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10月25日初回放送の『チコちゃんに叱られる』の『ひだまりの縁側で…』で「星の書き順でわかる」という胡散臭い性格テストモドキが紹介された。任意の団体が独自の考えに基づいて占いや性格テストモドキを宣伝するのは勝手だが、公共放送たるNHKが裏を取らずにその中の1団体の説を無批判に垂れ流すというのはいかがかと思う。 |
【連載】チコちゃんに叱られる! 公共放送NHKが書き順占いを推奨?/インチキな性格テストを見破る方法 昨日に続いて、10月25日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
さて星形の図形の書き順で性格が分かるという話題だが、これは岡本さんと同じ歳の視聴者からの、 「星の一筆書き」で性格診断をやっていました。私と息子は、左下から半【反】時計回りで書き上げて、「芸術肌タイプ」というのがわかりました。と、その時です!! 妻が「変な書き方ぁ↑!!」と言ったので、イラッとした私は、「じゃ書いてみろよ」と言って書かせたところ な、なんと星が逆さまになっていたのです。私と息子は、「えーっ!!逆さまやん!!」 それから妻とは気不味い雰囲気になりました・・・今までの人生の中で、初めて見たので、ちょっとショッキングでした。星を逆さまに書く人、全国にいるのかなぁ? と思う今日この頃です。というお便りに対して、 ●じつは一筆書きで星を書く時、どこから書き始めるかで性格が分かるテストがあるそうです。 ということで、上掲の画像が紹介されたものであった。なお画面の右下には「出典;一般社団法人日本アートセラピー協会 堀向勇希」という文字が入っていた。 さっそくネットで「堀向勇希(ほりこうゆうき)」さんを検索したところ、こちらにご本人のブログがあった。同姓同名の可能性もあり得たが、一般社団法人日本アートセラピー協会代表、開運未来アカデミア代表という肩書きがあり間違いないことが確認できた。 一般社団法人日本アートセラピー協会代表ということで臨床心理学の研究者かと思ったが、リンク先に手相、人相、姓名判断などの養成講座の案内があること、また、旧ツイッターの自己紹介蘭に、 開運・占い・スピリチュアル・アート・ウィーン国立応用美術大学首席→さまざまな夢を挫折→言葉や考え方を変えて開運→手相一万人鑑定→年間300回のセミナー・手相鑑定士養成は4500名以上で日本一・開運する方法や個人で楽しく生る方法を発信します。ミニマリスト。ベストセラー『褒め活』著者と記されていることからみても、心理学とは縁もゆかりも無い占い師であることは間違いないように思われた。 いっぽう『一般社団法人日本アートセラピー協会』については類似の団体もあって、どれが堀向勇希さんが代表理事をつとめておられる団体なのか、また研究活動をしている団体なのか、講座を開設して収益を上げることが主目的な団体なのかは確認できなかった。なお、相当昔の話にあるが、ネット上で「○○療法」やら「○○セラピー」を名乗る団体がどのくらいあるのかについては、 ●スキナー以後の行動分析学(10): 高齢者福祉におけるセラピーの2つの役割 〜心理学はどう関われるのか〜(2001年) という論文で取り上げたことがあった。 ここでお断りしておくが、私は別段、占い師さんが社会的に許容される範囲(反社会的行為を助長しない、営利優先ではない、カルト宗教のようなマインドコントロールをしない、など)で独自に活動されることについては特にどうこう批判するつもりはない。経験を積んだ占い師さんからアドバイスを受けることは、新米の臨床心理士からのアドバイスよりも遙かに効き目があるかもしれないと思うこともある。 今回指摘しておきたいのは、あくまでNHKの姿勢にある。放送で ●じつは一筆書きで星を書く時、どこから書き始めるかで性格が分かるテストがあるそうです。 という形で紹介されてしまうと、視聴者はこれが科学的根拠に基づいた信頼できるテストなのか、それとも日常会話を盛り上げるための占いごっこなのか見極めがつかない。また占いごっこだと割り切っているつもりが進路選択や採用人事に影響を及ぼす恐れも全く無いとは言えない。 ちなみに、今回のような「星の書き順でわかる性格テスト」が胡散臭いことは、5通りのタイプの中身を見ればすぐに分かることだ。上掲の画面では、5通りの書き順別に、
