じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 6月21日に「ネジバナのミニお花畑」の写真を掲載した。撮影地ではすでに花は終わっているが、最近になって、建物の間や樹木の根元など、あまり日の当たらない場所のほうに、ミニお花畑が出現するようになった。雨がたくさん降ったこともあって、花茎(花序)の長いものが多い。

 なおネジバナは、花茎が細いため、デジカメで焦点を合わせるのが難しい。今使っているデジカメは、ピンポイントフォーカス機能が無いため(スポットフォーカス機能はあるが、一定の面積をもった小さな長方形へのフォーカスとなる)、どうしてもぼやけてしまう。


2014年7月8日(火)

【思ったこと】
140708(火)長谷川版「行動分析学入門」第12回(3)阻止の随伴性(3)好子消失阻止による強化(1)

 今回は、阻止の随伴性の2番目として、「好子消失阻止の随伴性による強化」を取り上げます。これは、すでに保有している好子(もしくは好子に接近可能な状態)に関して、行動していればその状態が保たれる一方、行動しないでいると、いずれそれが失われる(もしくは接近できなくなる)というケースです。

【好子あり】→行動→【好子あり】
【好子あり】→行動しない→【   】(やがて好子消失)

 具体的な例としては、まず、「嫌子出現阻止の随伴性」のところでも取り上げた防災活動が挙げられます。例えば、地震災害に備えて建物を補強する行動は、人的被害(=嫌子。地震による大けが)と物的被害(=建物倒壊や、棚から物が落ちることによる破損)の両方を防ぐ効果をもたらします。このうち、人的被害を防ぐ行動は、「嫌子出現阻止の随伴性」、すなわち、
  • 【   】(安全)→防災行動→【   】(安全)
  • 【   】(安全)→防災行動しない→【地震発生時に大けが】(嫌子出現)
という随伴性によって強化されます。また物的被害を防ぐ行動は、「好子消失阻止の随伴性」、すなわち、

【資産あり】(好子あり)→防災行動→【資産あり】(好子あり)
【資産あり】(好子あり)→防災行動しない→【   】(地震発生時に資産を失う)

という随伴性によって強化されます。

 通常、防災活動は、これら2タイプの随伴性によって複合的に強化されていますが、もし、人命尊重を強調するのであれば、大けがの恐ろしさについて強調するような確立操作を重視するべきですし(例えば、地震で怪我をしたり亡くなった方の遺族の談話を報道する)、物的被害を防ごうとするのであれば、室内の倒壊の様子(例えばメモリアルハウス)を展示したり、被害額を具体的に示すといった確立操作が効果的です。

 同じことは、車の所有者の交通事故対策についても言えます。交通事故による大けが(=嫌子出現)を阻止しようとする人は、エアバッグ、ABS、側突安全性などを重視して車を購入するでしょう。この行動は嫌子出現阻止の随伴性によって強化されます。いっぽう、事故発生時の損害賠償(=賠償金を支払うという点で好子消失)を阻止しようとする人は、任意保険のほうにお金をかけるでしょう。こちらの行動は、好子消失阻止の随伴性によって強化されます。ですので、自動車販売の営業担当者は、安全性を強調するのであれば、嫌子に対する確立操作(交通事故がいかに恐ろしいか、安全装置がいかにすぐれているかなどを強調)を行うことになりますし、任意保険の担当者のほうは、好子消失に関する確立操作(交通事故の賠償金がいかに高額であるか、勧めている保険の保障内容がいかに充実しているかを強調)を行うことが大切です。これを逆にして、自動車販売の営業担当者が交通事故の賠償金のことを、あるいは、保険会社の担当者が車の安全機能について強調しても、営業上の成果には結びつきません。

 このほか、以下のような事例も、好子消失阻止の随伴性によって強化されていると考えられます。
  1. 作物に農薬をかければ病虫害発生が阻止される
    →農薬をかけていれば、作物(好子)は生育するが、農薬をかけないと、やがて、病害虫により、その作物が失われる(好子消失)。【もっとも、病害虫を恐れるばかりに、過剰に農薬を散布する恐れがあります。】
  2. 年賀状を出しておけば今後も面倒をみてくれる
    →義理で投函する年賀状の場合、年賀状を出せば今後も良好な人間関係(好子)が維持できるが、年賀状を出さないと、疎遠になってしまう(好子消失)。
  3. 一生懸命働けば、今のバイトはクビにならない
    →働いている限りは、定期的な収入(好子)が維持できるが、サボったりすると、再雇用してもらえなくなる(好子消失)





 さて、上記の3番目の「一生懸命働けば、今のバイトはクビにならない」という事例にも象徴されますように、「好子消失阻止の随伴性」というのは、「しなければならない行動」と、「したいからする行動」の違いを明瞭に説明することができます。もともと、バイトは、

バイトをする→給料

という「好子出現の随伴性」によって強化されているはずです。であるならば、こちらの講義録の3.1で述べた、スキナーによる幸福の定義:
幸福とは、正の強化子【=好子】を手にしていることではなく、正の強化子【=好子】が結果としてもたらされたがゆえに行動することなのです。
からみて、働くことは給料という好子を出現させるという点で、まさに生きがいになるはずです。しかし、現実には、働くことは必ずしも生きがいになっていません。その理由は、現代社会における労働が、好子出現ではなく、好子消失阻止の随伴性によって強化されており、そのことが、任意性を奪い、義務的に働かされているという状況をもたらしているためであると考えられます。

 実は、このことは、スキナー自身によって適確に指摘されています。慶應義塾大学での講演「The Non-Punitive Society(罰無き社会)【こちらから無料で閲覧可能】」の中で、スキナーは、
Industrial incentives are really punitive, We think of a weekly wage as a kind of reward, but it does not work that way. II establishes a standard of living from which a worker can be cut off by being discharged, workers do not work on Monday morning because of the pay they will receive at the end of the week; they work because a supervisor will discharge them if they do not. Under most incentive systems, workers do not work for things but to avoid loosing them.
企業において仕事を駆り立ててているのも実は罰的なものです。賃金は報酬の一種と考えられていますが、実際はそうではありません。賃金労働者は週給で生活していますが、解雇されれば生計はたちません。月曜日の朝働くのは週末に支払らわれる賃金のためではなく、働かなければ解雇されるからなのです。ほとんどの組織のもとでは、労働者は何かのために働くのではなく、何かを失なうのを避けるために働くのです。【訳は佐藤方哉先生による。一部改変】
と述べています。この文末の、「...workers do not work for things but to avoid loosing them.労働者は何かのために働くのではなく、何かを失なうのを避けるために働くのです。」というのがまさに、好子消失阻止の随伴性のことです。【このことは、スキナー自身が、「阻止の随伴性」概念を持っていたという証拠にもなります。】

次回に続く。