じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
理学部前の雪だるま。気温が低いのでなかなか溶けないようだ。こういう雪だるまを見て真っ先に「冬のソナタ」の某シーンを思い浮かべてしまうというのは、冬ソナ病から快復できていない証拠か。


2月8日(水)

【思ったこと】
_60208(水)[心理]サステイナビリティ学が拓く地球と文明の未来(5)総合討論

 東大・安田講堂で行われた

●サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S) 公開シンポジウム:「サステイナビリティ学が拓く地球と文明の未来」
(2006年 2月 4日 (土) 13:00 〜 17:00 東京大学・東アジア研究型大学連合(AEARU)・日本経済新聞社 共催)

の感想の5回目。シンポの最後に、

●地球持続戦略の構築を目指して

という総合討論が1時間20分余りにわたって行われた。パネリストは
  • 進行:花木啓祐氏(東京大学工学系研究科教授)
  • パネリスト
    • 住 明正氏(東京大学地球持続戦略研究イニシアティブ総括ディレクター)
    • 朱 清時氏(←「時」は「日」へんに「寸」)(中国科学技術大学学長)
    • エイモリ・ロビンズ氏(ロッキーマウンテン研究所CEO)
    • 佐和 隆光氏(京都大学経済研究所長)
であった。印象に残った点をメモ代わりに記していくと、

まず、住氏は、地球温暖化問題に関して、今なお「温暖化と言われるが、今年の冬は寒い。本当に大変な状況にあるのだろうか。」とか、完全に予測できるまでは問題を先延ばししてもよいのではないかといった議論があることについて、現在の予測は最善のものであり、やはり対策をとらねばならないということをいくつかの証拠に基づいて主張された(←長谷川のメモに基づくため、文言は不正確)。

 また住氏は、温暖化対策は核軍縮と似通っており、まさに目の前に大問題があり、現在を解決することが将来につながるというようなことも言われた。

 住氏はまた、「やりたい研究より、やらねばならぬ研究がある」、「ゼロから初めてゼロを残す生活」、「モノを貯めずに楽しく暮らす。モノから機能へ」というようなことも言われた(←長谷川のメモに基づくため、文言は不正確)。




 佐和隆光氏に関しては、行動分析と関連のありそうなご発言がいくつか印象に残った(←いずれも長谷川のメモに基づくため、文言は不正確)。
  1. 20世紀は豊かさの追求。21世紀はhappinessの追求。
  2. 経済的手法として、インセンティブを仕掛けてnavigateすることの重要性。
  3. 「より大きく、より速く、より強く」から燃費や効率性重視の開発へ座標軸が転換
このうち2.に関しては、ラルフ・ネーダーが『どんなスピードでも自動車は危険だ:アメリカの自動車に仕組まれた危険 Unsafe at Any Speed:The Designed-In Dangers of the American Automobile』という本を出し、これによりシートベルトやエアバッグ装着、割れたときに破片が飛び散らないようなガラスなど各種の技術開発が進んだが、交通事故は逆に増えたという例を挙げられた。では、安全運転のインセンティブは何かと言えば、ハンドルの真ん中に槍をつけることだという。

 じつはこれに似た話は、行動分析の何かの集まりでも聞いたことがある。上記のジョークの本質は、安全運転という行動に対して、「安全運転をしなければ事故になる」という「嫌子出現阻止」の結果、もしくは「危険運転をすれば事故になる」という「嫌子出現」という結果がきわめて稀であり、ルール支配行動を維持しにくいことを意味しているのだ。ハンドルの真ん中に槍をつけるというのは、「危険運転をすれば直ちに槍に刺される」いう形で、結果の随伴を具体的かつ確実に設定したものと考えることができる。このほか「21世紀はhappinessの追求」というのも、要するに、happinessとは何か、それは、けっきょく、、「Happiness does not lie in the possesion of positive reinforcers; it lies in behaving because positive reinforcers have then followed. 」というスキナーの定義に関わることではないか、そのことがまた、「モノから機能へ」に根拠を与えることにもなると私は考えている。




 大学が貢献できることとして、このほか参考になった点としては、
  • 何が本当に正しいのか、現在の知見をクリアに提供できること。
  • ある種の映画プロデューサーと同じ。単独ではできない。研究の成果が得られればみんなが得をするような仕掛けをつくる。
  • 英国の大学でいちばん難しい専攻は歴史学。著名な政治家には歴史学出身が多い。人文学の素養を身につけることも大切。
  • 北欧や西欧が環境問題に熱心なのは教育水準が高いからだと言われる。日本は表向きは教育水準が高いように思われているが本当は高くない。QOLも低い
  • 学からmovementへ
などがあった。

 なお、上記のような学問の方向転換が、モダニズムからポストモダニズムへの移行を反映しているというようなご発言もあったが、社会構成主義の本などを読む限りにおいては、今回のサステイナビリティ学の構築の動きはまだまだモダニズムの範疇にあるなあという気がした。であるならなおさら、行動科学あるいは行動分析学の貢献する余地が大いにありそう。


 ということで、今回のシンポの感想を終わらせていただく。4時間余りのシンポを通じて、得るところはなかなか大きかった。