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【連載】笑わない数学(7)超越数(4)「超越数の分類」「超越数と正規数」「コープランド-エルデシュ定数」 12月9日に続いて、11月8日にNHK総合で初回放送された、『笑わない数学 シーズン2』: ●超越数 についてのメモと感想。本日で最終回。 放送では、リウヴィル数、e、πに続いて、超越数探しがさかんに行われたものの、見つかった超越数は、eπ、2√2、π+eπ、log2、などわずかであり、いっけん複素数全体の中ではきわめて稀なレアキャラのような存在に見えること、しかしじっさいは超越数のほうが代数的数より遙かに多いということが解説された。直接的な証明は省略されていたが、要するに、ゲオルク・カントール(1845-1918)の研究から、
ここで少々脇道に逸れるが、素朴に考えると、ある1つの超越数αに対して任意の代数的数χを加えた、 α+χ は必ず超越数になるはずだ。なので、α+χの個数と、χの個数は等しい。このことから、超越数がn個あれば、そこからχの個数のn倍の超越数が生成できるはずで、どう考えても超越数のほうが代数的数よりも多くなりそうな気がする。勉強不足でよく分からないが、無限集合における個数とか濃度といった概念はもう少し違うことを言っているのかもしれない。 いずれにせよ、数(複素数)の殆どは私たちがまだ知らない超越数であることは確かであるようだ。イギリスのある数学者は、この事実を「代数的数は漆黒の空にある星のように光っている。漆黒の闇は超越数である。」と表現したという。 放送の終わりのあたりでは、21世紀の数学を牽引する一人、マキシム・コンツェビッチ博士が2001年に提唱した、超越数の分類が紹介された。カギとなるのは積分記号であり、これを使うと円周率πは、 π=2∫√(1−χ2)dχ 【但し積分記号の上下端は、−1から1まで】 というように表されるが、eやリウヴィル数は積分では表わすことができないと考えられている。コンツェビッチ博士は、積分で表される数を『周期』と名づけ、数全体を周期(代数的数とπなどの一部の超越数)と、そうでない数とに分類した。これは今後の数学を大きく進歩させる可能性を秘めているという。吉永正彦さん(大阪大学)はこのことについて「周期の登場は今後長い期間、人間の精神活動に喜びと活力を与え続け、数学を進展させるエネルギーを与え続けるのではないか」と語っておられた。 ここからは私の感想・考察になるが、特に興味があるのは、超越数の「乱数度」である。超越数は定数なので乱数とは言えないが、例えば円周率の一部の桁を切り取った数列は、0〜9が書かれた10枚のカードからランダムに1枚取って(またもとに戻す繰り返し)生成される乱数列と見分けがつかないほどよく似ている。もっとも、超越数の中にはリウヴィル数やチャンパーノウン数のように、(10進数で)明らかに数字の出現頻度に偏りがあり、また小数点以下n桁目の数が何であるのかが簡単に予測できるほどの規則性を持っている。なので、超越数であるからといって、特定の進数で表記された小数点以下の数列を乱数列として代用するわけにはいかない。ということで、超越数は乱数度により分類できる可能性がありそうな気がする。 なおネットで検索したところ、こちらに、 1997年,近似エントロピーという統計的手法を使った乱数度評価では,乱数度の高い順に並べるとという記述があった。なお、上記では「乱数度」と表現したが、数学的にはたぶん正規数に関する議論ということになる。 余談だが、正規数からのリンクでコープランド-エルデシュ定数という興味深い定数があることを知った。この数は十進正規数であることが証明されているが、超越数であるかどうかは分かっていないようである。 |