じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 12月3日の岡山の最低気温はマイナス0.1°となり、この冬初めて氷点下を記録した。その影響もあって津山線沿いの鉄柵に絡みついていたイシミカワが赤・黄色に紅葉し、青い実との美しいコントラストを呈していた

2022年12月4日(日)



【連載】チコちゃんに叱られる! 「エレベーターで上を見るのは逃げたいから」という胡散臭い説明

 12月2日に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この回は、
  1. エレベーターの中で上を見るのはなぜ?
  2. 「心が折れる」と言うのはなぜ?
  3. 週刊チコニュース:なぜ岸田首相は投資を勧める?NHK解説委員がやさ〜しく解説!
  4. 大人になるとあっという間に1年が過ぎるのはなぜ?【2018年7月20日の放送の再掲
という4つの話題が取り上げられた(但し最後の4.は実質再放送)。本日はこのうちの1.について考察する。

 さて1.のエレベーターの話題だが、本当に「上を見る」という行動が起こっているのかどうかイマイチ不審な点があった。そこで普段自分自身がどうしているかを改めて観察してみると、確かに、階数を示すLEDの表示盤に時々視線を向けており、第三者からは「上を向いている」ように見えることは確認できた。しかしそれであるなら「エレベーターの中でLEDの階数表示を見るのは、いま何階まで来ているのかを確認し、目的階が近づいた時に降りる準備をするため」という説明だけで完結するはずだ。なお階数を示す数字が高い位置に表示されるのは、混雑している時でも見えやすくするためと考えられる。

 これに対して、碓井真史先生(新潟青陵大学)は、「エレベーターで上を見るのは逃げたいから」と説明された。人はみなそれぞれパーソナルスペース(心の縄張り)、すなわち、これ以上近づいてほしくない空間を持っているという。そのパーソナルスペースが破られると、心の中に緊張や不安がわいてきて、できればそこから逃げたいというというように思う。確かに自分がいま何階にいるのかというのを確かめている面はあるとは思うがそれだけでは説明がつかない。番組で、港区にある大手企業のエレベーターにカメラを設置して、混んでいる時と空いている時の様子をを観察したところ、
  • 利用者が1人〜2人の時は誰も上を見る人は居なかった【←2人の時、男性はいったん上のほうにある階数表示に目を向けていたが、放送では上を向いた人はいなかったと見なされた】。
  • 利用者が5人となると、操作盤の前に立っていた女性1名が視線を上に向けた【階数表示の方向】。
  • 5人の女性が乗っているところにあとから入ってきた男性は視線を上に向けた【階数表示の方向】。
  • 12人が乗り込んだエレベーターでは12人中6人が上を見た【これも階数表示の方向のように見えた】。
  • 10人乗っているところに台車が入って混雑してきた時には10人中6人が上を見た【これも階数表示の方向のように見えた】。
こうして2日間にわたって観察したところ、エレベーターに乗った人が9人以下の時は上を見る確率が約9%であったのに対して、10人以上の時の確率は約30%に上昇したという。これをふまえて碓井先生は、「単純に表示階数を確かめるだけであれば混んでいてもすいていても同じ行動をとるはずだが、(そうではなかった)。人間はパーソナルスペースを侵されるほど緊張や不安感が出てしまうので上を見るという行動が出てくる。」と説明された。
 またそのような緊張や不安があるときになぜ上を見るのかについては、「混んでいるエレベーターの中で、目の前に人の頭があるとちょっと落ち着かない。混んでいてパーソナルスペースが確保できないエレベーターの中で唯一空間が確保できるのは上の方」と説明された。
 碓井先生は、さらにもう1つ上を見る理由があると指摘された。それは、エレベーターの中で感じている不安や不快感を人に悟られないようにするためである。上を見ていれば、周りの人たちからは「階数を確認している」と思われるので、不安や不快な気持ちで上を見ているとは思われないで済む、というものであった。以上から、エレベーターの中で上を見るのは、
  • 顔の前のパーソナルスペースを確保
  • 不安や不快な気持ちを隠す
という2つの意味があったと説明された。

