じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 岡山では10月29日の夕方から30日の01時頃まで雨が降ったが、その後は晴れ上がり、日の出前には月齢27の月や、霧に包まれた備前富士(芥子山)を眺めることができた。なお、月はこの日の朝7時50分に最遠。


2024年10月30日(水)




血液型と出身県で病気リスクや体質が分かるか?(10)「県民性」ではなく個々の遺伝子型で

 昨日に続いて、「カズレーザーと学ぶ。」で9月10日に初回放送された、

●血液型と出身県でわかる!最新タイプ別の病気リスク&太りやすい体質の県

についてのメモと考察。今回で最終回。

 放送の終わりのあたりでは縄文人由来の遺伝的変異をどの程度持っているのか、ということが体質をある程度左右していると解説された。

 まずお酒の強さの地域性は縄文人遺伝子の影響であるという。【以下、要約・改変あり】。
  1. お酒を飲むとエタノールが肝臓でアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに分解される。
  2. 気持ち悪くなったり頭が痛くなったりするのはアセトアルデヒドのせいである。
  3. アセトアルデヒドはさらに、アルデヒド脱水素酵素により酢酸に分解される。
  4. 遺伝子の文字の中のある1個がGからAに変異するとお酒が飲めない人になる。
  5. GGはお酒が飲める人、GAはお酒に弱い人、AAはお酒が飲めない人で急性アルコール中毒になりやすい。
  6. 体質は基本的には1個の遺伝子では決まらない。例えば背が高いという特徴には100個以上の遺伝子が関係している。
  7. いっぽうアルコール耐性に関しては、クリアーに1つの遺伝子で決まるという点で珍しい。
  8. 人類の祖先はもともとはアルコール耐性があったが、東アジアでアルコールに弱い遺伝子変異が生まれた。お酒が弱い人の割合は世界的に見ても揚子江【長江】下流域に集中している。
  9. 関西や中国地方にお酒が弱い人が多いのは、大陸から多くの人が移り住んできたためという可能性がある。
  10. ネイティブアメリカンは今のところGGの遺伝子型のみ(お酒が強い)。
 放送ではさらに、縄文人の遺伝子が他の体質にも影響していると解説された。
  1. 縄文人由来の遺伝子を持っている人は、血糖値、高血糖(HbA1c)、中性脂肪という項目で高い値を示す。
  2. 縄文人由来の遺伝子を持っていない人は、今のような食生活のもとでは太りやすくなる。
  3. 前回とりあげた「中性脂肪がたまりやすい遺伝子を持つ人の比率」の地域差もこれを反映している。
  4. 40〜69歳の女性のBMIを都道府県別で比較すると、縄文人由来変異保有率の高さとシンクロしており、特に東北地方が高いという点では共通している。【もっとも図をよく見たところ、縄文人由来変異保有率が比較的低いとされる岡山県、富山県、宮崎県などではBMIが高く、縄文人由来変異保有率が比較的高いとされる静岡県、山梨県、鳥取県などではBMIが引きという逆の結果も示されていた】。
  5. 食習慣の影響をまだ受けていないと考えられる5歳児の肥満率の都道府県別比較も、縄文人由来変異保有率の高さと共通している。【もっとも、図をよく見たところ、縄文人由来変異保有率が低いとされる徳島県、富山県、宮崎県などでは肥満率が低く、縄文人由来変異保有率が高いとされる新潟県、島根県、鹿児島県などでは肥満率が低いという逆の傾向も示されていた
  6. ある程度想像も入るが、縄文人は狩猟採集をしていたので食べ物を採るのが大変だったので脂肪を蓄えやすい体質【倹約遺伝子】のほうが生き残りやすかったという可能性はある。
  7. 弥生人は農耕により炭水化物をたくさん摂れるようになったため、脂肪をためない体質にゲノムが適応していった。
  8. 縄文度合いが低い人には、アレルギーや喘息が多いという遺伝的変異が多いというデータもある、比率が50%を上回っているのは、岐阜県、福井県、三重県、広島県、徳島県、高知県。低いのは新潟県、滋賀県、兵庫県、岡山県、鳥取県、佐賀県、長崎県。【図を一目見た感じでは縄文人由来変異保有率との相関は殆ど無いように見えるが...。
  9. 好酸球(免疫細胞)が多いとか、感染症にかかった時に炎症が起きやすいことなどは、大陸から移り住んだ人の遺伝的変異が現代にも影響しているためと考えられる。あくまで個人的な想像だが、大陸では農耕が始まったことで人口が増え、感染症が広まりやすくなり、感染症に強い変異が蓄積した可能性がある。
 以上をふまえて太田博樹さんは、今回の講義では県別という話をしたが、むしろ個人のゲノムを調べることで遺伝子タイプに合った薬をみつけることで、より効率的な医療が実現できると解説された。カズレーザーさんからも、自分の遺伝子情報を明らかにすることで究極のオーダーメイド治療ができるようになるという可能性が指摘された。
 最後に補足説明として、「今回の話題から悪いものを持っているという印象を持たないでほしい」と要望があった。遺伝的な弱さはみんな持っており、しかもみな歴史的な事情で持っている。悪い変異だから排除しましょうということになったら、みんないなくなってしまう。そうではなくて、みな遺伝的な弱さを持っているのだから補いながら生活することが重要なポイントであると強調された。




