じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 11月4日の13時頃、岡山上空に強い雷雲が到来し、岡山市東区では1cmほどの雹が降ったところもあったという。短時間であったため合計雨量は1.5ミリにとどまったが、気温は13時時点の20.0℃から14時時点には15.1℃まで急低下した。
 なお、雨の後、美しい虹が出現すると期待したが、私が観察していた限りでは、北北東の空の低いところに幅の広い虹の一部がぼんやりと出現しているだけであった【写真下】

2021年11月05日(金)



【連載】ヒューマニエンス「山中伸弥スペシャル iPS細胞と私たち」(5)倫理的な問題/PPK

 昨日に続いて、10月7日に放送された表記の番組についての感想・考察。

 番組の後半ではiPS細胞から何が作れるのかについて、いろいろな最新情報が紹介された。

 まず、iPS細胞から肉を作るという技術。山中先生によれば、これにより食糧危機を救うこともできるほか、温暖化対策にもなるという。そう言えば、1月10日の日記に記したように、温室効果ガスの正体は、影響の大きい順に、 水蒸気、二酸化炭素、メタンとなっているが、その第3位のメタンの発生源としては、水田、ゴミのほか、ウシのゲップからも発生するという。牛1頭が1日に出すメタンの量は300〜500リットルであり、少なく見積もっても世界全体で1年間に163兆リットルが排出されるという。
 もっとも、だからといって牛のiPS細胞から培養された牛肉にどれほどのニーズがあるのかは分からない。菜食主義や植物由来の人工肉のほうが受け入れられやすいかもしれない。このあたりは、動物性タンパク質の摂取が身体活動や寿命にどう影響してくるのかによっても見方が変わってくるであろう。

 さてiPS細胞研究の可能性は無限に広がっているが、その一方で倫理的問題にも直面しているという。斉藤通紀先生(京都大学)の研究室で、オスとメスのマウスのiPS細胞から始原生殖細胞、そして精子や卵子を作り出し受精させたところ、他のマウスと違わないマウスがちゃんと誕生することが確認された。もっともこの技術を人間に応用したとすると、勝手に人間が作られてしまう可能性がある。もっとも人間の場合、iPS細胞から始原生殖細胞までは作り出すことができているが、そこから精子に発達する前の「前精原細胞」と卵子に発達する前の「初期の卵母細胞」に進む過程では、マウスとは異なる不思議な振る舞いをするという。現時点ではマウスと同じ技術では、人間やサルの卵子や精子を作り出すことはできないようだ。
 もっとも、この謎が解明された時に、不妊治療に応用できるかどうかについては生命倫理上の問題がある。これに加えて、親子関係や本人のアイデンティティの問題が出てくる。

 番組では続いて、医療の最前線として、iPS細胞を使った癌の免疫療法の研究が紹介された。免疫細胞の1つ、NKT細胞を活性化させると、肺の腫瘍を縮小することが確認されているが、NKT細胞は数が少なく、しかも培養で増やすことができない。そこで古関明彦先生(理化学研究所)の研究室では、iPS細胞を活用して、まず健康な人から血液を採りその中からNKT細胞を選別、これをiPS細胞に戻して増やしてから再びNKT細胞として体内に入れれば癌細胞を攻撃する効果が期待される。数年後の実用化を目ざしているという。

 谷口英樹先生(東京大学)の研究室では、病気で傷んでいる肝臓をiPS細胞から作られたオルガノイドで補う研究が進んでいるという。また、武部貴則先生(東京医科歯科大学)の研究室では、iPS細胞から作った初期段階の臓器を使って繋がり合う臓器を治療する研究が行われているという。これにより、肝臓、胆管、十二指腸の異常を一気に治療することができるようになるという。

 以上が番組の概要であったが、番組の終わりのところで山中先生が述べておられたように、iPS細胞の研究は必ずしも不老長寿を目ざすものではない。人生の最期の10年を健康で過ごしPPKで最期を迎えるという理想の死に方を実現させるための研究であるようだ。

 ここからは私の感想・考察になるが、PPKについては、いくつかの批判もある。また現実的な問題として、定期的に健康診断を受けることが、PPKを防ぐ効果があるのか、NNKの原因となる慢性疾患を防ぐ効果があるのか、どちらに有効なのかはイマイチ分からないところがある。けっきょく、突然死の原因を避け、慢性疾患を予防すれば、残る死に方は老衰死ということになるが、老衰はどちらかと言えばNNKに近い状態のようにも思える。このほか、安楽死の是非についても考慮する必要があるだろう。ま、iPS細胞の研究は、高齢者よりは若い人たちの治療に重点を置けばよく、私のような年齢の者は、治療に期待を寄せるよりはむしろ、しっかりとした死生観を確立し、日々終活に取り組むことが大切であるように思う。