じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 今年も旧・京山タワーと夕日がピッタリ重なる「京山皆既日食現象」が見られるようになってきた。この現象が見られる場所は日々移動するが、私の住んでいるところでは概ね冬至の2週間前と2週間後のあたりが好機となっている。但し、京山タワーのシルエットより太陽のほうが大きいため、太陽の一部がはみ出してしまい、正確には「京山金環食現象」となる。



2023年12月9日(土)




【連載】笑わない数学(7)超越数(3)eとπが超越数であることの証明/オバQは幽霊であることの証明

 昨日に続いて、11月8日にNHK総合で初回放送された、『笑わない数学 シーズン2』:

超越数

についてのメモと感想。

 放送ではリウヴィル数に続いて、eやπが超越数であることがどのように証明されたのか、解説された。
 まず、eが超越数であることは、1873年、シャルル・エルミート(1822-1901)によって証明された。エルミートはeが超越数ではなく代数的数であると仮定すると矛盾が起きることを示した。もしeが代数的数であるとすると、

ane+an-1en-1+・・・+a0=0 【an、・・・、a0は整数】

が成り立つはずであるが、じっさいは「ものすごく大きい数」になるか、「かなり小さい数」になるか、という矛盾が生じる。このことからeは代数的数ではなく超越数であると証明された。
 放送ではこれ以上の解説はなかったが、こちらの動画でその詳細を学ぶことができる。

 いっぽうπが超越数であることの証明は、12月7日にも言及したリンデマンによってなされた。但しリンデマンがπが超越数であることを直接証明したのではなく、代わりに

αが代数的数ならばeαは超越数である(但しα≠0)

という『エルミート・リンデマンの定理』を証明した。なお、ウィキペディアには『エルミート・リンデマンの定理』という項目は存在せず、代わりに『リンデマンの定理(リンデマン=ワイエルシュトラスの定理)』として解説されていた。内容は同じだが、『リンデマンの定理=ワイエルシュトラスの定理』のほうがより一般化されていた。
 放送では続いて、なんと尾形さんご自身が、πが超越数であることを証明した。その手順は、
  1. πを代数的数であると仮定する。
  2. 虚数iは代数的数である。【χ2=-1の解】
  3. iπは代数的数である。【πは代数的数であると仮定している。代数的数×代数的数は代数的数であることは簡単に証明できる】
  4. エルミート・リンデマンの定理「αが代数的数ならばeαは超越数である(但しα≠0)」のところでαにiを入れると、eiπは超越数になるはず。
  5. ところがオイラーの式により、eiπ=-1であり、-1は明らかに代数的数であるので4.と矛盾する。
  6. よってπが代数的数であるという仮定は間違っており、πは超越数であると証明された。
というものであった。

 ここからは私の感想・考察になるが、このWeb日記で何度か述べているように、背理法というのは、
  • XはAもしくはBである
  • XがAであると仮定すると矛盾が生じるよってXはBである
というロジックで構成されているように思われる。例えば今回の場合は、Xがeやπ、Aは代数的数、Bは超越数となっている。しかし、代数的数のほうが種々の性質が分かっているのに対して、超越数というのは単に「代数的数でない」と定義されているだけで、中身はちっとも分かっていない。なのでもしかしたら存在しない可能性がある。
 じっさい、この背理法のロジックを使えば、
  • オバQは人間か幽霊かどちらかである。
  • オバQが人間であると仮定すると、「人間は自力では空を飛べない」に矛盾する。
  • よってオバQは幽霊である。
ということが証明されたように見えるが、同じロジックでは「オバQはロボットである」とも「オバQは宇宙人である」とも証明できる。要するに、「AかBのいずれかである」とした時の、Aは人間、しかしBは「人間ではない」という漠然とした集合であって、その範囲は幽霊でもロボットでも宇宙人でも何でも含まれてしまうのである。であるからして、今回の「代数的数か、超越数か」という議論も、超越数の性質をもっと掘り下げるか、いくつかの性質に基づいて分類していかないと生産的な議論には至らないように思われた。
※これに関連して言えば、無理数は「有理数ではない実数」という定義以外にいろいろな性質が分かっているし、虚数も「実数ではない複素数」もそれなりの性質が分かっている。


 次回に続く。