じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 半田山植物園で皇帝ダリアの花がようやく開花。写真右下には月齢7.3の月も写っていた。なお、皇帝ヒマワリのほうはすでに見頃を迎えている。

2021年11月13日(土)



【連載】ヒューマニエンス「“イヌ” ヒトの心を照らす存在」(4)ネオテニー

 昨日に続いて、10月21日に初回放送された表記の番組についての感想・考察。
 番組では、続いて、ヒト(ホモ・サピエンス)とイヌがネアンデルタール人を絶滅させた、という仮説が紹介された。ネアンデルタール人はヨーロッパを中心に暮らし、ヒトと共存していたが、およそ3万年前に絶滅したと言われている。ネアンデルタール人の遺跡からはイヌの骨は見つかっておらず、イヌと一緒に暮らしたという証拠は得られていない。
 今村薫先生(名古屋学院大学)によれば、ヒトと異なり、体格が大きく力の強かったネアンデルタール人は、いわばレスリングのような格闘で獲物を捕らえていたという。いっぽうヒトは、飛び道具や罠を使うほか、「動物の心を読む」ことができるようになった。それにより、イヌを仲間に加えたり、獲物の行動を予測したりできるようになり、ネアンデルタール人よりも生き延びる可能性を広げたということらしい【あくまで長谷川の聞き取りによる解釈】。もっとも、ここで「動物の心を読む」とか「ホモ・サピエンスは動物にも心があるということを想像することができた」という時の「心」が何を意味するのかはイマイチ分からないところがあった。動物の行動を予測したり、操ったりすることができるようになったということなのか、動物の視点を取得することなのか、動物行動を擬人化して説明することに一定の有用性があったということなのか、とにかく、「心」という曖昧な概念(かつ、素朴概念として納得されやすい概念)は慎重に使うべきではないかと思った。

 次に紹介されたのは、ロシアのドミトリー・ベリャーエフが行ったギンギツネの改良の研究であった。出典は以下の通り。

Trut, L.N. (1999).Early Canid Domestication: The Farm-Fox Experiment: Foxes bred for tamability in a 40-year experiment exhibit remarkable transformations that suggest an interplay between behavioral genetics and development. American Scientist, 87, No. 2 (MARCH-APRIL 1999), 160-169.

この研究は今でもシベリア・ノボシビリスクで続けられているという。飼育されているのはギンギツネ。野生のギンギツネは獰猛で手を出すと噛みつこうとするが、50年以上にわたって、人を怖がらず攻撃性の低い穏やかな個体どうしを交配させ続けた結果、時折人に甘えるしぐさを見せたり、垂れ耳になるなど、イヌそっくりに変化してきたという。これはネオテニー(幼形成熟)と呼ばれる現象であり、イヌがオオカミと分かれた初期の段階で獲得された遺伝子が関わっているらしい。

 ネオテニーはイヌ側ばかりでなくヒト側でも生じたという説もあるらしい。チンパンジーは大人になると口先が伸びてきて顎が発達しモノを噛む力が強くなってくるが、人間は子どものチンパンジーと似た風貌でありネオテニーに相当している。ウィキペディアにも簡単な解説があり、
1920年にルイス・ボルク(英語版)が「人類ネオテニー説」を提唱した。チンパンジーの幼形が人類と似ている点が多いため、ヒトはチンパンジーのネオテニーだという説である[3]。すなわち、ヒトの進化のなかで、幼児のような形態のまま性的に成熟するようになる進化が起こったという。
と記されていた。

 ここからは私の感想・考察になるが、まずネアンデルタール人の絶滅についてはウィキペディアに詳しい解説があり、イベリア半島では約2万8000〜約2万4000年前まで生き残っていたという説や、そのいっぽうで「ネアンデルタール人の絶滅は約4万年前であった」とする説も出ているという。絶滅の原因は火山噴火による食料不足が有力のようだが、現生人類との混血もあり、何をもって絶滅とするのかは難しいように思う。ネアンデルタール人については「山中伸弥スペシャル iPS細胞と私たち」でも取り上げられており、そちらの放送の時には、「現代人の脳オルガノイドのほうが、ネアンデルタール人よりも神経興奮時の同調率が4倍も高く、神経ネットワークを作る力が優れていることが分かった。それによって、現代人(ホモ・サピエンス)はネアンデルタール人よりも環境に対応できる力や高いコミュニケーション能力を手に入れ、今のような文明を築くことができた。"というように説明されていた。

 ネオテニーの話も興味深い内容であるが、イヌのネオテニーのほうはあくまで交配の繰り返しの結果、いっぽうヒトのほうは仮にネオテニーであったとしても人為的に淘汰されたわけではないので、イヌの変化と同等に扱うわけにはいかないように思えた。

 次回に続く。