じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 「接写で楽しむ雑草の花」。今回は、タチイヌノフグリ。私が子どもの頃からよく見かける雑草だが、オオイヌノフグリほどには繁殖していないようだ。

2021年4月24日(土)



【連載】サイエンスZERO『びっくり!魚は頭がいい』その2 「相手の顔を識別する行動」

 昨日に続いて、4月18日に放送された『びっくり!魚は頭がいい』の感想と考察。
 番組では、「お魚ショー」に続いて、大阪市立大学・幸田正典教授の研究室が紹介された。幸田研究室では、さまざまな行動実験により魚の知的な能力をいくつも発見しているが、番組ではまず、アフリカの湖に棲む魚に互いを正確に見分ける能力があるという実験が取り上げられた。湖の浅瀬で暮らす魚たちは縄張りを作る習性があるが、見慣れた相手には寛容であるいっぽう、知らない相手には攻撃を加える。このことから、魚たちは相手を識別する能力があると推測される。
 番組で紹介されたプルチャーという魚は、個体ごとに顔の模様が異なっている。そこで、魚の顔の写真を編集し、相手を見る時間を比較したところ、知っている顔の写真を見る時間は8秒前後、知らない顔の写真を見る時間は30秒前後であり【数値はグラフからの読み取りのため不確か】、知らない顔を警戒し、より長い時間見ていることが分かったという。
 また、南米・アマゾン川に暮らすディスカスという魚は、オスとメスが長いこと連れ添うことで知られているが、相手の写真を水槽の壁に提示すると、写真と同じ方向に体の向きを変えて並んで泳ごうとする行動が生じた。いっぽう、見知らぬ相手の写真が提示された時は、写真をつつくといった攻撃行動が生じた。ディスカスも、顔の模様に基づいて、相手を識別していることが分かった。

 出演された幸田先生によれば、魚は0.4秒で相手の顔を識別する。仲間を識別するやり方は脊椎動物で共通している可能性があると説明しておられた。幸田先生は、10年ほど前から、サルの研究方法を魚に適用し、相手を識別する能力に関しては、これまでに、メダカ、グッピー、ディスカス、プルチャー、ホンソメワケベラ、クロソラスズメダイ、イトヨ、シクリッドの仲間の8種類でこれを確認したとのことであった。ちなみにこれらの魚はいずれも縄張りを持つ習性があり、顔に模様がついている。いっぽう、昨日も言及したように、サンマ、イワシ、マグロなどは、断定はできないが、おそらく個体識別はしてないし、じっさい顔に模様はないという。

 ここからは私の感想になるが、見慣れた対象と新奇な対象に対して異なる反応を示すということは、多くの動物で確認されており、また、視覚刺激以外、例えば、聴覚や味覚でも見られることが分かっている【新奇な味覚刺激に関してはこういう論文もあった。聴覚に関しては、赤ちゃんの音声の聞き分けなどが知られている】。

 この種の実験で多少疑問に感じるのは、「相手を見る時間」をどうやって客観的に測定するかという点である。魚は、人間とは異なる魚眼の視野を持っている。仮に片側の目玉が対象のほうを向いていたとしても、相手の顔を見ているのか、体全体を見ているのか、あるいは相手の動きを見ているのかを区別することは難しい。
 上掲のプルチャーとディスカスの例においても、写真と同じ向きの姿勢をとった時、プルチャーの例では「相手を見ている」と判定されるいっぽう、ディスカスの例では「相手と並んで泳ごうとしている」と判定されているようにも思える。それとも、最近の科学技術を利用して、アイトラッキングの計測をしているのだろうか。

 第2に、上掲の「見慣れた相手には寛容であるいっぽう、知らない相手には攻撃を加える」というくだりがイマイチ分からなかった。縄張りを作るオスが相手を識別する必要があるのは、
  1. 縄張りを奪いに来た別のオスであるかどうか
  2. 交尾の相手であるかどうか
  3. 自分を食べに来た天敵であるのか
  4. 自分のエサになる弱い魚なのか
といった点かと思うが、そのさい、見慣れている相手か、知らない相手かということは重要な基準ではない。見慣れているかどうかにかかわらず、ライバルとなるオスであれば攻撃し、交尾対象のメスであれば歓迎し、天敵であれば逃げたり隠れたりし、エサであれば食ってしまうという行動をとることが最も適応的ではないかと思う。
 そう言えば、ティンバーゲンの実験によれば、縄張りを持つイトヨは、ライバルのオスばかりでなく、下側を赤く塗った魚の模型に対しても攻撃をしかけた。ウィキペディアによれば、
...それどころか、窓の外を通り過ぎる赤い郵便車に向かって威嚇姿勢を見せたことをティンバーゲンは記載している。以上のことから、イトヨの雄は魚の姿を見て、雄が来たからどうとか判断している訳ではなく、下面が赤いかどうかだけを見て反応していることが分かる。
というエピソードまであった【こんな翻訳書もあり】。要するに、縄張りを守るためには、見慣れている相手か知らない相手かという識別するよりも、とにかく下側が赤い物体なら無差別に攻撃するという行動をとることのほうが適応的であるように思えるのだが、どうだろうか。【幸田先生のご研究対象の中にもイトヨが含まれているようだが、他の種類の魚では必ずしも下半分が赤くなるわけではないので、より精細に顔を識別する必要が出てくるのかもしれないが、よほど透き通った水でなければ、顔の模様で識別できることが適応上、有用であるとは思えないような気もする。】

 次回に続く。