じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 工学部構内で、建設工事に伴う埋文調査が行われている。こういう調査の現場を見ていつも疑問に思うことが2つある。
  1. 昔の遺跡は今の地面よりも何メートルも深いところにあるが、なぜ土に埋まってしまったのだろうか。その土はどこから降ってきたのか?【黄砂?】 何千年もあとには、いま私たちが歩いている地面の上にも数メートルの土が積もるのだろうか?
  2. 遺跡調査ではしばしば、住居や農耕地の跡が発掘されるが、住居は何度も建て替えられるであろうし、畑や田んぼも毎年、区画が少しずつ変わっていくはず。なので、仮に黄砂が降ってきて少しずつ埋まっていくとしても、ある時代の畑の形がそっくり残るということは考えにくい。火砕流とか洪水に伴う土砂の流入でも起こらなければ、そんなに簡単には遺跡は発掘できないのではないだろうか?



2021年12月16日(木)



【連載】サイエンスZERO「鳥の言葉を証明せよ!“動物言語学”の幕開け」(1)

 12月5日に初回放送された、

「鳥の言葉を証明せよ!“動物言語学”の幕開け」

についての感想・考察。なお、鈴木俊貴先生のご研究については、これまでにも、
  • 2019年3月30日又吉直樹のヘウレーカ!スペシャル「この“なぜ”はほっとけない!?」(1)言葉を喋る?シジュウカラ
  • 2021年5月26日ダーウィンが来た!「鳥の言葉が分かる!聞いてびっくり鳥語講座」
などで感想を述べさせていただいたことがあった【それぞれ、翌日以降に続編あり】。今回の内容は、これまでの放送内容ともかなり重複しており、その暫定的な総括という意味合いが含まれていたように思われた。

 ちなみに、この鈴木先生の研究は、NHKが4年間にわたり密着取材を継続しており、過去に「ダーウィンが来た!」や「ワイルドライフでも紹介されたことがあるという。このうち「ダーウィンが来た」は上掲の放送のことだと思うが、「ワイルドライフ」の放送のほうは私は視聴していない。このほか、中学校の国語の教科書にも掲載されているという。

 番組の冒頭では、鈴木先生の研究について、

鳥の言葉を証明せよ! “動物言語学”の幕開け

と評して、世界的に注目を浴びている研究であると紹介されていた。鈴木先生の長年にわたるフィールド研究のご苦労と成果に大きな価値があることは私も異存は無いが、一般視聴者向けの番組の中では、「言葉」という用語が一人歩きしてしまわないだろうかと、少々心配になる部分もあった。

 例えば、
  • 「オウムが言葉を喋る」という時の「言葉」は、人間が喋る言葉の物真似ができるという範囲に限られており、コミュニケーションの手段としては成立していない【ペパーバーグによるヨウムのアレックスの研究などもあることはあるが】。
  • チンパンジーに言葉を教える研究も行われてきたが、日本のアイが習得したのは主として複雑な見本合わせ課題(例えば「3本の黄色の歯ブラシ」に相当するレキシグラムを選択する)であり、またチンパンジーは大学院生以上の短期記憶能力があることを示す実験もあるが、そのいっぽう、刺激等価性に関してはどうやら、人間のような「恣意的に設定された関係反応の派生」を示さない、という研究もあるようだ。
  • スキナーの『言語行動』で定義されたタクトやマンドは、本当に言語行動なのか?という疑問も指摘されている。
    • 「あなたは賛成ですか?」と訊かれて「はい」と答えた時の「はい」は、賛意を表明しているタクトになるが、右手を挙げて賛意を示すのも機能的には同じ。であるなら、右手を挙げるのも言語行動と言えるのではないか?
    • 飲食店で「コーラをください」と発声するのはマンドだが、自動販売機のコーラのボタンを押してコーラを手に入れるのもマンドではないのか? 機能的には同じではないか?


 要するに、「言葉」とか「言語」という用語を使うには、まず、どういう条件を満たせばそれが言語行動であり、何が欠ければ言語行動とは言えないのかという定義を明確にする必要があるのだが、研究の出発点においてアプリオリに定義してもあまり意味はない(=有用ではない)という気もする。
 なので、当面は、「鳥の言葉」とは言わずに、「鳥のコミュニケーション」と表現したほうが無難かつ妥当であるようにも思われた。ちなみにウィキペディアによれば、「動物のコミュニケーション」は以下のように解説されている。
生物学の領域では、ある動物の個体の身振りや音声などが同種や異種の他の個体の行動に影響を与え、かつ、それらの信号を送った側の個体に有利になる場合に、個体間で情報が伝えられた、と考えて、そのような情報伝達を「コミュニケーション」と呼ぶということが行われている。
動物のコミュニケーションは種に共通しているが固定的ではなく、発信者の置かれた状況によって柔軟に変化する。またコミュニケーション信号のやりとりは同種間だけでなく異種間でも行われる。
コミュニケーション信号が交換されるとき、それは双方がそのやりとりから利益を受け取っていることを意味する。別種間、特に利害が相反する捕食者と被食者が、コミュニケーションによってどのように利益を得ているかは激しい議論がある。
 でもって、シジュウカラが多彩な鳴き声を介して、仲間同士や異種との間でコミュニケーションをとっていることは、すでに明白であるようにも思われる。これらはさらに、「話し手」(鳴き声を発する側)の行動と、「聞き手」(鳴き声を聞く側)の行動に分けて分析する必要がある。

 前置きが長くなってしまったので、放送内容についての感想は次回以降とさせていただく。