じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 3月6日(土)は一時的に冬型となり、中国地方各地で降雪の予報が出ていた。しかし、さすが「晴れの国」と言われるだけあって、岡山県南部は晴れのマーク。


3月5日(金)

【ちょっと思ったこと】

「告白−私がサリンをまきました−オウム10年目の真実」/刑事の喫煙

 夕食時にいつものようにNHKニュースを視ようとしたら、妻に表記の番組に無理やりチャンネルを変えられてしまった。しかし、刑事役の西田敏行による迫真の演技が光り、結局3時間の大部分を視ることになった。

 最初、オウム事件10年の記録映画のようなものかと思っていたが、ここでは大部分、無期刑で服役中の林郁夫受刑者に焦点が当てられていた。林受刑者がいくら悔恨と謝罪の日々を送ったところで、サリンで失われた命は戻らないし、後遺症で苦しむ人々の快復が進むわけではない。そういう意味では死刑が妥当という考えも捨てきれないが、その一方、林受刑者の告白が事件解明に果たした役割は大きい。また、だからこそ、告白を引き出した担当刑事の活躍ぶりが光ってくるのである。

 林受刑者が心臓外科医を志した理由の1つは、「心臓外科医、ウソつかない」ということにあったという。癌の患者に対しては、医師はしばしば事実を隠さなければならない。しかし、心臓だけは唯一癌になることが無いのでウソをつかなくて済むというわけだ。

 そんな林受刑者がなぜ教団の殺人行為に荷担しウソばかりつくようになってしまったのか、このあたりが大きな謎となるわけだが、番組を視ただけでは、何がきっかけでオウムに入信したのかという背景は今ひとつ分からなかった。

 なお、番組でかなり気になったのが、刑事役・西田の喫煙行為である。西田は、署内のデスクでも、車の中でも、居酒屋でも、また家の中でもしょっちゅうタバコを吸っていた。周囲には非喫煙者もたくさん居た。タバコを吸うという演技は、これまでは何か考え事をする時、疲れ切って放心状態になっている様子を象徴的に描くためにしばしば用いられてきたとは思うが、健康増進法により受動喫煙防止が義務づけられるようになった時代である。少なくとも警察署内のデスクで喫煙するなどというのは言語同断。まさか本物の警察署内でも健康増進法に反する違法喫煙がまかり通っているのではあるまいな。

 なお、上九一色村の捜査現場でも、刑事役・西田が喫煙しながら部下と相談しているシーンがあった。但し、その際の吸い殻はちゃんとポケット灰皿に入れていたことが確認でき、少々安心した。




ミルグラムの「権威に服従する個人」の実験の問題点

 上記のオウム関連番組の中で、刑事が林郁夫受刑者(当時は容疑者)に対して、心理学の本をポケットマネーで差し入れしたという逸話が紹介されていた。その中に、ミルグラムの本が含まれていた。本自体は、ヒットラーに服従したアイヒマンに関する話であったが、ミルグラムと言えば「権威に服従する個人」に関する実験を行った心理学者としてよく知られている。その実験の概略を『目でみる心理学』(河嶋・菅野、鳳書房)から引用させていただこう。
ミルグラム(1963)は,権威に対する同調の実験を行なった。被験者は公募した社会人で,年齢,職業はさまざまであった。被験者は教師の役を割りあてられ,サクラが生徒の役を演じた。課題は対連 合学習で,教師は生徒が誤反応をすれば電気ショックを与えるように実験者に命じられた。ショックは最低15ボルトから最高450ボルト(「危険」というラベルが貼ってある)までにわたり,誤反応をするたびに一段階ずつ上げられた。65%の被験者が,実験者の命ずるままに最高のショックまで与えた。実際にはショックは与えられていないのだが,被験者はショックを与えていると信じていた。【以下略】
 上記は、一般には、善良な市民でも権威に服従し、命じられるままに残虐な行為に荷担する恐れがあることを初めて実験的に示した研究としてよく知られているが、私自身はかなり疑問を持っている。

 まず第一に、被験者は自発的に参加した社会人であって、命令系統に服従する義務を負っていなかったという点。

 第二に、「権威に同調する」というが、何が権威なのか明確でないこと。実験者にそんなに権威があるとは思えない。

 第三に、欧米では、鞭でたたくことが有効な躾になると考えている人も多く、もしかしたら、「誤反応を正すことは生徒自身のためになる」と考えて、生徒(←実際は、さくら)本人のためにあえて罰を与えていた可能性もある。

 ちなみに、この種の実験は倫理的にかなりの問題があり、仮にいま誰かが追試を行っても、学会倫理規定違反でリジェクトされる恐れが大きい。