じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
岡大・石庭を照らす偽太陽。太陽が北東から昇るようになったため、本部棟に反射した日の出が瞬間的に石庭を照らすようになった。なお、岡大・石庭と月のコラボは5月19日の日記にあり。 |
【思ったこと】 140521(水)長谷川版「行動分析学入門」第7回(8)好子出現の随伴性による強化(15)部分強化と強化スケジュール(2) 前回述べたように、部分強化については、行動分析学以外の心理学(学習や記憶の心理学)でもさまざまな検討が行われてきました。但し、それらの実験は、眼瞼反射、走路、迷路というように、1回1回の試行が個別に行われており(discrete trial)、主要な関心事は、部分強化のもとでの習得(acquisition)や、部分強化を経験することが後にどのような影響を与えているのか、というところにありました。その代表的な効果が、「部分強化効果(部分強化のほうが連続強化よりも消去されにくい)」と呼ばれるものです。 これに対して、行動分析学では、部分強化のもとでの習得や後に与える影響よりも、部分強化という条件のもとでの遂行にどのような特徴があるかというところを注目しています。このような特徴を分析するためには、走路や迷路のような個別試行ではなく、行動が自由に自発され(=「フリー・オペラント」free operant)、その動的な特徴を記録できる装置が必要となります。それを可能にしたのが、スキナーの発明による「スキナー箱」と、累積記録装置です。なお、フリーオペラントの状況のもとで、一定時間内における部分強化の条件を設定することを「強化スケジュール(Schedules of reinforcement.)」と呼びます。 「スキナー箱」についてはこれまでも何度か説明したとおりですが、基本的には、実験箱の中に、被験体がネズミであればレバー、ハトであればくちばしでつつくことのできるようなキー、サルであればタッチパネル型のキー、というような入力装置を取り付けておいて、実験時間中、被験体は原則として自由にそれを押す(つつく)ことができるようになっています。こうすることで、反応数ばかりでなく、反応間隔(interresponse time、IRT)も測れるようになり、その分、実験時間中の遂行を詳細に分析することができるようになります。 いっぽう累積記録装置は、反応数ばかりでなく、いま述べたIRTを視覚的にとらえる点できわめて有用です。通常、これは、左図のように横軸に時間経過、縦軸に累積反応数の座標をとってグラフ化されます。左図で、R、B、Gという3匹のネズミのレバー押しの累積反応を示しているとしましょう。Rというネズミは同じ反応間隔で休むことなしにレバーを押し続けているのに対して、Bというネズミは、各駅停車の電車のように、時々、一定時間ストップしながら反応しています。またGというネズミは、時間が経つにつれて、反応の速度を増していることが見て取れます。 このように、累積記録装置で反応の推移を視覚化することにより、単に反応が多いとか少ないといった量的な比較ばかりでなく、反応の起こり方についての質的特徴をも把握することができます。このようなデータは、ハイテクが進化した現在であれば、パソコン1台と、パソコンに入力信号を送るための装置があれば簡単に記録し視覚化することができますが、大型計算機がやっと開発されるようになった1950年代に、マイクロスイッチと、反応があるたびにペンが横に移動する仕掛け、それと一定時間で巻き取っていく記録用紙という、いまから見ればきわめて原始的な装置だけでこれを実現したというのは、やはりスゴイ発明だと思います。 もっとも、スキナー箱と累積記録装置を用いて、さまざまな部分強化の条件下でのオペラント行動の動的な特徴を視覚化した大著: Ferster, C. B., & Skinner, B. F. (1957). Schedules of reinforcement. は、累積反応記録の折れ線が数本描かれているだけで殆ど真っ白というページもあり、累積記録の意義についてご理解いただけなかった心理学者から、辛口の批評をいただいたこともあったようです(※)。 [※] この本が出版された翌年、吉田正昭先生(吉田. 1958)は以下のような書評を書いておられます。 次回に続く。 |