じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
アテネの地下鉄。
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【思ったこと】 140820(水)2014年版・高齢者の心と行動(2) 今年度版の講演の冒頭はこんな感じになるかと思う。【以下、ですます体】 今回は、時間が限られていますので、「高齢者の生きがいを保障するための条件、それに関係した選択(チョイス)の効用」を中心に、心理学(行動分析学)の視点からお話をさせていただこうと思います。 まず、「生きがい」という言葉ですが、英語ではこれにピッタリ対応する言葉が無く、普通は「well-being」や「happiness」が使われているように思われます。厳密にはいろいろな差異があるとは思いますが、今回は、「いま幸せであり、将来に向かっても深刻な不安が無い状態」という程度で漠然と定義しておきたいと思います。 もっとも、これが揃ったら確実に「生きがい」や「幸せ」が実現するというような十分条件を語ることは困難です。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者として知られるダニエル・カーネマンが、TEDスピーチの冒頭で、 Everybody talks about happiness these days. I had somebody count the number of books with "happiness" in the title published in the last five years and they gave up after about 40, and there were many more.と述べているように、古今東西を問わず「Happiness」への関心はきわめて高いものがありますが決定打はありません。じっさい、「あなたはこうすれば幸せになります」などとまことしやかに演説するのはカルト宗教か、悪徳商法の勧誘員くらいなものでしょう。 私はカルト宗教とも悪徳商法とも無関係ですので、これが揃ったら確実に「生きがい」や「幸せ」が実現するというような十分条件を語ることはいたしません。十分条件ではなくて、あくまで必要条件、つまり、「生きがい」や「幸せ」が実現するためには、このことがぜひとも必要だというお話をさせていただこうと思います。 さて、私のお話しは主として、心理学の一分野である行動分析学の考え方に基づいています。残念ながら日本では、心理学というと、フロイトやユング、最近ではアドラー心理学に関心が集まるいっぽう、行動分析学の創始者であるスキナーのことは殆ど知られていません。しかし、アメリカでは、肯定的評価か批判的評価は別として、20世紀の最も傑出した心理学者(Eminent psychologists of the 20th century.)として知られています。【ランキングは、アメリカ心理学会。出典は、Source: The Review of General Psychology (Vol. 6, No. 2).。こちらから無料閲覧可能。こちらに紹介記事あり。】 そのスキナーは、1979年の来日の際、Happinessについて次のように語っていました。【なお、「スキナー 来日」で検索すると、最近では「ジェームス・スキナー」がトップにヒットしてしまいますが、これは全く別人です。ここで挙げているのは、心理学者のバラス・スキナーのことです。】 Happiness does not lie in the possession of positive reinforcers; it lies in behaving because positive reinforcers have then followed.これを、かなり意訳すれば、 好子(positive reinforcers)自体を手にしているだけでは決して幸福にはなれない。好子出現によって強化されているような行動の中にこそ、真の幸福(生きがい)がある。さらに意訳すれば、 モノをいくら手に入れても幸福にはなれませんよ。幸福というのは、行動することで初めて得られるものです。といっても、徒労や強制労働は含まれません。結果として好子が出現するように強化されている行動の中にこそ真の幸福があります。あるいは、 いくら、好子、好子と追い求めても、真の幸福をもたらす好子など決して存在しません。いっぽう、がむしゃらに行動するだけでも幸福にはなれません。「行動」と「好子出現」がセットになって初めて、真の幸福(生きがい)を実現させることができます。とも言い換えることができます。【詳しくは、こちらの講義録の第三章その1を参照されたい。】 次回に続く。 |