じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 10月9日の日没時、南の空に月齢6.6の月が見えていた。この日の20時44分に月の赤緯が最南ということであったが、空のかなり高いところに輝いているように見えた。



2024年10月10日(木)




【連載】血液型と出身県で病気リスクや体質が分かるか?(2)統計的な有意差と因果性

 昨日に続いて、「カズレーザーと学ぶ。」で9月10日に初回放送された、

●血液型と出身県でわかる!最新タイプ別の病気リスク&太りやすい体質の県

についてのメモと考察。今回は、本題からはずれるが、昨日の終わりのところで、
「あなたはX型者だからQという傾向を持つ」という予測が有用であるのは、「あなたはX型者であるかどうか分からない」という状態の時に比べて、「あなたはX型者である」という情報を得た時のほうが「Qという傾向を持つ」という予測が大幅に当たる場合に限られる。
と述べたことについて、補足させていただく。
 上に述べたことは数式では次のように表される。

P(Q) << PX(Q)

ここでP(Q)は、ある人がQという傾向をもつ確率、PX(Q)は、ある人の血液型がX型であると判明した時点でのQという傾向をもつ確率、「<<」は左辺より右辺のほうがきわめて大きいということを意味している。この関係は、血液型に限らず、一般的な物理・化学・生命現象にも当てはめることができる。

P(J) << PK(J)

例えばP(J)は癌にかかる確率、PK(J)はある食べ物Kを食べている人が癌にかかる確率であったとする。不等号「<<」が成り立つ場合、Kはきわめて危険な発がん物質であると認定され使用が禁止されるはずだ。
ちなみに、発癌性のような人の命にかかわるケースでは、不等号「<<」(きわめて大きい)ではなく、

P(J)  PK(J)

というように「」(わずかに大きい)という関係であっても、十分な調査を重ねた上で安全性が確認されるまでは当面使用禁止とするのが妥当ではないかと思う。

ここで留意しなければならないのは、単なる統計データの有意差だけで判断してはいけないということである。なぜそのような差が生じたのかについて因果関係を解明する必要がある。発癌物質の場合、その物質のどのような化学的性質が癌を発生させるのかを明らかにしていく必要がある。もちろん研究の出発点においては疫学的手法により大量にデータを集めてどういう条件のもとでどういう現象が起こりやすいのかを発見していくことが必要であるが、それで終わらせてはいけない。

 血液型性格判断の重大な欠陥の1つは、いくら大量にデータを集めたとしても、またその結果として一部に統計的な有意差が見られたとしても、そこから先の因果関係の分析には進めないことにある。そもそも性格というのは大ざっぱな分類概念に過ぎず、遺伝的要因のほか個々人の生育環境、さらには現在の生活環境の中で特徴づけられていくものである。仮に特定の血液型であることが要因の1つに含まれていたとしても、それだけを切り出して行動傾向との因果関係を見つけ出すということは原理的には不可能に近い。
 さらに、血液型と特定の行動傾向との関係に統計的な有意差があったとしても、それが本当に血液型によってもたらされたものであるとは断定できない点にも留意する必要がある。
  • 血液型性格判断の信奉者は、自分の性格が血液型本に書かれた通りであると思い込んでしまう恐れがある。例えば「B型はマイペース」と信じてしまうことで、質問紙性格検査に回答する時にマイペースの特徴に関連した項目にYESと答えてしまう可能性がある。
  • 「AB型者は免疫力が最も弱いので、なるべく外出は避け」というような記述(2021年9月19日の日記参照)を真に受けたAB型者が本当に外出を避けるようになれば結果的に引きこもりのAB型者が増え、「AB型は引きこもり」という特徴が統計的に有意に確認されるかもしれない。しかし、真の原因は、AB型という血液型が原因で引きこもりになったのではない。免疫力が弱いので外出を避けるようになった人がAB型者に多かったからそのような有意差が出たというだけの話に過ぎない。


 今でも血液型と性格の関係を科学的に解明しようと大量のデータを集めている人がいると聞くが、どうせ集めるなら、一部の人が血液型占いにマインドコントロールされてしまった日本ではなく、まだ汚染されていないどこぞの外国で調査をしなければ実りある研究には至らないであろう。

 もう1つ、重要なポイントは「予測の有用性」あるいは「実用的価値」の問題である。今回話題の「血液型の違いによる病気リスク」については、それが病気の予防や治療に役立つほど顕著なものであれば「有用」であるが、そうでなければテレビ番組などで誇大に吹聴するようなものではないように思う。純粋に学問的な関心からそれらを学ぶ意義はあるかもしれないが、生半可な知識だけで「○○型は病気にかかりやすい」という部分だけが一人歩きすると、採用人事、昇任人事、結婚、教育場面などで特定の血液型者が不利益を被る恐れが出てくる。
 いずれにせよ「有用性」というのは、大概はある人たちだけにとっての有用性である場合が多い。「B型者はマイペース」という偏見は、B型者本人にとっては日常会話場面での冗談で済まされない不利益になることがある。例えばチーム活動を重視している企業の採用人事担当者が血液型信奉者であったとすると、マイペースの人では困るという理由でB型者を不採用にする恐れがある。
 今回の「病気リスク」の話題についても、例えば、血液型別に生命保険料の額を変えるなどということになれば、高額な保険料を取られることになった血液型者は不利益を被ることになる【生命保険料の額が男女で異なることについては、女性の方が長生きすることが明白である現在は致し方のないところだが】。

 次回に続く。