じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
博多出張が終わり、岡山駅からバスで戻ってきたところ、大学の南北通りにちょうど日が差し込んでいた。いつもと違って歩道の一部は大駐輪場に。大学祭は5日が最終日。


11月5日(日)

【思ったこと】
_61105(日)[心理]日本心理学会第70回大会(3)心理学界が目指すべき資格制度のあり方(1)

 日本心理学会70回大会の参加感想の3回目。今回は、記憶の新しいうちに、2日目午後に行われた

●心理学界が目指すべき資格制度のあり方〜心理職の国資格化をめぐって〜

について、先に感想を述べることにしたい。なおこの公開シンポの概要は、11月6日朝現在では、こちらから閲覧することができる。

 まず、私なりにこのシンポが開催された背景を復習しておきたい。

 心理職の国資格(→ここでは「国家資格」ではなく「国資格」と呼んでいた)化についての議論は私が学生の頃からあった。日本ではおそらく、「臨床心理士」という資格が心理職の中では一番よく知られていると思うが、誤解も多い。心理学をめざす受験生や指導する高校の先生方の中にも「臨床心理士」はすでに国資格になっていると思い込んでいる人も少なくないように思う。このほか、日本心理学会が認定する「認定心理士」というのも1万人レベルに達している。また、最近では、日本心理学諸学会連合に加盟する学会の中でも、個別もしくは複数の学会の連合による認定協会において、種々の資格を認定しており、その数は20余りにのぼると言われている(こちらのリストから、それぞれの学会のHPにアクセスすると、その学会・関連団体が認定している資格について知ることができる)。なお、私自身も1999年頃から、心理職関連資格についての個人的な考えをWeb日記に述べてきた(こちらに連載としてまとめてある)。

 さて、このような長年にわたる議論がここへ来て急展開の様相を見せてきた背景には、医療心理師と臨床心理士の国資格化の動きがあった。

 以下、今回のシンポで全心協の宮脇氏が配布された資料をもとに、その経緯を私が理解できた範囲でまとめてみると、
  • 昨年1月22日に医療心理師国家資格制度推進協議会が開催され、2月には議員の会が開催され、法案要綱骨子案が具体化された。
  • 4月には、今度は、臨床心理士国家資格化をめざす議員懇談会が発足。その後の種々の協議の中で「2資格一本化」、さらに種々の議論があって、一本化ではない「2資格1法案」が固まる。2005年7月5日には、自民党両議連総会で「2資格1法案」が承認される運びとなった。
  • ところが、その後、7月中旬以降になって、主として医師団体から疑義が表明され、当時の政局(郵政民営化法案関連の衆院解散)とあいまって、とうとう7月27日には国会上程が断念された。
  • その後12月以降に、医療心理師国資格化を推進する団体と臨床心理士会の代表の間で話し合いが行われ、また、日本心理学諸学会連合より資料が求められるなか、4月より諸学会連合資格制度検討委員会にワーキンググループが設置され、その後、10月以降に各種シンポなども開催され、臨時国会で法案成立を目ざすとの動きも加速してきた。
ということになろうかと思う(あくまで長谷川の解釈)。




 こちらの資料にもあるように、今回のシンポは、「医療心理師」と「臨床心理士」それぞれの国資格化を推進して来られた方々お二人ずつから話題提供をいただき、日本心理学会の会員および関係者の間で情報の共有を測ろうというのが目的であった(と、少なくとも私は受け止めている)。なお、この企画はあくまで「○○を推進してきた方の、個人的な見解」をうかがうという趣旨であり、2団体代表の公開討論会では決して無かったという点を付記させていただく。




 まず率直に感想を述べさせてもらえば、「医療心理師」を推進するお立場の方々は、

医療現場においてなぜ医療心理師という国資格化が必要なのか

という点について納得できる説明をしてくださったように思う。いっぽう、「臨床心理士」を推進するお立場の方々は、もっぱら、「臨床心理士」という認定資格の成立の経緯や現状、社会的貢献をアピールする内容となっており、これまでに各方面から表明されている疑義に対しては具体的な回答・説明をあまりされていないような印象を受けた。臨床心理士の方々がこれまでに果たしてきた役割がきわめて大きいこと、きわめて質の高い心理職養成のためにはご尽力されてきたことは誰しも認めるところだとは思うが、残念ながら

心理学関連の諸学会が種々の資格を認定している中で、なぜ「臨床心理士」だけを国資格化をする必要があるのか。規制緩和の流れの中で、国の関与は最小限にとどめるべきではないか。民間資格のままで各種資格認定団体が互いに切磋琢磨し質の向上につとめ、ユーザー側に選択の権利を与えることが大切ではないか。

という疑問には明快には答えてくれなかった、という印象を受けざるを得なかった。

 次回に続く。