じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 農学部・農場の紅梅。今が見頃。


2月14日(月)

【ちょっと思ったこと】

中高年の地方暮らし

 2月15日のNHKおはよう日本「まちかど情報室」では『中高年の地方暮らし 手助けします』という話題を取り上げていた。

 番組で紹介されたのは、「地方暮らしを考える中高年などを対象にした下見ツアー」と「沖縄のマンション販売会社が始めた地域説明サービス」というものであったが、放送時間が短すぎたためだろうか、都会から地方に移り住むことを希望する人たちに地方の暮らしのことを詳しく説明しているという程度の内容であり、特に後者については、マンション販売会社の単なる宣伝と大差ないように思えた。

 私の場合、自分の家に住んでいたというのは高校卒業までの18年間だけ。大学入学後はずっと下宿、貸家、アパート暮らしを続けているため「定住」という観念が薄らいでいる。老後はどこかでのんびり定住したいという気持ちもあるが、それも人生全体ではほんのいっときに過ぎない。人生は所詮、仮住まいを転々とするだけであって、私にはもはや「ふるさと」は存在しない。

 東京、京都、長崎、岡山など、いくつかの地に移り住んで思ったことは、住む場所を変えても、そんなに暮らしは変わらないということ。定年退職後も、旅行ができる程度の健康体である限りは、住む場所としては長期間不在にしても安心できるようなセキュリティのしっかりしたマンションのほうが都合がよく、あとは、その時その時の好みに応じて、いろんな場所に長期滞在したほうが変化に富んだ暮らしができるように思う。←ま、そうは言っても、妻の希望もいろいろあり、自分の理想どおりにはならない。結局、なるようにしかならん。

【思ったこと】
_50214(火)[心理]卒論へのヒント(3)卒論試問で思ったこと(1)

 2月14日は終日、卒論試問が行われた。ここでは、来年度卒論生にも参考になるよう、一般性のありそうな感想をいくつか述べておきたいと思う。

 まず、卒論のテーマの選び方であるが、これには大きく分けて2通りある。

 1つは、学術誌の最新号や、最新のリビュー論文、学会の発表抄録集などに目を通し、その中から、いちばん自分の関心の持てそうなテーマを選ぶことである。先行研究の流れが分かり、研究方法もある程度確立されているため、特に大学院進学希望者においては堅実なやり方であると言える。但し、テーマ内容は、研究のための研究になりやすく、現実から遊離し、きわめて狭い学問分野の中での追試、ちょっとしたモデルの改変に終わる恐れがある。
 もう1つは、日常社会の中から一番関心のありそうな問題をみつけてくること。方法はあとから考える。リスクは大きいがこちらのほうがやりがいがある。特に、卒業後に社会に出る人にとっては、こちらのやり方のほうがオススメだ。さまざまな苦労を体験することは、将来似たような困難に直面した時にきっと役に立つはずだ。

 さて、次に今年度の試問の感想。なお、個人情報保護と、一般性を出す必要から、内容の一部は脚色してある。
  1. 実践報告に近い形をとった研究があった。実践報告の場合は、個別の要因操作を行うことは不可能であり、種々の実践のパッケージ全体が成果をあげたのかどうかが問題となる。この場合の成果とは、単に「統計的に有意な差が出た」では済まされない。商品に例えるならば「どれだけ金になるのか」を示す必要がある。仮に実践が失敗に終わっても、「うまくいった人」と「うまくいかなかった人」の見極めについて何らかの発見があれば成功と言える。とにかく、何らかの情報的価値を強調することが大切。単に「こういうことを実践したらこういうふうになりました。やってよかった。参加者も喜んでいます」というだけの報告では、何百、何千もの報告書の1つにすぎず、学術的な成果には繋がらない。ま、そうはいっても、現場の経験を持たない学生が卒論研究という短い期間の中で成果を出すのは困難。実際には「実践報告の練習」レベルにならざるをえない。

  2. 「対人魅力」をテーマにした研究があった。卒論自体は手堅くまとめられており問題は無いが、「はじめに対人魅力ありき」が妥当かどうかについては若干の疑問がある。世の中には「他の人には特段の魅力を感じない」という人だって居るはずだ。「イヤなヤツ」との接触は避けるとしても、ことさらに友人関係は求めず、必要最低限の互助、共存関係を保てばそれでよいという場合、質問紙や面接には答えにくくなるだろう。というか、「魅力」という概念を「相互強化」、「協同行動への強化」といった別の概念に置き換えられないかどうか考えてみる必要もあると思った。

  3. これは他の先生からの指摘であるが、因子分析後の分析は、個々の項目のスコアではなく因子得点をもって分析すべきである。このあたりは、なかなか守られていない。

  4. 最初から概念的枠組みを固定した上で面接調査を行い、その発言をKJ法で分析するという研究があった。しかし、最初から仮説が決まっているのであれば、KJ法を使っても、その枠組みに押し込めて分類するだけであって、新たな仮説生成にはつながらない。こういうケースでは、むしろ、面接を通じて、当該のモデルの作用のメカニズムを明らかにしていくことが大切。

  5. ひいきや自己卑下に関連して、内集団に「自分の大学」、外集団に「近隣の大学」を設定する研究があるが、あまりうまくいかないようだ。大学生にとって、普通、他の大学の学生は単に「別の世界に住んでいる人たち」にすぎず、また自分の大学の学生は単に「周りに居る人たち」にすぎず、それぞれ集団として意識されることはない(←質問で無理やり誘導されれば別だろうが)。大学が意識されるのは、「東大 VS 京大」、「早稲田 vs 慶應」というように、日頃から世間で比較されることの多い場合、もしくは、同じ職場の中で出身大学のことが話題にのぼるような場合に限られていると思う。


 次回に続く。