じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
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1月14日の明け方、西の空に月齢14.0の月と前々日に地球に最接近した火星が輝いている様子を眺めることができた。このあと12時43分頃に火星食が起こるが、日本では見られない。 |
【連載】チコちゃんに叱られる! 「ひつまぶし」と「ひまつぶし」の見間違えについてのちぐはぐな解説 昨日に続いて、1月10日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
放送では、ひつまぶしとひまつぶしを見間違えるのは「そのほうがお得だったから」が正解であると説明された。心理学を教える有賀敦紀さん(中央大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
放送では続いて、日常のあちこちで我々が無意識に行ってしまう「トップダウン」の事例が紹介された。
ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、今回の解説は全体としては知覚の情報処理に関する知見を分かりやすく伝えてくださるという内容ではあったものの、もとの疑問である「ひつまぶしとひまつぶしを見間違える」理由とはあまり関係のない「ロープをヘビと見間違える」、「粉骨砕身を粉砕骨折と見間違える」といった例が冒頭に出てきて「リスク回避」、「お得だから」と説明してしまったために、ちぐはぐな構成になってしまったように思わざるを得ないところがあった。 ここで、「見間違え」がどのような条件のもとで生じるのかについて思いつくままに挙げてみると以下のようになる。但し複合的に働く場合もある。
●「ひつまぶし」よりも「ひまつぶし」のほうが文字として見た時に馴染みがあるので、素早さ優先で脳がトップダウン処理をしてしまうと考えられる。 というように「馴染みがあるから」と説明されておりこれだけで充分かと思う。いっぽう正解とされた「そのほうがお得だったから」というのは全く関係が無く、蛇足であった。そもそも「ひつまぶし」を「ひまつぶし」と見間違えたところで何かが得になるわけではないし、リスクが回避されるわけでもない。 だいぶ前のことになるが、リスク回避に有用な見間違えに関しては、2012年8月頃に、TEDのトークの中の ●Michael Shermer (2010).The pattern behind self-deception. をリンクしたことがあった。興味深い例が多数紹介されている。 一般論としては見間違え(もしくは正しい判断)は信号検出理論でいう、ヒット、ミス、フォールス・アラーム、コレクト・リジェクションという4通りの結果をもたらす。サバンナや密林のような危険な文脈では、ミスは命取りになるので、フォールス・アラームがあっても無駄にはならない。大地震の警戒や、がん検診も同様。もちろん見間違えがゼロであるにこしたことはないが、より正確に情報処理をしようとすればするほど時間とコストがかかる。外界からの無数の情報をすべて処理するわけにはいかないので、大まかな特徴だけから判断せざるをえない。これは、ATMでのお札の鑑別、あるいは、顔の認識、それぞれの言語における音声処理についても当てはまる。 今回の放送では「そのほうがお得だったから」が正解であると説明されたていたが、何をもってお得であるとするのかもう少し考えてみる必要がある。この意味はおそらく、 ●見間違えた場合(フォールス・アラーム)は得にはならないが、ごくわずかながら見間違えにならない場合(ヒット)もある。ヒットになった時に命拾いできたり大金が獲得できたりすれば、見間違えのコストを考慮してもトータルでお得になる。 という意味かと思うが、人間や動物がそのような損得計算をいちいちやっているとは思えない。そうではなく、 ●外界から取り込まれる情報は無数にあるためすべてを処理するには膨大な時間がかかる。それよりも、短時間のうちに大ざっぱに処理したほうが素早く対応できるという点でメリットが大きい。見間違え(フォールス・アラーム)をどこまで受け入れるのかは、ヒットやミスの場合の結果の大きさに依存する。 というように処理時間を早められることのメリットになるのではないかと思う。また、上にも述べたように、見間違いの起こりやすさは、現場がどのような文脈に置かれているのかに依存する【食物や水を求めているのか、サバンナや密林で危険に晒されているのか、など】。ひつまぶしを食べたいと思っている人が街中で「ひまつぶし」と書かれた看板を見かければ「ひつまぶし」と読み間違える可能性が高まるが、そもそも「ひまつぶし」という看板があるとは思えない。 繰り返しになるが、「ひつまぶし」を「ひまつぶし」と見間違えたところで、何もお得にならないしリスク回避にもならない。単に「ひまつぶし」のほうが熟知語であるゆえに間違えるだけであると思われる。 |