じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 岡山では2月1日から5日までの5日間のうち4日間で降水があり、特に2月5日には16.0ミリのまとまった雨が記録されたが、翌日2月6日の朝にはよく晴れ、南東の空に月齢25.4の月と金星が輝いていた。ちなみに月は、2月8日に金星と火星、2月9日には水星に接近した後、2月10日に新月(旧暦の元日)となる。



2024年2月6日(火)




【連載】チコちゃんに叱られる! マズロー説の限界とそれに代わるもの(3)「ピラミッド」の発案者、「欲求」概念の限界

 昨日に続いて、2月2日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。引き続き、

おばあちゃんになるとフラダンスを踊り始めるのはなぜ?

の解説に登場した、マズローの『欲求の5段階』説について考察する。

 まず、昨日も指摘したように、よくみられる『ピラミッド階層の図』はマズロー自身が描いたものではない。この点についてBingに尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。
【質問】
マズローの欲求段階説はピラミッドの図で説明されることが多いようですが、マズロー自身の著書ではそのような図は1つも無いそうです。誰が最初にピラミッド階層を描いたのでしょうか?

【回答】
マズローの欲求段階説は、人間の欲求を5つの階層に分けた理論ですが、マズロー自身はその階層をピラミッドの図で表したことはありませんでした1。ピラミッドの図は、マズローの理論を紹介する他の人たちによって作られたものです1。
最初にピラミッドの図を描いたのは、おそらく1960年代にマズローの理論をビジネスや経営に応用しようとした人たちだと考えられます2。ピラミッドの図は、マズローの理論を視覚的にわかりやすくするために作られたもので、マズローの本来の意図とは異なる解釈や誤解を招く可能性もあります2。
例えば、ピラミッドの図では、欲求の階層が固定されているように見えますが、マズローは欲求の階層は個人や文化によって変わることもあると述べています1。また、ピラミッドの図では、欲求の階層が上に行くほど面積が小さくなっていますが、マズローは欲求の階層が上に行くほど重要性が低くなるとは言っていません1。むしろ、自己実現の欲求は、他の欲求よりも強く、持続的で、満足しにくいと考えていました1。
マズローの欲求段階説は、ピラミッドの図で説明されることが多いですが、その図はマズロー自身の著書にはありませんでした。最初にピラミッドの図を描いたのは、マズローの理論をビジネスや経営に応用しようとした人たちだと思われます。しかし、ピラミッドの図は、マズローの理論を正確に反映しているとは限らないので、注意が必要です。??

(1) マズローの欲求5段階説とは?自己実現理論を階層ごとに分けて .... https://yasabito.com/384.
(2) 【図解】マズローの欲求階層説(5段階欲求)とは?わかり .... https://theories.jp/terms-maslows-five-step-desire/.
(3) マズローの欲求階層説 | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI). https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/ma/maslow.
(4) マズローの欲求5段階説【3分で解説】 - モチラボ. https://motivation-up.com/motivation/maslow.html.
(5) マズローの欲求5段階説の意味とは, わかりやすく解説 - ダイコミュ. https://www.direct-commu.com/chie/mental/maslow1/.
 上記の回答では「マズローは欲求の階層は個人や文化によって変わることもあると述べています」となっていたが、残念ながら私が研究室の書架に取り揃えてあったマズローの主要著書(ただし翻訳書)はすべて定年退職時に図書館に返却しているため、直接確認することはできなかった。いずれにせよ、この『ピラミッド』を登り詰めて『自己実現』の頂点に達するというような「終わり良ければすべて良し」伝説は、現実の高齢者には当てはまらないように思う。【但し、その高齢者自身が、自分の日々の行いを言語的に構造化して、自己実現物語を創作することはできる。それが最善の生き方になるのか、それとも単なる幻想であり痩せ我慢に終わってしまうのかは、何とも言えない。




 以上の指摘に加えて、マズローの説にはより根源的な問題があるように思う。それは「『欲求』で行動を説明できるか?」という問題である。大辞泉によれば、『欲求』は、


1 強くほしがって求めること。「―を満たす」
2 心理学で、生活体に生理的・心理的な欠乏や不足が生じたとき、それを満たすための行動を起こそうとする緊張状態。要求。


と定義されている。マズローの説ではもう少し学術的にしっかりと定義されているとは思うが、この言葉はけっきょく、何かの行動が起こる直前に生じる特定的な体の状態や感覚、(脳科学がもてはやされる時代にあっては)脳の状態を示す言葉に他ならない。
 確かに、生理的なレベルの欲求であれば、例えば「尿意(=おしっこしたい)」という欲求が生じておしっこという行動が行われるし、「空腹」という感覚から「何かを食べたい」という欲求が生じて食事という行動を起こそうとする。素朴に考えても、行動を起こす直前にはその行動に対応した特定的な「欲求感覚」がある、だから行動の原因は欲求であると考えたくなるものである。
 しかし、あらゆる行動の原因を「欲求」に帰属させてしまうと、

●なぜ○○という行動をしたのか? それは「○○したいという欲求」があったからだ。

というトートロジーに陥ってしまう。そうなると、例えば、子どもに
  • 「なぜスマホで遊んでばかりいるの?」と訊けば「遊びたいという欲求があるから」
  • 「なぜ宿題をしないの?」と訊けば「宿題をしたいという欲求が無いから」
という答えが返ってくるばかりで、行動を予測したり改善したりする方法を見出すことができない。

 この点、行動分析学の強化理論は、行動が増えたり減ったりする原因を適確に同定し、必要に応じて改善をはかることができるという点で、欲求理論より優れているように思われる。
 『釣り』を例に挙げれば、素朴な欲求理論では、

●釣りに熱中するのは釣りをしたいという欲求があるから

という程度の説明に終わってしまう。マズローの理論ではおそらく、

●釣りをすることで自己実現欲求が満たされるから。

ということになるのだろうが、なぜある人にとって釣りが自己実現になるのかを別に説明する必要がある。

いっぽう行動分析学であれば、まず『釣り』を、
  1. 事前の準備行動。エサや釣り具の選択。しかけの工夫。
  2. 当日の釣り場の状況と実際の『釣り』行動
  3. 釣果の量と質。
というように細かく分けて分析するだろう。単に釣りに出かければ自己実現が達成されるのではない。決定的な影響を及ぼすのはやはり行動の結果(釣果)であり、強化スケジュールの理論から言えるように、釣果が得られる確率は一定範囲(あまり低いと消去されてしまう。逆に高すぎると単純作業になってしまって飽きられてしまう)である必要がある。また『自己実現』は、上記1.における工夫や努力と、それに見合った釣果の向上(量ばかりではなく、より難易度の高い獲物が釣れるといった質的亜向上)を通じて、実感されていくものと思われる。

 次回に続く。