じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 9月23日秋分の日の日の出。この日は旭川近辺に朝霧が発生しており、霧の上からの日の出となった。
 秋分の日は太陽が真東から昇ると言われているが、国立天文台の暦によれば、この日の日の出の方位は89.4°で僅かながら北に偏っている。これは、日の出が「太陽の上端が地平線から顔を出し始めた瞬間」と定義されているためと思われる。太陽の中心が昇る方位はほぼ90°になるはず【厳密に言えば、秋分の瞬間と日の出の瞬間が一致した場合に限る】。


2021年9月24日(金)



【連載】『プロジェクトX4Kリストア版』「日本語ワープロ」その2

 昨日に続いて、9月7日にNHK-BSPで放送された、

【2002年9月3日初回放送】#95「運命の最終テスト 〜ワープロ・日本語に挑んだ若者たち〜

の感想と考察。

 番組の初めのあたりでは、平仮名を漢字まじりの文章に変換する困難点がいくつか指摘されていた。
  1. 「わたしははらがすいた」→「渡しは原が吹田」
  2. 「かんきょうおせん」→20秒経っても変換できない
  3. 「きしゃのきしゃはきしゃできしゃする」
  4. 「かれはががくせいです」
  5. 国語学者からは「日本語の文法なんて、学者の数だけある。変換など無理な話だ」と言われた。
 しかし森健一氏は「私たちがこういうふうに喋っているのは、漢字で喋っているのではない。喋っている言葉を全部かな文に直すことができるならば、その逆【かな文字→漢字まじり】もできるはずだ。」という信念のもとに開発を諦めなかった。ちなみに上掲の誤変換などの例であるが、1.〜3.は、いま私が使っているATOKでは正しく変換できた。4.の「かれはががくせいです」だけは「枯れ葉が学生です」となり、「彼は画学生です」とは変換されなかった。

 番組では続いて、変換技術の開発の工夫がいくつかのエピソードから語られた。

 開発メンバーの一人、天野真家氏は、好きな歌謡曲300曲余りの歌詞をコンピュータに打ち込んでいたところ、「ど」という漢字はたくさんあるが、「2度と帰らない」のように数字のあとにつく「ど」は「度」だけに限られていることに気づいた。同様に、「こうあん」という熟語はたくさんあるが「こうあんする」というように「する」がつくのは「考案する」に限られている。但し、この特徴を生かしても変換精度は80%止まりであった。
 森健一氏は、同じ「とうこん」、「しきゅう」は、スポーツ新聞の記者が使う時には「闘魂」や「四球」、医者が使う時には「痘痕」や「子宮」というように、使う人によって、よく変換される言葉が変わってくることに着目し、ユーザーの変換のクセを学習させる機能を取り入れた。
 変換速度の向上に取り組んでいた河田勉氏は、ある夜、疲れ果ててテレビのマジックショーを見ていた時、「事前に仕掛ければいい」というアイデアが浮かんだ。上掲の「かんきょうおせん」の変換に20秒もかかるという問題は、その後いくらプログラムを修正しても11秒どまりであったが、これは、漢字の「かん」が80文字、「きょう」が50文字、「お」が15文字、「せん」が60文字もあって、組み合わせると360万通りにもなることに起因していた。しかし、「かんきょうおせん」をすべて入力してから変換するのではなく、「かん」と入力された直後から変換候補を絞っていけばスピードは大幅に短縮できる。これにより「かんきょうおせん」は3秒以内で変換できるようになったという。

 ここからは私の感想になるが、昨日の日記に記したように、私が本格的にワープロソフト「一太郎Ver.2」を使い始めた1986年頃には、すでに学習機能は搭載されており、その後、熟語変換から文節変換でさらに変換精度を高められていったと記憶している。
 最近ではさらに予測変換機能が充実しており、文字を全部入力してから変換するよりも先に、予測変換で表示された候補から選んで入力することのほうが多くなった。これは特に、タブレットや【私は使っていないが】スマホでの文字入力の際にきわめて便利。もっとも、この機能ばかりに頼ってしまうと、いつも同じ単語が使われることになり、独創的な表現が浮かびにくくなる恐れがあるようにも思う。
 私自身は、このほか、ワープロソフトが普及した初期の段階から、よく使う単語(特に専門用語やHTMLのタグ)を特殊な「読み」で単語登録している。この効率性に関する話題は第1回 ヒューマンインタフェースシンポジウムで発表したこともあった。私は、1997年以来ずっと、「手打ち」でHTML形式の日記を執筆しているが、これは主要なタグを簡単な読みで単語登録しているからに他ならない。

 手書き文書と和文タイプライターの時代からワープロ万能の時代となることで、日本語の文書作成スピードは大幅に向上し、また上掲のような変換機能の応用によって、知的生産能力は大幅にアップしたと思われる。また物忘れがひどくなってきた高齢者にとっては、忘れやすい言葉を単語登録することで瞬時に思い出すこともできる。例えば、「あかいはな」と入力した時に「彼岸花」という名前をが変換されるように登録しておけば、彼岸花の名前を忘れてしまった時にもすぐに思い出すことができる。ま、彼岸花の名前まで忘れてしまった時にはかなり深刻だが、「プセウドランテムム・バリアビレ(Pseuderanthemum variabile)」というような名前は私には絶対に記憶できないので単語登録しておくと便利【←最近では「パステルフラワー」でも流通しているようなのでいくらか覚えやすくなった】。「オステオスベルマム」とか「ヒペリカム・カリシナム」などもすぐに忘れるので単語登録が無難。

 それにしても、こういう知識探索、記憶想起ツールとして変換機能が使えるようになった日本人は、変換機能を持たない欧米人よりも遙かに賢くなったはずなのだが、日本語ワープロが普及した1980年代以降に、日本の科学技術がずば抜けて発展したというような証拠は見られない。あるいは逆に、予測変換機能に頼りすぎて、創造力が乏しくなってしまったせいだろうか。

 次回に続く。