【連載】チコちゃんに叱られる! 「うわさ話が好きなのはなぜ?」に関する胡散臭い説明
1月26日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この回は、
- ミュージカルが突然歌いだすのはなぜ?
- 人がうわさ話が好きなのはなぜ?
- 飛行機の窓が丸いのはなぜ?
という3つの話題が取り上げられた。
今回はこのうちの2.について考察する【1.については特段のコメント・感想が無いため、後回しにする】。
放送では、人がうわさ話をするのは「生き残るため」が正解であると説明された。心理学や脳科学に詳しい堀田秀吾さん(明治大学)およびナレーションによれば、
- 人がなぜうわさ話をするのか? それは、うわさ話をして命を守っていた時代に身についた生存本能ではないかと言われている。
- さらに、うわさ話をすると脳が喜びを感じる。
- 近年、イギリスの研究者が人の会話について分析したところ、会話の3分の2をうわさ話に費やしていることが分かった【Robert F. Goodman, Aharon Ben-Ze'ev (1994). Good Gossip.(「Gossip Reputation and Social Adaptation」という章 )】
- 人類とうわさ話の関係は石器時代にさかのぼる。今から何万年も前の石器時代、人々は約100人の集団を作り狩り中心の生活をしていた。当時の死因は、病気・飢え・自然災害などさまざまあるが、その中の約2割は人間どうしの争いだった。
- 100人もの集団で暮らしていると、狩りや料理などさまざまな役割があるが、その中には狩りも料理も苦手な人がいる。そういう人たちは役立たずとして集団から排除されて生き残れなかったんじゃないかと考えられている。
- 農耕時代に入ると、集団から排除されそうな人が自分はいかに集団の中で役立つかといういいうわさを広めたり他人の悪いうわさを広めることで評価を下げさせ生き残りに成功した。「いいうわさ」と「悪いうわさ」を使い分けて生き残ろうと考えた。つまり、うわさ話は集団の中で生き残るための行動といえる。生活するのに命懸けの時代だったのでそこまでやったのではないか。
- では、うわさ話で命を守る必要のない現代でもなぜうわさ話をするのか? それは、人がうわさ話をすると脳の報酬系が活性化し幸せを感じるようになるから。
- 人の不幸は蜜の味というが、人はまさに甘い蜜を味わったかのような快感をうわさ話から感じる。
放送では、鬼越トマホーク・坂井さんが「脳の中の報酬系の活動を調べる装置」を装着して、うわさ話の効果を調べるデモ実験が行われた。この装置では、幸せを感じると出るとされるアルファ波を検知すると脳の画像が青から赤に変化する仕組みになっている。
- 『近年の物価高』についての話題を訊いてみたが画像は青いままであった。
- 『芸能界でお金にまつわるうわさ』を訊いたところ、画像の一部が赤くなった。
- 『タクシーの人手不足』について訊いたところ、画像は青くなった。
- 『芸能界で離婚しそうなご夫婦のうわさ』について訊いたところ、画像の一部が赤くなった。特に不倫に言及すると画像が真っ赤になった。
ここからは私の感想・考察になるが、まず堀田秀吾さんというお名前で過去日記を検索したところ、昨年9月16日の日記で「不安ってなに?」の解説をされていたことがあり、その時には
「私はわくわくしている」と声に出したり、元気な動き、ヘンテコな動きをすることで、自分は興奮しているのだと脳を騙すことで不安を有効活用できるというようなけったいな方法が推奨された。これにより、テストステロンという男性ホルモンが出て元気になるとも説明された。
堀田秀吾さんはもともと言語学や心理言語学がご専門ということなので、あらゆる苦悩の原因がことばにあるという点は十分に理解されてていると拝察される。但し、今回の放送で紹介されたようなやり方で本当に不安が取り除けるのかどうかについては、もう少し臨床的な証拠を重ねてもらいたいところがある。
とコメントさせていただいた。今回の解説もかなり胡散臭いところがある。
まず、農耕時代に、「集団から排除されそうな人は自分がいかに集団の中で役立つかといういいうわさを広めたり、他人の悪いうわさを広めることで評価を下げさせ生き残りに成功した。」とあるがこれは全くの想像に過ぎない。そういった時代では人々はダイレクトに接する機会が多いので、仮に虚偽のうわさ話を広めようとしてもすぐにウソがバレてしまうだろう。むしろうわさ話ばかりしていると「あの人は自分をよく見せかけようとしたり、他人の批判ばかりしたりするばかりで信用ができない」というように低評価され、仲間はずれされてしまう可能性が高い。
いずれにせよ、現在では「うわさ話で命を守る必要がない」のだから、「生き残るため」はちっとも正解になっていない。
いっぽう、現代では「人がうわさ話をすると脳の報酬系が活性化し幸せを感じるようになるから。」と説明されていたが、これは、楽しいという感情を脳の状態として測定しているだけであり、因果関係として説明したことにはなっていない。要するに、
- 人がAという行動をするのはなぜか? それはAをすると楽しいからだ。
- 人がBという行動をしないのはなぜか? それはBが楽しくないからだ。
と言っているだけであり、トートロジーになっている。なのでこの「説明」からは、AやBという行動を予測したり、増やしたり減らしたりことができない。【行動分析学の強化理論であればそれができるのだが】。
鬼越トマホーク・坂井さんのデモ実験もかなりあやしい。坂井さんの脳の報酬系は、画像を見る限りは確かにうわさ話をする時に活性化しているが、これは、
- 話の内容がうわさ話だったから。
- 坂井さんにとって興味のある話題だったから。←うわさ話以外の話題でも、興味があれば活性化していたかもしれない。
という2つの可能性がある。ちなみに私は芸能人のうわさ話などにはこれっぽっちも興味が無いので、そういう話を聞いても退屈なばかりでちっとも活性化しない。代わりに植物の話とか、数学パズルの話題であれば活性化するに違いない。要するにゴシップ記事だけに限定するのであれば、私なんぞは全く興味の無いどうでもいい話題に過ぎない。いっぽう、チコちゃんの放送のような、日常生活上の雑学的情報について見聞きしたりそれを語ることは私にとっては強化的である。
もう1つ、今回の放送ではもっぱら話し手の行動に言及されていたが、本来、うわさ話は、話し手と聞き手の相互強化の中で成り立つものである。話し手がいくら熱っぽく語っても聞き手が関心を示さなければ会話はそこで中断し別の話題に移行する。要するに、世間一般のうわさ話が話題となりやすいのは、
- お互いにとっての差し障りの無い範囲での関心事である。
- 2人だけの内緒の話をすることで仲間意識が強化される。
- そのような話題を取り上げても特に非難されることがない。←SNS上ではそうはならないので要注意!
といった点にあるかと思う。
ということで、「Aという行動がなぜ行われているのか」という「説明」として、以下の2点はしばしばトンデモになりやすい点を再度強調しておく。
- 大昔の人たちの生活ぶりを証拠の無いまま勝手に想像して、その時代に適応的であったから現代でもそれが続いていると「説明」。現代の行動は、現在の環境要因に基づいて別途説明しなければならない。
- Aという行動が行われているのは、脳の報酬系が活性化しているからという「説明」。これは「楽しいからそうしているのだ」「好きだからそうしている」といったトートロジーになり、行動を予測したり変容させることができない。
次回に続く。
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