19 Fall into a trance/hibernating state in October every year.
  • 20 Fall into a trance/hibernating state in March every year.
  • 21 Be insane through July every year (manic depression insanity, bad enough so that you would have to be put in an insane asylum, but with no permanent ill effects).
  • 22 Same as 21, but for two years with no recurrence again.
  • 23 Have to live all the rest of your life outside of U.S.A.
  • 24 Have to live all the rest of your life in Iceland.
  • 25 Have to live all the rest of your life in Japan.
  • 26 Have to live all the rest of your life in Russia.
  • 27 Have to live all the rest of your life in Nicaragua.
  • 28 Have to live all the rest of your life in New York City.
  • 29 Have to live all the rest of your life in Boston, Mass.
  • 30 Have to live the rest of your life on a Kansas farm 10 miles from town.
  • 31 Have to live the rest of your life shut up in an apartment in New York City. You can have friends come see you there, but cannot go out of the apartment.
  • 32 Eat a dead beetle one inch long.
  • 33 Eat a live beetle one inch long.
  • 34 Eat a dead earthworm 6 inches long.
  • 35 Eat a live earthworm 6 inches long.
  • 36 Eat a quarter of a pound of cooked human flesh (nobody but the person who pays you will ever know).
  • 37 Eat a quarter of a pound of cooked human flesh (and the fact that you do so will appear on the front page of all the New York papers).
  • 38 Drink enough to become thoroughly intoxicated.
  • 39 Choke a stray cat to death.
  • 40 Let a snake 5 feet long coil around your arms and head.
  • 41 Attend Sunday morning service in St. Patrick's Cathedral, and in the middle of the service run down the aisle to the alter, yelling “The time has come, the time has come” as loud as you can until you are dragged out.
  • 42 Take a sharp knife and cut a pig's throat.
  • 43 Walk down Broadway from 120th Street to 80th Street at noon wearing evening clothes and no hat.
  • 44 Spit on a picture of Charles Darwin.
  • 45 Spit on a picture of George Washington.
  • 46 Spit on a picture of your mother.
  • 47 Spit on a crucifix.
  • 48 Suffer for 1 hour pain as severe as the worst headache/toothache you’ve ever had.
  • 49 Eat only bread, milk, spinach and yeast cakes for a year.
  • 50 Go without sugar in all forms (including cake, etc.), tea, coffee, tobacco, and alcoholic drink, for a year.
  • 51 Lose all hope of life after death.
 30万ドル(当時)という最も高額な不快度がつけられた「30 Have to live the rest of your life on a Kansas farm 10 miles from town.」や、比較的温暖で、温泉があり、オーロラも見える「24 Have to live all the rest of your life in Iceland.」は、私ならこちらからカネを払っても実現したい老後のライフスタイルの1つだと思うが、若い時から生涯そこに暮らせと言われれば話は変わってくる。上記の中には、「25 Have to live all the rest of your life in Japan.」というのがあるが、いったい、いくらぐらいの値段がついたのだろうか。




 第6回では
  • 「自由とは望むことができること」、「自由とは望むものを手に入れる上で障害がないこと」という自由観は間違い。
  • 喜びや満足や欲望を追い求め、苦痛を避けようとするのは本当に自由に行動しているとは言えない。←実際には欲望や衝動の奴隷として行動している。自然の必要に迫られて行動しているのは自由ではない。自由と必要(necessity)は相反する。
というカントの主張が紹介されていた。スキナーは、1971年、これに関しては『自由と尊厳を超えて(Beyond Freedom and Dignity)』という本を出しているが、カントについては特に触れていなかったように思う。ちなみに、スキナーもまたハーバード大学の教授であった。




 若干気になるのは、カントによる功利主義批判の部分である。サンデル教授は、「功利主義の○○という見解に対してカントはこう答えている」というような表現をされていたようだが、私の知る限りでは、カント、ベンサム、ミルの生年と没年は
  • イマニエル・カント(1724-1804)
  • ジェレミー・ベンサム(1748-1832)
  • ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873)
となっており、少なくともカントが、ミルの見解を批判することは不可能であると思うのだが、何か誤解していたのだろうか。