じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 3月4日に続いて、宵の空の金星と木星の写真。3月2日の最接近時に比べるとだいぶ離れてきた。木星を基準にすると金星は左上方向(南方向)に移動しているように見えるが、地平線を基準にすると実際は右上方向(北方向)に移動していることが分かる。金星はこのあとさらに真西の方向に移動し、6月4日に東方最大離角となる。


2023年3月6日(月)



【連載】対話型AIの可能性を探る(4)Bing初体験(4)行動分析学の基本概念について尋ねる(2)自己概念、徹底的行動主義、目的論的行動主義など

 昨日に続いて、対話型AIを搭載した新しいBingの話題。

 本日は昨日に引き続き、行動分析学の基本概念についての回答を、ChatGPTの回答と比較する。私の関心事は、単に回答内容が正確かどうかということではなく、回答生成にあたってBingがどのような資料を参照しているのかという点にある。このことに関して、

Bingの回答生成にあたって、ネットで公開されていない印刷媒体の専門書を参照することはありますか? それとも、あくまでネット上で無料で公開されているコンテンツに限定された情報をもとに回答を生成しているのでしょうか?
と尋ねたところ、やはり、
Bingの回答生成には、ネット上で無料で公開されているコンテンツをもとにしています。印刷媒体の専門書を参照することはありません。*1*2 【以下略】
詳細情報:
1. msn.com
2. japan.zdnet.com
という回答をいただいた。なので、行動分析学に関する質問をしても、印刷媒体の『行動分析学事典』や、行動分析学の入門書を精査した上での回答は期待できないことが分かった。
 なお、*1 によれば「マイクロソフトのWebエクスペリエンス プレジデントであるミハエル・パラキン氏は、検索サービス「Bing」に搭載したチャットAIに複数の回答モードを追加したと3月2日に公表した。「独創性」「バランス」「厳密」の3種類があり、ユーザーが自由に選択することができる。」とのこと。また、*2でも
Microsoftは、人工知能(AI)を活用した新しい「Bing」のチャットボットの改良を続けており、今回、新たに回答のトーンを選べる機能を搭載したと発表した。
同社の幹部であるMike Davidson氏は米国時間2月24日、Bingの回答スタイルを「More Precise」(より正確な)と「More Balanced」(よりバランスのとれた)、「More Creative」(より創造的な)の中から選択できる機能を一部のユーザーに向けてリリースしたとツイートするとともに、これらの選択肢が表示されているスクリーンショットを公開した。このスクリーンショットには「BingはAIを活用しているため、驚くような結果や、間違った回答が返ってくる場合もある」と記されている。


 さて、最初の質問は、

スキナーは「自己」についてどのように考えていますか?

であった。いただいた回答は、
スキナーは行動主義の心理学者で、自己という概念には否定的でした。彼は自己を「行動の結果として生じる錯覚」と考えていました*1。彼は自由意志も錯覚であると主張しました*2。
スキナーはオペラント条件付けという学習理論を提唱しました。それは、行動が報酬や罰によって強化されることで変化するという考え方です*3*4。
詳細情報:
1. ja.wikipedia.org
2. emanuelosc.org
3. sinri-counselor.com
4. note.com
出典としてはウィキペディアのほか、emanuelosc.orgというよく分からない団体のコンテンツが参照されていた【この団体はなぜか、発信元情報が「404 This page could not be found.」と表示される】。ちなみにBingの一般検索では、なぜか長谷川芳典の紀要論文がトップに表示されていた。
 回答内容に関してひと言コメントしておくが、スキナーは行動の原因としての「自己」や「自由意志」には否定的であったが、自己が存在しないと言っているわけではなかった。このあたりの議論は、まさに長谷川芳典の紀要論文でも取り上げられている。

