【小さな話題】#大学入試 についての隠居人的独り言
大学入学共通テスト(新テスト)のニュースがテレビやSNSで話題になっている。最近耳にしたニュースとしては、
- 大学入試英語成績提供システムの導入延期
- 英語のリーディングとリスニングの配点を均等に
- 国語と数学の記述式問題についての議論
などがある。定年退職から1年半が過ぎた隠居人の私ではあるが、何らかの参考にしていただければと思いつつ、いくつか独り言を述べたいと思う。
- 記述式問題よりも、基礎学力の確認が大切。記述式スキルは大学入学後に高めればよい。
これは私の全くの主観だが、
- 現行のセンター試験で90%以上の得点が取れるような受験生であれば、記述式問題でも相当程度の成績をあげることができる。選抜段階で、わざわざ、記述式問題のテストを行う必要はない。
- 現行のセンター試験で70%程度の得点が取れる受験生の中には、入学後に卒業論文で苦労する場合があるが、それを指導するのが大学教育の役割である。
- 現行のセンター試験で50%以下の得点しか取れない受験生は、まず基礎学力を高めることが先決。記述式対策に取り組む余裕はない。
- センター試験の得点では合格できないが、記述式問題で優れた能力を発揮できるような受験生に対しては、推薦入試やAO入試など別の機会を与えればよい。
ということで、わざわざ、多大な時間と人件費をかけてまで記述式問題を導入するメリットは全くない。
- 英語リスニングテストは不要
2007年1月21日の日記にも述べたことがあるので、以下に転載しておく。
【リスニングテストの】こういう問題を、スクリプトで出題した場合【リスニングで聞かせる音声をすべて文字に直して問題用紙に印刷して出題した場合】と、音声で出題した場合で、正答率にどれだけ差があるのだろう?という点にある。
例えば、Question No.2は、男性のお客が
●Can you show me that tie with circles under the stripes?
というように店員に頼んでおり、こちらに図示された4つのネクタイのうちどれかということが問われている。
この問題に答えられるためには、「tie」、「circles」、「stripes」の意味と、「under」という位置関係を理解できる必要があるが、それらの意味を知らない受験生は、いくら鮮明な音声を聞いても答えられないはず。では、これらの意味を知っていて、音声では聞き取りができなかったという受験生がどれだけ居るのだろうか。もし、リスニングテスト成績が、単語力や文法理解力と100%の相関があるとしたなら、わざわざお金をかけて、また、そのために多くの監督要員をストレスに晒してまでリスニングテストを実施する必要は全く無い。いっぽう、リスニングテストを実施しなければ測れないものが単なる音声識別力であったとすると、そういうことで点数に差をつけることがセンター試験としてふさわしいのかという議論が出てくる。このあたりは大学入試センターでもちゃんと分析しているはずだとは思うが、どうなっているのだろう。
「リスニング能力が大切だからリスニングテストを実施すべきだ」というのは、テストとはどういうものかを知らない人の主張である。テストというのは何かを測り、それをもって差をつける手段なのである。リスニング能力が大切であるとしても、それが別の物差し(例えば、音声を伴わない文字だけのテスト)で十分に測れるのであればわざわざ実施する必要はない。
このほか、入試段階で、ネイティブのしゃべる英語を聞き取る力が本当に必要かどうか、も考えてみる必要がある。そもそも、大学入学後に必要とされる英語力としては、英語の論文や報告書を正確に読み取れることが第一。日常英会話が達者でも英語論文が読めないのでは教育ができない。また、英会話で必要とされるのは、早口の英語の聴き取りでもないし、ネイティブそっくりに英語を喋ることでもない。もっと重要なのは、英語が母語ではない外国人とコミュニケーションがしっかりできることであり、これは、相手の気持ちを読み取ったり、相手が分からない英単語を別の分かりやすい単語に置き換えたりする能力であると思うが、一方的に流されるリスニングテストではそれは測れない。
また、大学院になると、自力で英語論文を書いたり、国際学会で英語による研究発表をする力が求められるようになるが、これは大学に入ってから、そういう必要がある学生対象に徹底指導をすればよいのであって、大学入試段階で測るべき力ではない。
- 素点ではなく偏差値で
最近も「英語のリーディングとリスニングの配点を均等にする」といったニュースを耳にしたばかりであるが、そもそも、配点を同じにすることと、2種類のテストを同程度に重視していることは別の問題である。
例えば、ある大学の入試で、英語と数学の配点が100点ずつであったとする。外見上、英語と数学の力は均等に重視されているように見えるが、じつはそうではない。もし、試験の結果、英語の平均点が80点で標準偏差が5、数学の平均点が50点で標準偏差が30であったとすると、入試の倍率にもよるが、その大学に合格できるかどうかは殆ど数学ができるかどうかで決まってしまう。
これは、小論文とか口述試験の配点の場合も同様である。センター試験の合計の配点が100点、小論文の配点が500点であると、小論文の得点だけで殆ど合否が決まってしまうように見えるが、もし小論文の採点結果で殆ど差がついていないのであれば、じつは、センター試験の得点が合否を左右していることになる。もちろん、これはその大学の実質倍率にもよる。受験生の大部分がセンター試験で90%を得点しているような場合は、小論文の結果が合否に大きく影響する。そのいっぽう、殆ど全入に近い大学であれば、小論文を白紙で提出しない限りは、得点がどうあれ合格するだろう。
しかしいずれにせよ、「2つのテストの配点を均等にする」ことと「2つのテストで測れる能力を同程度に重視している」というのは別問題。同程度に重視するのであれば、出題者や採点者は、2科目の標準偏差が同じになるように配慮するか、もしくは試験後に各受験生の偏差値を算出し、素点ではなく2科目の偏差値合計をもって合否を決めるべきかと思う。
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