じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 文学部中庭は冬期、一日中、建物の日陰となる時期が続くが、立春、雨水、啓蟄というように季節が進む中で、北側(写真右手)の花壇から太陽の光を浴びる時間が長くなっていく。


2020年2月15日(土)



【連載】シロアリのスゴいところ(その3)

 昨日の続き。

 シロアリのスゴいところの3番目は、群知能と呼ばれる現象である。番組では、シロアリがどうやって迷路の正解を学習するのかという事例が取り上げられた。

 まず迷路のゴール地点にシロアリの好物を置く。スタート地点から入場したシロアリたちは、最初は行き止まりの方向を含めてあらゆる通路を進もうとする。しかしまもなく、1匹がゴールを探り当てると、発見者からの情報が速やかに他個体に伝えられ、ほぼ全員が最短経路でゴールに向かうことができるようになる。

 しかし、個々のシロアリは、一定区間を往復しているだけであって、道順の情報を言語的に伝えているわけではない。その学習の仕組を首都圏の鉄道にたとえると以下のようになる。【以下はあくまで長谷川によるたとえであって、番組で紹介されたわけではない。念のため】
  1. スタートを新宿駅、ゴールを東京駅とする。
  2. 当初、シロアリたちは、新宿駅からあらゆる方向に進む(四谷・東京方面、池袋・赤羽方面、中野方面、京王線方面、小田急線方面、渋谷・品川・横浜方面、地下鉄など)。
  3. そのうち、東京駅で好物を発見したシロアリは、御茶ノ水駅と東京駅の間を行ったり来たりする。
  4. 御茶ノ水駅で上記3.のシロアリと出会った個体は、御茶ノ水駅と四ツ谷駅の間を行ったり来たりする。
  5. 四ツ谷駅で上記4.のシロアリと出会った個体は、四ツ谷駅と新宿駅の間を行ったり来たりする。
  6. 新宿駅で上記5.のシロアリと出会った個体はみな、四ツ谷駅方向に向かう。
  7. 四ツ谷駅まで向かったシロアリたちは、四谷〜御茶ノ水間を往復している個体とともに御茶ノ水に向かう。
  8. 御茶ノ水まで向かったシロアリたちは、御茶ノ水〜東京駅を往復している個体とともに東京駅に向かう。
  9. こうして、ますます、正解の経路で、各駅の間を往復するシロアリが増えていき、他の個体たちもより賑やかな経路を通行するようになる。
というようなプロセスで、結果的に、正解となる経路を往復するシロアリが増えるというものであった。
 ちなみに、新宿駅から東京駅までは、上記の中央線快速経由以外にも、地下鉄丸の内線や山手線の内回り、外回りなどで向かうことができる。しかし、最短経路を往復したシロアリのほうがスタート地点のシロアリと出会う頻度が高いため(←最短経路のほうが往復の所要時間が短いので頻度が増える)、結果的には最短経路の通行者が多数派となって、迷路問題が解決されることになる。

 リンク先にも記されているように群知能では、個々のエージェントがどう行動すべきかを命じている集中的な制御構造は通常存在しないが、そのようなエージェント間の局所相互作用はしばしば全体の行動の創発(emergence)をもたらす。おそらく、自由主義経済のもとでの職業にも似たところがある。国民それぞれに職種を割り振らず各自が好き勝手に職種を選んでいても、結果的に、全体としては、相互に助け合うようなバランスが形成されるのである(もちろん、一時的には特定の職業で人手不足が発生するが、そうなればその職業従事者の給与は高額になりいずれは希望者で満たされるようになる。逆に、特定職種に希望者が集中すれば、人余りで失業してしまい、転職を余儀なくされるようになる)。

 番組の終わりのところでは、シロアリやアリの社会では「そうであることは、かならずそうであるべきことと同じ」ということが言われた。いっぽう、人間の場合は、生物的欲求として「そうである」ということと「そうであるべきこと」は大きく乖離している。我々が持った情報の伝搬ルートは、決して遺伝子のアルゴリズムだけで説明できるものではなく、遺伝子ではない情報の伝達ルート、すなわち言葉を持った、言葉を持つことで、人間の興奮は空間も超え、時間も超えて伝達が可能になった、それが人間社会の大きなパワーを生み出している、といったことが説明された。このあたりは、関係フレーム理論で言うところの言語の定義や役割と共通した考え方であるように思えた。

 最後の質疑のところで、(普通のアリは黒いのに)シロアリはなぜ白いのか?という質問が出された。これについては、普通のアリは紫外線による細胞損傷を防ぐためにメラニンで体を守っているというように説明された。

 以上、まことに興味深い話題が続いた。余談だが、私は大学を受験した時には、文学部ではなく、農学部の農林生物を第1志望としていたが、点数が足りずに第2志望に回され、翌年、文学部に転学部した。今回解説者として出演されたM先生は昆虫生態学分野の教授であるが、学部時代はその農林生物学科に在籍されていたようである。私も、入試の時、もうちょっと点数がとれていたら第1志望どおりに農林生物に入れていたはずで、そうなると私も全く別の人生になっていた可能性が高い(←といって、私にはそれほどの発想力も粘り強さもないので、シロアリ研究で画期的な発見ができるほどの力は無かったと思われる。いずれにせよ、定年退職して隠居人になったいま、そういうことをあれこれ考えても受験生時代まで若返るわけにはいかないが。)