じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 5月17日の夜はよく晴れて、20時50分頃には、金色の大黒天像の左側から月齢16.6の月が昇ってくる様子を眺めることができた。なお大黒天像は像の右下からライトアップされているため、月明かりに照らされている側に影ができている。


2022年5月18日(水)



【連載】ヒューマニエンス「“老化” その宿命にあらがうか 従うか」(4)老化細胞のポジティブな働き、ハダカデバネズミ的人生

 昨日に続いて、2022年4月12日に初回放送された表記の番組についての備忘録と感想。

 放送では、リモートで出演された原英二先生(大阪大学)を交えて老化細胞の役割についてさらに詳しい解説が行われた。
 原先生によれば、老化細胞のシステムは人間ばかりでなく、マウスやショウジョウバエでも一部起こることが確認されている。昨日も取り上げたように細胞には死ぬシステムが別にあり、老化細胞がわざわざ生き残るということには私たちが生きていく中で何らかのメリットがあったのではないかと推察された。老化細胞は体のあちこちで炎症を起こすが、もしかすると老化細胞が体の中にたまることによって、細菌やウイルスから体を守ってくれているのかもしれないという。じっさい、SASP因子は悪者ではなく、免疫細胞を呼び寄せる信号の役割を持っている。歳をとると免疫系が破綻していくので、老化細胞が代わりに感染を防御しているかもしれない。またSASP因子を出すことで周りの細胞に増殖を促し、傷を修復している可能性もあるということであった。

 こうした点を踏まえれば、老化細胞は消滅させるべきものではなく、増えすぎて部分だけ、もしくは体に悪い働きをする部分だけを取り除けば良いということになるのだが、実際の研究ではなかなかうまく行っていないようである。2016年、アメリカの研究グループがマウスの老化細胞を除去したところ、毛並みがよく若い状態が維持されることが確認できた。ところが2020年、フランスの研究グループが似たような方法で老化細胞を取り除いたところ、逆に老化が進んだような姿になってしまった。生物系の実験というのは再現が難しいところがあり、特に老化の研究ではヒトでも環境因子が7割以上と言われており、一卵性双生児であっても環境により違いが出てくるという。同じマウスを使った実験でも、飼育環境やエサの種類で違った結果が出てくる。このほか、5月12日に取り上げた「カロリー制限→サーチュインのシステム起動」という研究も、アメリカ国内の2箇所の施設で研究したところ異なった結果が出ており、その原因はエサの違いにあったという。

 放送では続いて、3番目のテーマとして「ヒトの老化の意味とは」が取り上げられた。まず登場したのはハダカデバネズミであったが、この動物の名前は、2021年3月17日放送の又吉直樹のヘウレーカ!「ボクも100歳まで生きられますか?」のほか、いくつかの科学番組でも紹介されたことがあり、出演された三浦恭子先生(熊本大学)もお馴染みであった。
 ハダカデバネズミは体長15cmほどで前身の毛は無い。アメリカで人工飼育されている最高齢の個体は今年39歳であるというが、4歳の個体と比べて肌つやに大差はない。また骨格にも老化は見られていないという。また、年齢とともに死亡率が増加する傾向が見られない。
 ハダカデバネズミでは、細胞分裂によるコピーミスが起こりにくいことでも知られている。また、神経幹細胞のもととなるDNAを傷つけて損傷後を調べると、マウスに比べてハダカデバネズミのほうが、DNA修復たんぱく質の量が大量かつ速やかに集められていることが確認された。このほかゲノムの配列自体も、DNAの修復能力が高く、変異が入りにくいとも指摘された。
 では、ハダカデバネズミの適応戦略は大成功を収めたのか? 個体レベルで見れば、なかなか老化しないという点でうまくいっているように見えるが、コピーミスが起こりにくいということはそれだけ変異が起こりにくいということであるゆえ、環境変化に合わせた対応をしにくいというデメリットをもたらす。つまり、変異が起こりやすい動物であれば、寒冷、高温、乾燥、湿気、外敵、食料といった環境要因の変化に応じて、結果的に適応的に変異した種として生き残ることができるのだが、変異が起こらなければ全滅してしまうリスクが大きくなる。じっさいハダカデバネズミは、ケニア・ソマリア・エチオピアの地下に限定して生息しており、ある一定以上の環境が変化すると死んでしまう。三浦先生は以上を踏まえて「ヒトは老化の性質を捨てずに長生きになっていった種。他のところでなんとか代償的に生き延びようとやりくりしようという力はヒトのほうが強いという気がする」と述べておられた。今井先生は、進化は新しい環境や変化への適応であり、ハダカデバネズミはある意味では進化の袋小路に入っているとも指摘された。老化や寿命を研究している人たちの間でも、考え方は、
  • 健康で長生きしたい。
  • それほど長くなくてもよい。ある程度のところまでいったら痛みも無く幸せに人生を終えたい。
というように考え方は分かれているという。

 ここからは私の感想・考察になるが、昨日も述べたように、老化を防ぐためにNMNサプリなどを含めてあらゆる手段を講じることは、もしかすると、老化細胞のポジティブな働きまで抑えてしまう恐れがある。また、環境要因の違いを考えると、ある人にとって有用な長寿健康法が別の人にとっては寿命を縮めるという逆効果になる場合もある。なので、できることと言えば、規則的な生活習慣、腹八分目、腸内細菌の維持、あたりが適切であって、健康食品や民間療法などに傾倒するのはどうかなあという気がする。
 あと、老化や長寿については、私自身は「それほど長くなくてもよい。ある程度のところまでいったら痛みも無く幸せに人生を終えたい。」という考えで十分かと思っている。長寿を至上命題にしてしまうと、いずれ人口が増えすぎ、しかも現役世代の比率が減ってしまって、人生のトータルのQOLが低下する恐れがある。人生は行き先の書かれた切符を持って電車に乗っているようなものであり、終着駅が来たら降りて、次に乗る人に席を譲るのが当然。いつまでも電車に乗り続けようとしたら、待っている人が乗れなくなってしまう。

 次回に続く。