 碓井先生はさらに、エレベーターの中のどの場所に立てば不安や不快な気持ちが和らぐのかについて、一番人気のあるのは操作ボタンの前であると指摘された。実際、番組で観察したところ、最初に乗ってきた人の7人/9人が操作ボタンの前に立つことが示された。碓井先生はこのことについて、「パーソナルスペースは前が広いので、自分の前に立たれないようにするにはエレベーターの一番前に立つしかない。」と説明された。放送で、人がどのくら近づいた時に不快に感じるのかを実験したところ、前向きに向かい合う場合の平均は約56cm、横から近づいた場合は約34cm、背中側から近づいた場合は約9cmであることが分かった。このことから、碓井先生は、絶対に前に立たれない操作ボタンの前が人気になると説明された。
 碓井先生は、操作ボタンの前が人気である理由としてさらにもう1つ、操作ボタンに立つというのは「何かすることがある」という点で不安や不快感を下げる効果があるとも指摘された。




 ここからは私の感想・考察になるが、碓井先生はこれまでにもチコちゃんの番組に何度か出演されておられるが【例えば、ポケットに手を入れる理由】、失礼ながら、私自身にはどうにもしっくりこないところがある。おそらくそれは、行動の原因としての「不安」を過大視しているのではないかと思われる点、また、心理学の著名な理論に関連付けながら【←コジツケの可能性もある】1つの「説明」をしたあとで、「さらにこういう理由もある」というように、一般の人がもっともらしく思える「理由」を次々と後付けしていくため、結局何が決め手になっているのかが曖昧になり、俗流心理「学」的な説明と大して変わらないように思えてしまうためではないかと思われる。少なくとも、一般視聴者の方々には、心理学にはいろいろな立場があり、今回の碓井先生の説明はあくまで碓井先生独自のお考えであって、必ずしも心理学者全体のコンセンサスを得られたものではないこと、他にもいろいろな説明が可能であることをご理解いただきたいところだ。

 では私ならどう説明するのか?ということになるが、まずは、エレベーター乗車の条件をもっとシステマティックに変えて実験・観察する必要があるように思う。
  • 階数表示盤の位置を変えて、単に天井を見上げているのか、それとも(「上を見る」のではなく)表示盤のほうを見ているのかを確認する。
  • 空港などにあるガラス張りのエレベーターの場合はどうか?
などをチェックすると良いのではないかと思う。

 ということで何かの説を唱えるにはデータが不足している状態であるが、現時点で考えられる説としては、
  1. エレベーターに乗った人は、いま何階にいるのかを知ろうとして階数表示盤を見る(結果的に「上を見る」)。
  2. 一人だけで乗っている時は「視線が合うことを避ける」必要がないため、いろいろな場所に視線を向ける。但し日常的に利用しているエレベーターではぼんやりと前の方を見るだけの場合もあり。
  3. 定員いっぱいの時のように窮屈な状態になると、「あとどれぐらいで目的階に達するのか」を知ろうとして、それだけ頻繁に階数表示を見るようになる。【あとどれだけ我慢すればよいかを知りたい】
  4. 途中階で降りる人は、出口を塞いでいる人たちにに事前に声をかけたりする必要があるため、それだけ階数表示を見る頻度が増える。【外に出るための準備】
という程度であるが、少なくともパーソナルスペースの理論や、行動の原因としての「不安」を持ち出す必要はないように思う。

 あと、エレベーターに初めに入ってきた人が操作ボタンの前に立ちたがるのは、他の人たちが入ってくる途中でドアが閉まらないように「開ボタン」を押し続けることがエチケットとなっているためと考えられる。また、途中階で降りる場合は、出口に近いので他の人を押しのけなくても外に出られるというメリットがある。「パーソナルスペースは前が広いので、自分の前に立たれないようにする」というのが主要な理由であるならば、エレベーターに乗った人は皆、四方の壁のほうを向いて立つはずだ。

 次回に続く。