じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 岡大西門の西側花壇のローズマリー。4月からの建設工事に備えて球根類は引っ越ししているが、ローズマリーの大株は移植が難しいこともあり、このまま放置。これが最後の開花となる。

2017年3月17日(金)



【思ったこと】170317(金)オドノヒュー&ファーガソン『スキナーの心理学』(29)第4章 徹底的行動主義(11)

 3月16日の続き。

 16項目にまとめられているスキナーの哲学についての特徴のうち、11.の

11.Scientists should analyze the behavior of individual subjects and avoid the averaging of data and the use of statistics.
個々の被検体【被験体】の行動を分析し、データの平均値や統計学の使用は避けるべきである。


は、単一事例、個体内比較を重視したものであるが、なぜそのような方法を採用したのかについては検討する必要がある。よく例に挙げられるのは、学習が進むなかで、行動が階段状に増加していくというような場合である。どの個体においても、増加のプロセスは「階段状」という特徴をもつが、階段の幅や段数や傾斜角度は個体によってさまざまであったとする。このような場合、複数の個体のデータを平均してしまうと、階段状という特性は均されてしまって、せっかくの発見が失われてしまうという考え方である。もっとも、これだけが理由であるなら、データの集計方法を変えれば平均値的な分析で一般化ができるはずである。

 これとは別に、機能的文脈主義の立場から単一事例を重視する別の理由を挙げる研究者もいる。バッハ・モラン(翻訳書2009、54〜55頁)は以下のように述べている。【長谷川による改変あり】
分析のユニット
 機能的文脈主義(functional contextualism)は,分析の対象として,現在進行中の文脈の中での行為(ongoingact-in-context)に焦点を当てる(対象を部品からなる機械のように捉えるのとは異なる)。機能的文脈主義の分析は,現在,生じているクライエントのふるまいと,そのふるまいが生じる環境を重視する。分析の対象となるものは,相互に関連したユニットである。したがって,4項随伴性の動因操作,弁別刺激,反応,結果刺激についても,実際にはそれらは単一のユニットなのである。つまり,分析の対象となるのは,4つの異なった部分というより,むしろ1つのまとまりある事象である。
真理基準
 機能的文脈主義では,あることが「真である」と言われるのは,それが「ゴールの達成に効果的な実践(successfulworking)」を導くときである。機能的文脈主義に依拠する科学者は,自己の言説がモデルと一致するのか否かを見ることは少なく,それよりも,その言説が望まれる結果をもたらすかどうかに関心を寄せる。そのため,行動分析学の科学者にとって一事例のデザインはより魅力的になるわけである。一事例のデザインとは,ベースラインを測定し,次にその変化を見るため,ある変数を変更する。その後,もう一度,変更した変数を元の状態に戻して,測定対象の指標がベースラインのレベルに戻るかどうかを見るというものである。科学者が「自分の行った介入は,指標を望ましい方向にうまく変化させるであろうか?」という質問に答えるには,帰納的な(一事例のA-B-Aデザイン)研究の方が,演繹的な(仮説検証の)研究よりも適しているのである。

バッハ・モラン(著)武藤崇・吉岡昌子・石川健介・熊野宏昭(監訳)(2009).ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を実践する. 星和書店.【Bach, P.A., & Moran, D. J. (2008). ACT in practice Case conceptualization in Acceptance & Commitment Therapy. Oakland, CA: New Harbinger Publicarions.】

もっとも、関係フレーム理論を支える基礎研究においては、単一事例ではなく、実験条件と対照条件を個体間で比較した実験も引用されている。(例えば、刺激機能の変換に関する実験など)

 次回に続く。