【連載】ヒューマニエンス「“免疫” 曖昧な“わたし”をめぐるドラマ」(1)自然免疫とか獲得免疫とか言われても...
8月28日に初回放送された、NHK『ヒューマニエンス』、
●「“免疫” 曖昧な“わたし”をめぐるドラマ」
についてのメモと感想。
免疫の話は2023年1月10日初回放送の「“免疫” 変異ウイルスを迎え撃て」で取り上げられたことがあり、私も感想を述べたことがあった【5月11日の日記およびその翌日以降】。しかし、免疫は単に病原菌やウイルスから体を守るというだけの機能ではない。放送で取り上げられたように、例えば、
- 母体にとっては異物であるはずの胎内の赤ちゃんはなぜT細胞の攻撃から守られるのか?
- 雑食性の人間は自分が保有していないさまざまなタンパク質を消化吸収しているが、なぜこれらはT細胞の攻撃対象にならないのか?
- 老化が進むと、体内は変異が蓄積した細胞ばかりになってしまう。それらはなぜT細胞の攻撃対象にならないのか?
といった疑問が生まれてくる。今回の放送では、『Tレグ』の役割を中心として、それらの謎が解明された。スタジオ解説者は、1月10日放送でもおなじみの濱崎洋子さん(京都大学)、またトークパートナーは、デザイナーの太刀川英輔さんであった。太刀川さんは、前回の免疫の放送ではなく、2023年4月10日放送の「“超・変異” 次の進化をたくらむDNA」のほうに出演されていた。その時にも述べたが、太刀川さんは2021年に『進化思考 生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』という著書を刊行しておられる。
放送ではまず、自然免疫と獲得免疫について簡単なおさらいがあった。
このうち自然免疫は、傷口などでウイルスや細菌が入ってきたときにそれを食べるというのが基本。しかしその数が多すぎて対処しきれなくなった時に活躍するのがT細胞である。
このあたりの話は何度も聞いているのだが、放送によって呼称が変わることもあり、なかなか理解が進まない。こちらの解説記事から引用すると、
リンパ球は白血球の一部で、さらにB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、NK(ナチュラルキラー)細胞などに分類することができます。
NK細胞は生まれつき備わっている免疫細胞で、細菌やウイルスなどの病原体に感染した細胞を攻撃します。
B細胞は細菌やウィルスなどの病原体が侵入してくると抗体を作り、T細胞は自らが働き、体を防御するとともに、一度侵入してきた病原体を記憶し、それに基づいてすばやく対応し、排除する働きをもっています。
ということになり、自然免疫を担っているのがその中のNK細胞であると理解してよさそうだ。また、今回の放送では、私が視聴した範囲では、『B細胞』という言葉は出てこなかったが、1月10日に初回放送された免疫の話の中では、
- 自然免疫:主役の1つは白血球の1つ『好中球』(食細胞)であり、体内に侵入してきたウイルスや細菌のもとに駆けつけて丸呑みにしてしまう。
- 獲得免疫:T細胞(ヘルパーT細胞)とB細胞が主役。T細胞は入ってきたウイルスを識別しB細胞に攻撃命令を出す。B細胞はその命令に従いウイルスを攻撃する。ウイルスはその表面にスパイクタンパク質と呼ばれる突起を持っており細胞の鍵穴と結びつけて細胞内に侵入する。これに対してB細胞は抗体を作り出し、ウイルスのスパイクタンパク質にとりついて細胞への侵入を防ぐ。
- 自然免疫は「最初の素早い攻撃」、獲得免疫は「高い攻撃力」という特徴を持つ。
- 獲得免疫の弱点は、発動まで1週間ほどかかるという弱点がある。自然免疫が食べたウイルスの情報がT細胞に伝達されてから抗体が生成される。
と説明されていた。
となると、まず自然免疫のところに出てくる『好中球』と『NK細胞』は同じものではないかと思ってしまうが、こちらの解説記事によれば、
- 好中球は血液中で最もよくみられる白血球の1つで、感染に対して最初に防御を行う免疫細胞の1つです。好中球は食細胞であり、細菌や様々な外来細胞を捕食します。好中球は、これらの細胞を殺したり消化したりするのを助ける酵素を放出する顆粒を内包しています。
好中球は血流を介して体内を循環していますが、特別な信号を受けると血流を離れ組織に入り込みます。これらの信号は細菌そのものから、あるいは補体タンパク質、損傷を受けた組織などから発信されますが、そのすべてが好中球を問題部位に引き寄せる物質を作ります。(このように物質を用いて特定の部位に細胞を引き寄せるプロセスは走化性と呼ばれます。)
好中球はまた、周囲の組織中に線維を作る物質を放出します。こういった線維は細菌を捕らえ、細菌が体内に広がるのを防ぐとともに、破壊されやすくします。
- ナチュラルキラー細胞は、形成された瞬間から外敵を殺す能力を備えているため、「生まれつきの殺し屋」という意味でナチュラルキラー細胞と呼ばれています。ナチュラルキラー細胞は、感染した細胞やがん細胞を認識して付着することで、酵素などの物質を放出してこれらの細胞の外側の膜を破壊します。ナチュラルキラー細胞はウイルス感染への最初の防御として重要です。
また、ナチュラルキラー細胞はT細胞、B細胞、マクロファージなどの働きの一部を制御するサイトカインを作ります。
となっていて別物であることが分かる。また、リンク先によれば、「自然免疫には以下の白血球が関与しています。」として、『好中球』や『NK細胞』のほか、
が挙げられていて、ややこしい。
さらにややこしいのは、獲得免疫のシステムのほうである。獲得免疫ではT細胞とB細胞が協力して働くとされており、こちらで詳しく解説されている。但し、今回の放送では、私が聞き取った限りではB細胞については言及されず、もっぱら3つのT細胞の役割が説明されていた。放送で『Tレグ』と呼ばれていたのは、以下の引用のなかの『サプレッサー(制御性)T細胞』のことであるようだ。
- キラー(細胞傷害性)T細胞は、感染した細胞や異常細胞(がん細胞など)の抗原と結合します。次に、こういった細胞の細胞膜に穴をあけて内部に酵素を注入して殺傷します。
- ヘルパーT細胞は、他の免疫細胞を助けます。例えばヘルパーT細胞の中には、B細胞の異物の抗原に対する抗体の産生を助けるものがあります。また、キラーT細胞を活性化させて感染した細胞や異常細胞を殺傷するのを助けたり、マクロファージを活性化させて感染した細胞や異常細胞をより効率よく捕食するのを助けるものもあります。
- サプレッサー(制御性)T細胞は、免疫反応の終結を助ける物質を作り出したり、ときには体に有害な反応が起こるのを防いだりします。
次回に続く。
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