また、このテストではすべての人が@からDのいずれかの書き順になるが、すべての人が『リーダータイプ』、『八方美人タイプ』、『ロマンチストタイプ』、『芸術肌タイプ』、『リア充タイプ』の5通りに分類できるわけではない。もっと別のタイプが無数にあるはずなのに、書き順5通りだけに画一化できるとは到底考えられない。 なお、性格テストの背景には、類型論と特性論という2つの考え方がある【こちらに分かりやすい解説があった】。今回のテストは形式上は類型論の1つになるが、単にタイプ分けしてそれぞれの断片的な特徴を述べるというだけでは学術的に価値のある理論とは言いがたい。リンク先に挙げられているクレッチマー、シェルドン、ユング、シュプランガーなどの類型論では、それぞれの類型の成り立ちが詳細に分析されており、全体的な人間像を把握することができる。今回挙げられたようなテストの正当性を主張するのであれば、まずはその土台となる類型論をしっかりと明らかにしてもらいたいところだ。 余談だが、描画に関する心理テストとしてはバウムテスト(樹木画テスト)というのがある。A4の用紙1枚と鉛筆1本と消しゴムを渡して「実のなる木を一本描いてください。」と教示するだけのシンプルなテストであり、私自身は学部生の時に心理テストの実習(但し教育学部開講科目)で教わったことがあった。リンク先に記されているように、かなり綿密な分析が行われ、保険の適用が可能な心理検査の1つになるという。 もっともこのテストは、未熟な検査者が担当した場合、主観的な解釈、事後的なこじつけが起こりやすいというデメリットがある。例えばある少年が自宅の庭にあった盆栽の絵を描いたとする。ところがその少年が少年院で生活していたと分かると、「盆栽の絵は規則に縛られた環境のもとで枝を摘み取られてばかりで生育できない窮屈さを反映している」と解釈されたりする。 このテストは、なぜか新学期の健康診断の際の問診票の裏側を使って毎年行われていた。私は毎年、クネクネとした葉っぱの無い木、実はすべて落下、地下の根もクネクネ、幹の左側に影、という絵を描いていたが、どう解釈されていたのだろうか。もっとも、健常者がどんなに奇妙奇天烈な絵を描いても作為的であることはすぐに見破られてしまうという。本当に深刻な状態に陥っている人は、木の幹にあたる長方形1本と、枝を表す斜めの棒線しか描けなくなったりするらしい。 いずれにせよ、心理テストは遊び半分に使うものではない。面白がって遊んでいるうちにとんでもない思い込みや偏見が生じる場合もある。その背景には、多くの人たちが「行動の原因は性格の違いにある」と思い込んでいること、というかそもそも性格とは何かについて正しい理解が得られていないことにある。このことは私が心理学を学び始めた学部時代から指摘され続けていたが、けっきょく、私が定年退職して7年経ってもちっとも変わっていない。それだけ好まれやすい話題なのだろう。 [※追記] NHKに以下のような意見を提出しておいた。 10月25日初回放送の『チコちゃんに叱られる』の『ひだまりの縁側で…』で「星の書き順でわかる」が紹介されました。 しかしながらこのテストは科学的な根拠に基づくものではありません。 また画面の右下の「出典」という表示をもとに調べたところ、堀向勇希さんという方は手相、人相、姓名判断などの養成講座を主宰している占い師のようです。 公共放送を自認するNHKがそれを無批判に受け入れ、しかも「性格占い」としてではなく、科学的な根拠があるかのように印象づける「性格テスト」という呼称で紹介したことは大いに問題があるように思います。 世間では相変わらず「性格占い」と科学的な根拠に基づく「性格テスト」が混同され、遊び半分に使われていたりしますが、本当の性格テストとはどういうもので何のために作られるのかということを正確に伝えることがNHKの使命ではないかと思います。 |