じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
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月齢12.8の月にかかる飛行機雲。岡山市の上空は主要航路にあたっており、夜空を見上げれば必ずどこかに飛行機を見つけることができる。しかし、飛行機雲と月が重なるチャンスというのは、滅多に見られないものである。なお、月の近くには土星も写っている。 |
【ちょっと思ったこと】
「遅刻が多いと地獄直行」はどこがいけない? 各種報道によれば、川崎市立の中学校で、2年生の学年主任の男性教諭(48)が昨年9月から12月まで、遅刻者への指導として、「地獄へ直行」などと書いた紙を廊下に張り、生徒名を書いた付箋を付けていたことが分かった。この男性教諭は、遅刻した生徒を回数に応じ、「イエローカード」「レッドカード」「家へ電話」「校長面談」「地獄へ直行」と5段階に分け、実名を付せんに書いて張っていた。7、8人の名が張り出されたが、「地獄へ直行」はいなかったという。 このことについて3月1日、校長が全校生徒に謝罪、男性教諭はそれより前の2月末に、2年生に「遅刻を減らそうとしたが、間違った指導だった」と謝罪したという。 また市教育委員会も「不適切な対応」として再発防止を指導したという。 この記事は各種ネットニュースでも取り上げられ、Googleで「遅刻 地獄直行」のキーワードで検索すると3月3日朝の時点ですでに14万1000件もヒットするから相当なものである。 しかし、改めて考えてみるに、いったいこの指導のどこが間違っていたのだろうか? 可能性として、
次に2.だが、これもその学校内部の事情次第だろう。ただし、一般論として、「望ましい行為」を行った者の実名を挙げて表彰することは社会的強化という点で有効であるが(現に、卒業式の時に「皆勤賞」や「精勤賞」の表彰を行う学校は多い)、「望ましくない行為」を行った者の実名を晒して罰的に統制しようとしても、行動の改善には繋がらず、むしろ、罰を避けるための抜け道探しや、居直りをもたらすだけになることが多い。 少し古い話で恐縮だが韓国ドラマ「冬のソナタ」の第一話の冒頭は、ユジンがバスの中で居眠りをして遅刻するシーンから始まる。校門ではゴリラと呼ばれる怖い先生が検問をしていて、遅刻した男子生徒には腕立て伏せ、女子生徒は両手を上げたまま正座させるという罰が与えられるのだが、この罰的統制はどうやら、遅刻行動の改善には効果を発揮していないように見えた。現に、ユジンやチュンサンは、その次の検問時に、罰を逃れようとして校門から離れた塀を乗り越えて校内に入ったのであった。 しかし、とにかく、私が一番間違っていると思うのは、3.で指摘した点である。「指導」の目的はあくまで遅刻を無くすことにあるのだが、そもそも、遅刻というのは、死んだ人でもできるので行動分析学上で定義される「行動」には当てはまらない(不幸にしてその日の朝に突然死した人でも、遅刻、というか欠席することはできる)。このWeb日記でも何度か取り上げたが、遅刻の本質は、 ●「決められた時刻までに登校する」という行動が起こらないこと である。したがって、教育現場で求められるのは「遅刻したら罰」ではなくて、どうやって、決められた時刻までに登校できるようになるかを、個々人の事情に合わせてきめ細かく指導することである。例えば、上掲の「冬のソナタ」でユジンが遅刻常習犯であるのは、通学途中にバスの中で居眠りしてしまうことに原因があった。この場合、まず、睡眠をたっぷりとるような、規則的な日課を守る行動を強化する必要がある。また、バスに乗った後で居眠りしてもよいよう、到着予定時刻に合わせて腕時計のアラームを鳴らすということも一案である。とにかく、遅刻の多い生徒については、それぞれの原因を具体的に把握し、「定時までに登校する」という具体的行動形成に向けて個人個人に応じた改善策を講じなければ効果は上がらない。それを怠って、単に「実名公表」、「格付け」、「地獄直行」といった罰的統制だけで目的を達成しようとした部分に、教育上至らない部分があったというのが「不適切な対応」の本質であると私は思う。 |