じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 今年のクリスマスグッズ。妻が毎年飾り付けているが、年々新しい物が増えているようだ。2000年12月25日の写真にあったグッズはどこに行ったのだろうか?



2023年12月25日(月)




【連載】ヒューマニエンス「“植物” 支配者は周りを動かす」(4)ヒトはイネに利用されている?

 昨日に続いて、12月11日に初回放送された、NHK『ヒューマニエンス』、

「“植物” 支配者は周りを動かす」

についてのメモと感想。

 放送では次に「植物は生態系をコントロールする」という話題が取り上げられた。植物はみずからの生育範囲を広げるため周りの生き物を動かしている。
  1. 花は昆虫の色覚などに訴えて、蜜のありかを伝える器官。花粉をつけさせることで昆虫を繁殖に利用している。昆虫は紫外線を感知できる。花を特殊なカメラで撮影すると、中心部が紫外線に反応して目立つようになっている。
  2. 植物は動けない制約があるが、根からさまざまな化合物を分泌することで根の周りの微生物をコントロールしている。トマトの場合、根はトマチンという毒物を分泌することでさまざまな病原菌を退けているが、そのいっぽうでトマチンを分解するスフィンゴビウム属の細菌を集める。根の近くでは周囲に比べて40倍の量になるという。まだ研究段階であるが、スフィンゴビウム属の最近はトマトの成長を促進したりさまざまなストレスからトマトを守っていると推測された。なお土壌の菌類と植物との共生関係は、陸上に苔が出現した4.7〜4.5億年前から始まっていたという。
  3. 森の中の果実は新生代になってから大きくなった。白亜紀の被子植物の果実は1cm程度であったが、新生代になって大きくなった。これにより多くの霊長類が集まるようになり、種子は糞とともにばらまかれるようになった。
  4. 果実を食用とする霊長類のほうも色覚に変化が起こった。哺乳類の多くは赤を認識できないのに対して霊長類は赤に強く反応する色覚(2色型→3色型)を獲得した。その結果、赤く熟した果実を見分けられるようになった。
 放送ではさらに「ヒトはイネに利用されている?」という興味深い話題が取り上げられた。放送によれば現在、世界総人口の半分が米を主食にしているという。イネは実っても種子が穂に付いたまま残っているが、この特長は野生ではあり得ないことである。タンポポの種は風で運ばれるし、オナモミの実は動物にくっついて遠くに運ばれるが、イネの場合は収穫されなければまとまって垂れ下がってしまうため生育範囲を広げることができない。もともとのイネ(野生イネ)の種は、熟した種を落とす『脱粒性』を持っているが、これでは収穫が難しい。イネが栽培しやすくなったのは3つの遺伝子の突然変異によるものと考えられている。そのうち2つの遺伝子、sh4とqSH3は脱粒性に関わる種子の付け根の構造を決める遺伝子であり、野生イネが持っていた種を稲穂から切り離す離層に関わっている。もう1つは穂の開き具合に関わる遺伝子であり、野生イネでは開くが栽培イネでは閉じたままとなる。これら3つの遺伝子の変異により、ヒトが栽培しやすいイネが誕生した。

 スタジオで紹介された野生イネには芒(のげ)がついており、そこに力が加わると脱粒しやすいという特徴がある。ちなみに野生イネは東南アジアやインドなどで自生しているが日本には生えていないという。

 広大な水田地帯を見れば分かるように、イネはヒトの力を借りて生育範囲を広げているが、見方を変えれば「イネは変異することでヒトをあやつり、生育範囲を拡大した」と言えないこともない。




 ここでいったん私の感想・考察を述べさせていただくが、果実の色と霊長類の色覚発達の関係はおそらくその通りであろうとは思う。もっとも、果実の中にはミカン、ビワ、バナナ、パパイヤなどのように黄色い果実もあれば、ブドウのように紫色(品種によっては緑色)のものもあり、赤い色が目立つような色覚の発達が直ちに有利に働いたとは言えないように思われる。このほか、赤色は威嚇や性的アピールにも使われる場合があり、摂食行動だけで利用されているわけではない。
 また、霊長類が果物を食べる際、硬い種子はその場で捨てられる場合も少なくない。実がなっていた場所の近くに種が捨てられてしまえば、生育範囲はあまり広がらないように思われる。

 ヒトとイネの関係もなかなか興味深いところだが、それを言うならば、ソメイヨシノ、コスモス、モミジなどを含めてあらゆる園芸植物は、ヒトを利用して生育範囲を広げたと言えないこともない。さらには、イヌやネコも、人に可愛がられる形や習性を身につけることで地球上で繁殖していったと言うこともできる。そう言えば、スキナーボックスに関わるジョークでも、スキナーボックスに入れられたネズミは動物心理学者を条件づけしているというものがあった。馬やロバやラクダは家畜化できたが、シマウマやキリンはできなかったというのも同様。何が何を操っているのかというのは結局のところは相互強化を前提としており、それが成り立つかどうかというだけの話に過ぎないという気もする。

 次回に続く。