じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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2012年版・岡山大学構内の紅葉(3)三大イチョウ並木の黄葉情報。
  • 写真上:農学部東西通り
  • 写真中:岡大南北通り
  • 写真下:農学部・薬学部南北通り
南北方向の並木のほうがだいぶ色づいてきた。

10月16日(火)

【思ったこと】
_c1016(火)「選択」について考える授業(4)Barry Schwartz:The paradox of choice.(2)

 10月15日に続いて

 Barry Schwartz (2006).The paradox of choice.

についてのコメント。昨日も述べたように、Barry Schwartzは著名な実験的行動分析研究者であるが、今回のプレゼンでは実験研究は一切引用せず、もっぱら、「選択肢が多すぎるとこういう困ったことが起きる」という日常生活上の事例をいくつも挙げて、聴衆に納得させながら論を進めるというスタイルをとっていた。実証研究として紹介されたのは、たぶん、定年退職者の投資行動についての調査だけであり、そこでは、投資ファンド会社が提示する投資信託が10種類増えるごとに 参加率が2パーセント落ちるというような結果が示されていた。

 Barry Schwartzは、たくさんの選択肢があることには良い面と悪い面があるが、良い面はみんな分かっているのでここでは悪い面を取り上げること(=選択肢が多いことが絶対に悪いと言っているわけではない)、また、ここで指摘したことは物に恵まれた西洋の産業社会特有の現象であり世界全体では必ずしも多すぎるわけではないこと、などを断った上で、選択肢の氾濫は、
  • 無力感(Paralysis)を生む。
  • 決断の結果に対する満足感は低下。
  • 別の選択肢との比較。それを選ばなかったことへの後悔。
  • 期待値の際限ない増大。
  • 選んだ結果が悪かった場合、自責の念にとらわれる。
といった弊害があることを指摘した。そして、ある程度の大きさは必要だが、金魚鉢のような、選択肢の限られた世界が必要であること、また金魚鉢をたたき割ってしまっても自由や満足感は得られないことを強調した。

 アイエンガーと異なり、Barry Schwartz、選択肢の数や「金魚鉢比喩」のサイズがどのくらいの大きさであれば最適であるのかについては殆ど論じていない。また、せいぜい「幸せになる秘訣はあまり期待しないこと(The secret to happiness is low expectations. )」と言っている程度で、選択の技法については特段の考えを持っていないようにも思えた。選択の議論の枠内ではなく、「Practical wisdom」の思想を広めることのほうを重視しているためであろう。

 次回に続く。