じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
【思ったこと】 _90806(水)[一般]裁判員制度について考える(8)あまりにも騒ぎすぎ、裁判員のプライバシーへの配慮なさすぎ 6月16日の日記の続き。 各種報道によれば、全国で初めての裁判員裁判が東京地方裁判所で4日間の日程で開かれ、8月6日の最終日、6人の裁判員と3人の裁判官が、殺人事件の被告の男に懲役15年の判決を言い渡した。 このことについて私が感じたのは、
この日の19時のNHKニュースでは裁判員裁判がトップで伝えられた。しかし、世の中のことを広い視野で冷静に考えるならば、8月6日における最も重要なニュースは広島被爆64年であり、核廃絶の誓いを新たにすることではないか。特に今年はオバマ大統領が登場し、核兵器廃絶を実現できる可能性が非常に高くなっている。平和祈念式を単なる年中行事のように扱ってはならない。 全国で初めての裁判員裁判というのは確かに話題性があり視聴率を上げる効果はあるかもしれないが、裁かれる犯行自体は、過去の殺人事件と比べて特別に注目しなければならない内容を含んでいるわけではないし、これから先に次々と行われる裁判員裁判のテストケースというわけではない。そもそも、今回の裁判はそれ自体独立して評価されるべきものであって、これから先の裁判の試行段階ではない。現実に人が殺されていて、しかも、判決内容は被告の将来を左右する重大な決定である。「今回は不備があったから次回の別の裁判では改善しましょう」などというような曖昧さは決して許されない。裁判の過程に少しでも不明点があったとすれば、その裁判はさらに審理を続けるか、もしくはやり直しをするべきである。初めに日程ありき、というのでは公正な裁判は期待できない。 次に第二の点であるが、今回は、裁判の進行中から審理の様子が事細かに報じられていた。そこでは、裁判員が質問をしたかどうか、誰がどういう質問をしたのかという情報まで伝えられていた(産経新聞の「初公判 法廷ライブ」、あるいはNHKの「同時 進行裁判員裁判」参照)。 初の裁判員裁判 候補者が見て感じたものはというアサヒコム記事(8/6)の中で、候補者が こんなに大騒ぎになるとは思わなかった。裁判員の一挙一動がテレビで報じられ、裁判所も厳戒態勢。もしも自分が裁判員になっていたら、おかしな質問をして赤恥をかいたんじゃないか、と急に自信がなくなってしまいました。と語っておられたのも納得できる。 裁判の終了後、裁判員をつとめた人たちの会見が行われた。7人全員(補充裁判員1名を含む)が会見に応じ、このうち5人がカメラの撮影に応じた。この時の様子は8月7日朝の時点で、NHKの「同時 進行裁判員裁判」のサイトから動画で拝見することができる。 裁判員の個人情報は保護されることになっているはずだが、審理中の発言と、動画に映し出されたお顔、また紹介された年齢や職業などを総合すると、少なくとも裁判員をつとめた方の同僚や知人には固有名詞が特定できてしまうし、審理中のライブ情報と合わせれば、誰がどういう質問をしたのかまで分かってしまう。 今回は、犯行の証拠がそろっており被告自身も犯行を認めていること、さらに、求刑が死刑を含んでいなかったことから、裁判人になった人が将来嫌がらせを受ける心配はあまりないと楽観できる。しかし、もしこれが、「死刑にするべきかどうか」、「本当に犯人なのか、それともえん罪なのか」という議論を含んでいたとしたら、こんなことでは済まされないだろう。裁判人の個人情報が流出した時には、死刑廃止、死刑存続それぞれの立場の人の中の、ごく一部とはいえ悪意をいだいた人から終生、執拗な嫌がらせを受ける恐れも否定できない。国家は、そういう被害から裁判員経験者を保護できるのだろうか。 老婆心ながらもうひとこと言っておくと、裁判員をつとめた人たちの会見は、当然、それに応じた人たち(=会見やカメラ撮影を受諾した人たち)によって行われたというが、応じるか応じないかという判断は、そのときの一時的な感情や「勢い」、外部の状況・文脈によっても左右されやすいものだ。私自身はネット上でWeb日記を12年以上続けているけれども、私と同じ頃に書き始めた人たちの中には、個人情報の流出を恐れたり、実際に嫌がらせを受けたりしたために、Web日記の更新(エントリー)を終了してしまった方が何人もおられる。そういう人たちの場合、少なくともWeb日記を書いている時には、こういうことが世間に知れ渡っても問題ないと考えていて、自分や妻や子どもたちの写真を載せたりしていた。しかし後になってそれを公開したことの重大性に戸惑い、Web日記界から離脱(もしくは全く別のハンドルでこっそり再登場)していったのである。ネット上であれば、サイトを閉鎖することで被害を最小限に食い止めることができるが、テレビで放送されてしまった映像は二度と消すことができない。今回は大丈夫だとは思うが、今後、「死刑にするべきかどうか」、あるいは「本当に犯人なのか、それともえん罪なのか」という議論を含むような審理を余儀なくされた場合は、裁判員になった人はずっと先のことまで考えて会見に応じるたほうが無難であると思う。 なお、今回の裁判員裁判では
[※8/7追記] NHKの動画サイトによれば、裁判所に来た47人の候補者は、まず「被告や被害者と特別の関係があるか」「自体を希望する理由はあるか」といった質問票に記入したあと、個別に裁判官、検察官、弁護士同席で、面接が行われるという。今回の場合はこの段階で辞退を希望する候補者が2人おり、2人とも辞退が認められたという。 不定期ながら次回に続く。 |