じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

9月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

[今日の写真]  ヤコウボク。行きつけの花屋で買った処分品を露地植えしたもの。地上部は冬には枯れるが、翌年再び枝を伸ばして写真のような花を咲かせた。ネットで紹介されているヤコウボクとは品種が異なるようだ。また、本来の特徴である「香り」はイマイチ。


9月17日(土)

【思ったこと】
_50917(土)[心理]日本心理学会第69回大会(8)Well-beingを目指す社会心理学(3)死別体験とWell-being

 日本心理学会第69回大会の参加感想の8回目。

 今回は

【9月11日 午後】CP02 Well-beingを目指す社会心理学

の中の

●安藤清志氏の話題提供:航空機事故遺族のWell-being

について感想を述べさせていただく。




 安藤氏は、話題提供の最初のほうで、過去10年以内に死別を経験した人の割合を年齢層別に図示された。年齢層によってバラツキはあるが、その比率は概ね7〜8割にのぼるとのことだった。

 死別というのは、必ずしも歳をとるにつれて確率が増すわけではない。例えば30歳の時に子どもが生まれたと仮定すると、ある人が85歳亡くなる時には、55歳前後の子どもが親との死別を体験することになる。また、55歳前後の人自身の子ども、つまり85歳で亡くなる人にとっての孫は25歳の時に祖父あるいは祖母との死別を体験する。さらに、夫婦の場合、配偶者に先立たれることで死別を体験することになる。両親2名、祖父母4名は、いつかは自分より先に亡くなると考えれば、死別体験が全く無い期間が10年以上続くというのはむしろ稀であることが分かる。

 上記の死別の9割以上は病気や老衰を原因としているが、これ以外に自動車事故死>鉄道事故死>海上事故・遭難死>航空機事故死という順で、思いがけない死に遭遇することがある。いま述べた不等号関係からも言えるように、航空機の死亡事故というのはきわめて希であり、航空機は最も安全な乗り物だとさえ言われている。それだけに、死亡事故は思いがけない出来事であり、また、自分の子どもが巻き込まれることもあるため、そのショックはきわめて大きい。それをどう受け止め、どう立ち直っていくのかというのが今回の内容であった。

 調査対象となったのは1994年に名古屋空港で発生した中華航空機事故の遺族であった。調査は事故発生4年後、8年後、さらに少数ながら11年後にも実施されている。たいへん貴重な資料だ。

 さて、この種の事故は、まず悲惨な破壊状況(当人の遺体の損傷、他の犠牲者の遺体まで)を目の当たりにするという点で衝撃が大きい。その光景やニオイは何年経っても忘れられることができないという。このほか、「喪失の多重性」(当人を失うほか、グループ旅行の場合は複数の知人を失ったり、一家の大黒柱という経済的基盤を喪失するなど)、「回避可能性の認知」(「こういうことがしっかりできていれば事故は防げたはず」といった怒り)、「裁判の長期化」、「死の意味づけの困難」など、病死や老衰と異なるさまざまな心理的苦痛が持続してしまう。それぞれにどう対処していくのかが課題となる。直後のサポート、さらには長期にわたる持続的なサポートが求められる。

 遺族の立ち直りにおいては「遺志の社会化」も重要。要するに故人が目指していたことを引き継いで実現させていくこと、そうすれば、その過程で故人も生き長らえることになる。また、トラウマ後のポジティブな面として、「生の意義の認識」や「人間的成長」を挙げる人もいたという。

 短い時間ではあったが、死別とWell-beingの関係を考えるうえでたいへん参考になるお話であった。

 次回に続く。