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時計台近くのトウネズミモチの花。11月には黒い実をつける。 |
【連載】 行動分析学用語(第3期分)についての隠居人的独り言(2)「提示」と「除去」 昨日に続いて行動分析学用語(第3期分)の話題。今回は、リストの中の「提示型強化子」、「除去型強化子」、「提示型弱化子」、「除去型弱化子」といった訳語のうちの「提示positive」、「除去negative」について独り言をつぶやくことにしたい。 各種の入門書で解説されているように原語の「positiveポジティブ」とか「negativeネガティブ」というのはそれぞれ「プラスする」、「マイナスする」という意味であった。しかし、「ポジティブ」という言葉には「肯定的」、「積極的」、「ネガティブ」には「否定的」、「消去的」というようなニュアンスがありそのままカタカナで使うと誤解を招く恐れがあった。伝統的な訳語「正の」「負の」にも「負の遺産」「負の側面」というように「悪い」、「望ましくない」といった印象を与える恐れがあった【「正の数」、「負の数」というように純粋に数学的意味に限定するのであれば誤解は起こらないだろうが。】 ということで、positiveを「提示型」、negativeを「除去型」と訳すことは、誤解をさける効果があるという点では賛成できる。しかし、「提示」とか「除去」というのはあくまで実験場面や日常の生活場面で、人間が他者に対して行う行動に限られている。強化や弱化は人間が手を加えない自然界でも同様に起こることを考慮に入れるならば、
なお、ここでさらに留意すべきことは、何かが出現するとか消失するというのは、あくまで機能的に定義されるものであり、行動主体が具体的に関われる形でカテゴライズされなければならないという点である。物理的なエネルギーや質量の増減には必ずしも対応していない。 よく挙げられる例として、「ストーブに火をつける」、「冷房スイッチを入れる」という行動を強化する随伴性がある。物理的に言えば、ストーブに火をつけるというのは、室内に熱エネルギーを出現させる結果をもたらすように見えるが、行動的に言えば、「室内の寒さを消失させる」という随伴性に該当すると考えるべきである【長谷川版・行動分析学入門の中の発展学習05-1「好子出現」と「嫌子消失」の区別を参照】。 このほか、横断歩道の「青信号点滅」もよい例になりうる。物理的に言えば「青信号の点滅」というのは「青いライトの出現と点滅」であるが、行動的に言えば、「点滅」というのは1つの刺激のタイプであって、「点滅刺激」が出現することで、それが弁別刺激となって、「急ぎ足で歩く」といった行動が起こりやすくなると考えるべきである。 次回に続く。 |