じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 文学部耐震改修工事はいよいよ竣工前の後片付け段階に入っており、建物南側が通行できるようになった。ここの中庭には、私が四季咲き花木の女王と呼んだ「アニソドンティア・マルバストロイデス」が生育しており、工事で伐採されていないかどうか気になっていたところであったが、3月21日に無事を確認。このほか、ローズマリー、ナニワイバラなども健在も確認できた。

3月21日(水)

【思ったこと】
_c0321(水)心理学教育の目標設定の再検討(4)心理学教育の実益性・教養(2)

 昨日に続いて、実益性・教養という観点からの心理学教育の役割について取り上げることにしたい。

 ところで、ここで少々脱線するが、最近、某所で、国立大学における文学部の役割について、話題になったことがあった。技術立国ニッポンにおいては、税金を投じて、莫大な研究予算を必要とする国立の理系学部を設置することには大いに意義があるが、私立大でも設置可能な文学部をなぜ国立大学に含めなければならないのかについては、納税者に対するアカウンタビリティが必要であるという議論である。その議論に応えるためには、1つには、社会に成果を還元できるような心理学の研究、例えば、精神的健康支援、障がい者支援、リスク管理、高齢者福祉などの分野における研究で社会貢献することが求められると思われるが、やはり、四年制大学として教育を行っている以上は、一番の役割は、教育の質保証という点にある。また、総合大学においては、心理学の専門家を養成するばかりでなく、全学における教養教育において、どの学部の在籍者にも役立つ心理学教育をしっかりと行っていく必要があると思う。

 元の話題に戻るが、荒川氏は、企画趣旨説明の中で、

大谷(2010): 就職に役立つ教養教育 : キー・コンピテンシー概念の日本的展開

を引用し、大学教育に対する産業界からの需要に変化があったことに言及された。1980年代は、職業教育や専門教育を求めていたのに対して、2000年代には教養教育、すなわち汎用能力+異文化理解+αが求められるようになったというのである。またひとくちに大学生といっても、旧帝大・有名私立と新興私立では学生の入学動機に大きな違いがあり、武内(2005)によれば、前者では、専門知識の修得や教養を身につけることを動機とした学生が23%程度であったのに対して、後者ではそれらの比率は低く、過半数が、資格取得や、社会で役立つ技術を身につけることを動機としていたという結果になっているという。

 こうしてみると、大学における心理学教育は、学界の専門家が一方的に定めればよいというものではなく、社会的ニーズや受講生の興味・関心、入学動機にも配慮しながら、適切に調整していく必要があるようにも思えた。

 ところで、野田首相が主宰する「雇用戦略対話」で3月19日に報告された資料によれば、2010年春に学校を卒業した人のうち、就職できなかったり、就職から3年以内に離職する人の割合は、大学・専門学校生で52%、高卒で68%(いずれも中退者を含む)に上っているという。内閣府は、
  • 学生が自らの適性や就きたい職業を十分に検討しないまま就職している。
  • 学生の大企業志向が強いため、採用意欲が旺盛な中小企業との「ミスマッチ」が生じていることが、一因。
などと分析しているというが、早期離職の問題は、単なる適性やミスマッチが原因ではなく、より根本的な人生観や職業観に起因しているようにも思われる。と考えると、大学でいくらしっかりと職業教育や専門教育を行ってもそれだけでは不十分であり、それよりももっと根本的なライフスタイルの構築や、NHKで放送されていた、シーナ・アイエンガー教授の選択の技術のような知見を身につけるような教育が求められるようにも思う。その中での心理学の役割はやはり重要である。

次回に続く。