 ここからは私の感想・考察になるが、お酒の強さ、中性脂肪の溜めやすさ、肥満、アレルギーなどの特徴を『県民性』と結びつけることにはやはり無理があったように思われる。すでに述べたように、今の世の中ではいろいろな都道府県を移り住む人も多く、出身県がどこかというだけで縄文人度合いを当てることはできない。けっきょく縄文人由来変異保有率が重要ということであるなら、各自のゲノムや出身県以外の別の情報を利用すれば済むことだろう。太田博樹さんもその点はふまえておられたが、民放の番組ということもあってどうしても県民性にこだわりたかったのかもしれない。

 縄文人については、2023年3月9日の日記で、

●「縄文人はスゴい!」のウソホント

という話題を取り上げたことがあった。またネット上でもいろいろと拡散されているように、顔の特徴、(今回の放送でも紹介された)体質などから自分の縄文人度合いを調べることはできる【←インチキなものもあるが】。

 このほか、過去日記をざっと検索したところ、
  • 2016年5月3日NHKサイエンスzero 「No.540日本人のルーツ発見!?〜“核DNA”が解き明かす日本人〜」
  • 2023年2月29日NHK-BSP】新日本風土記『縄文の旅』
  • 2023年5月3日ヒューマニエンス『アート』(5)「アートが争いを抑える?」
などがヒットした。

 なお、縄文人由来変異保有率が高いか低いかということと、自分の祖先が縄文人か弥生人か、ということは区別して考える必要がある。上掲のお酒の強さ弱さの場合もそうだが、我々が両親から遺伝子を受け継ぐ時にはいろいろな組合せがあり、同じきょうだいでも縄文人由来変異保有率が高かったり低かったりというように変化するはずだ。同じきょうだいなら祖先も同じはずなのに、兄の祖先は縄文人、弟の祖先は弥生人などというのは間違った話であることがすぐに分かる。

 もちろん、ある地域にかつて縄文人が多く住んでいた場合、その地域で独自の食文化や飲酒習慣が形成される可能性がある。その後他地域から弥生人が移り住んできても元の文化や習慣が受け継がれていくのであれば「県民性」が生まれる可能性もある。その場合、縄文人由来変異保有率はわずかながら県民性の説明ファクターになるかもしれないが、あまり説得力は無さそう。じっさい、今回の放送で示された女性のBMI、5歳児のBMI、中性脂肪の溜まりやすさなどの県別比較図は、縄文人由来変異保有率の比較図とシンクロしているようにも見えるがかなりの例外もある。東北地方で共通性が高いことで全体がシンクロしているように見えるが相当数の例外もあるので、あまり強調しすぎるとコジツケになってしまいそうだ。結局、これ以上「県民性」と関連づけることには意味は無く、実用的価値も殆ど無いように思われた。ま、研究の方向は「遺伝子タイプに合った個別医療」を目ざすということなので大いに意義深いとは思うが。