じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



2月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
[今日の写真]

 2月22日付けの楽天版じぶん更新日記に、アニソドンティア・マルバストロイデスの写真を掲載した。花の形が芙蓉や葵に似ているため、夏場に咲いている時は「小型の芙蓉ですか?」などと言われてしまうが、周年咲きであるという点が大きく異なっている。ここに掲載した写真にあるように、芙蓉は2月には種をつけているのみで花は咲かせていない。



2月22日(木)

【ちょっと思ったこと】

ウィキペディア記述内容の信頼性

 2月23日付けの朝日新聞に

●ウィキペディア頼み、誤答続々 テストへの引用を禁止 米名門大

という見出しの記事があった(2月23日朝の時点ではアサヒコムから閲覧可能。但しネット記事の見出しは「ウィキペディア頼み、誤答続々 米大学が試験で引用禁止」となっている)。

 伝えられた事実は
米バーモント州にある名門ミドルベリー大学の史学部が、オンラインで一定の利用者が書き込んだり修正したりできる百科事典「ウィキペディア(英語版)」を学生がテストやリポートで引用することを認めない措置を1月に決めた。
というもの。

 昨年12月、日本史の学期末テストで、20数人のうち数人が島原の乱について「(島原の乱で)イエズス会が反乱勢力を支援した」という誤答を書き、その原因さぐったところ、ウィキペディアの当該項目に誤った記述(←現在はすでに修正済み)があり学生たちがそれを鵜呑みにしていたことが判明。このことが措置導入の一つのきっかけになったという。

 引用を禁止する理由は
学生は自らの提供する情報の正確さに責任をもつべきで、ウィキペディアや同様の情報源を誤りの言い逃れにできない
というものであり、「同様の情報源」とはウェブ上にあって多数の人間が編集することができ、記述の正確さが担保できない情報源を指すそうである。




 この記事では、ウィキペディアからの引用に関して3つの批判点が伝えられている。
  1. 記述内容に誤りがあった。
  2. 学生が、記述内容を鵜呑みにして引用(もしくは教材として利用)してしまった。
  3. ウィキペディアのように、ウェブ上にあって多数の人間が編集することができ、記述の正確さが担保できない情報源は、学術資料として信用できない。
 このうち1.の点だが、記述内容の勘違いなどというのは誰にでもあることだ。朝日新聞や朝日新聞社が発行する書籍のほうがウィキペディアより正確であるという保証は一切ない。図書館の百科事典だって同様。そういう意味では「ウィキペディア頼み、誤答続々」という見出しは、それ自体、事実をゆがめているようにも思う。20数人のクラスのうち数人が誤答したことがなんで「誤答続々」と言えるのだろうか。

 2.の点は、学生側の勉学姿勢にある。出典が何であれ、引用する際には、その内容が本当に正しいかどうかを疑ってみるというクリティカルシンキングの視点がぜひとも必要である。

●ウィキペディアに書いてあったから、誤答の責任は自分には無い。

という責任逃れが赦されないのは当然であるが、「○○教授がそれでよいと言ったから」とか、「○○先生の著書にそのように書かれてあったから」などが責任逃れにならないことも同様である。要するに、ウィキペディアだからダメだということにはならない。

 最後の3.であるが、確かに、執筆責任の所在が特定できない匿名記事というのはイマイチ信用できないところがある。しかし、ウィキペディアのように、不特定多数の読者から常時閲覧されている情報であれば、ほんのちょっとした記述ミスでもすぐにツッコミが入るはず。逆に言えば、もしウィキペディアで、誤った記述項目が長期間放置されていることがあったとしたら、それは、
  • 誤った俗説がまかり通っていて誰もその過ちに気づかない。
  • 関心度の低い項目であって、ごく少数の素人読者にしか閲覧されていない。
のいずれかではないかと思う。




 査読つきの学術雑誌論文でも、統計解析の誤りなどというのはけっこう頻繁に見られるものだ。通常、査読は、編集委員長が指名した2名のレフェリーによって行われる(意見が分かれた時はもう1名追加)が、査読者が2名とも誤りに気づかなければそのまま掲載されてしまう。論文の中にはあまり注目されず、執筆者と編集者と査読者以外は誰も目を通さないままに製本されて書庫に眠ってしまう論文も少なくない。それよりも、常日頃からネット上で閲覧・監視を受けているコンテンツのほうが正確である可能性もある。「誤答」の原因となった「島原の乱」は英語圏では関心度がきわめて低く、不特定多数からのツッコミが入りにくい項目であったのだろう。

 ウィキペディアは、多様な視点を公平に紹介するという点、俗説にもちゃんとツッコミを入れているという点で、優れている面も多いように思う。例えば、「サンタクロースの服はなぜ赤いか」というと、テレビの雑学番組ではすぐに「コカコーラの宣伝由来説」を紹介したがるが、ウィキペディアの当該項目ではちゃんと、
現在のサンタクロースのイメージはニューヨークの画家、トーマス・ナストが19世紀に描いたものが元となっており、“コカ・コーラ社を起源とする逸話”は、完全な間違いである。
として、この俗説を否定している。先の東京マラソンに関しても、ウィキペディアの当該項目ではちゃんと批判点を紹介している。このあたりはスポンサーの顔色を窺う民放各局よりは公正であると言えよう。




 いずれにせよ、ネット記事であれ図書館蔵書であれ、記述内容を鵜呑みにすることは禁物である。もっとも、ネット記事からの盗用、剽窃があれば検索ですぐにバレる。私の授業のリポートなどでネット・コンテンツを丸ごと無断転載していたら、発覚次第、即刻、単位認定取り消しとするのでご留意願いたい。