 次の質問は、

徹底的行動主義(radical behaviorism)と方法論的行動主義(methodological behaviorism)の違いについて教えてください。

と質問したところ、
徹底的行動主義は、バラス・スキナーが提唱した哲学で、行動の研究が科学であるべきだという前提に立ちます。内的状態や心理過程を否定するのではなく、それらも観察可能な行動として扱います。3
方法論的行動主義は、ジョン・ワトソンが提唱した心理学のアプローチで、内的状態や心理過程を利用することはありますが、それらを精神世界に位置付けず、主観的経験に頼りません。4 行動の観察を心理学の研究方法とし、行動と環境の関係を重視します。5
要するに、徹底的行動主義は内的状態や心理過程を含めた全ての行動を科学的に分析しようとする立場であり、方法論的行動主義は内的状態や心理過程を排除せずとも観察可能な行動だけで心理学を展開しようとする立場です。
という回答をいただいた。徹底的行動主義が私的事象を扱うことや、背景となる機能的文脈主義の考え方に触れていない点は不満が残るが、まずまずの回答内容であった。

 3番目の質問は、

巨視的行動主義と微視的行動主義の違いについて教えてください。

これに対する回答は、
巨視的行動主義とは、生体の行動を筋や腺の活動などの要素に分解せず、環境内における全体的な事象として捉える立場です。1 行動の解発要因をその行動に先立つ刺激や状況に求めます。2
微視的行動主義とは、生体の行動を反応や強化などの要素に分解し、それらの関数関係を分析する立場です。2 行動の解発要因をその行動に後続する強化や報酬に求めます。2
要するに、巨視的行動主義は全体的な行動を研究することで心理学を展開しようとする立場であり、微視的行動主義は個々の行動要素を研究することで心理学を展開しようとする立場です。
詳細情報:
1. kotobank.jp
2. jstage.jst.go.jp
3. ja.strephonsays.com
4. ja.strephonsays.com
5. ja.wikipedia.org
これは少々的外れな回答であった。もっとも2.には丹野・坂上論文がリンクされていた。『行動分析学研究』は無料で閲覧できるので、検索対象に含まれているところがありがたい。


行動分析学において、微視的視点と巨視的視点はどのように特徴づけられていますか?

というように質問内容を修正したところ、
微視的視点とは、反応や強化などの個々の行動要素を分析単位とし、それらの関数関係を記述することで行動を理解しようとする立場です。1 行動の原因をその行動に後続する強化子や報酬に求めます。2
巨視的視点とは、反応率や強化率などの全体的な行動指標を分析単位とし、それらの相関関係を記述することで行動を理解しようとする立場です。1 行動の原因をその行動に先立つ刺激や状況に求めます。2
というように、回答の精度が向上することが確認できた。

もう1つ、

Rachlinの目的論的行動主義とはどのようなものでしょうか?

という質問を重ねたところ、
Rachlinの目的論的行動主義とは、自由意志や心などの心的概念を否定せず、それらを社会的な文脈に依存する行動の顕現として理解しようとする立場です。12
Rachlinは、人間の意志や自己制御は、時間的に広がった行動パターンの結果であり、環境や他者との相互作用によって形成されると考えます。34

詳細情報:
1. ja.yestherapyhelps.com
2. ja.yestherapyhelps.com
3. ja.warbletoncouncil.org
4. koara.lib.keio.ac.jp
5. ja.sainte-anastasie.org
という回答をいただいた。

 詳細情報1.と2.のリンク先で初めて知ったのだが、2023年2月28日付けで

●ハワード・ラフリンの目的論的行動主義

というコンテンツが発信されていることが分かった。リンク先の「yes, therapy helps!」というコンテンツの発信者はよく分からないが、元サイトはフランス語で記されており、日本語版は機械翻訳された可能性があるが、日本語表現がかなり正確であることから、機械翻訳のあと日本人によって適宜手を加えた可能性もある。いずれにせよ、このサイトでなぜRachlinが取り上げられているのかはよく分からない。

 なおRachlinは2021年に亡くなったが、確か追悼特集がJEABにあったはずたと思い、Bingに、その出典を尋ねたところ、
Howard Rachlinは、アメリカの心理学者で、目的論的行動主義の創始者です12。彼は2021年に亡くなりました34。
追悼特集は、Journal of the Experimental Analysis of Behaviorという学術誌にあります4。この誌面では、Rachlinの業績や人柄について、多くの同僚や教え子が寄稿しています。
という回答をいただいた。JEAB【この巻号は無料で閲覧可能】のほか、American Psychologistにも追悼記事が掲載されていることが分かった。


 不定期ながら次回に続く。