じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 8月中旬に開花したコチョウランを室内に置きっぱなしにしているが、3か月経ってもまだ1輪だけ残っている。1輪の寿命の長さには驚かされる。


2024年11月13日(水)




【連載】あしたが変わるトリセツショー『がん対策』(9)ナッジの応用(3)「あの手この手」の検証?

 昨日に続いて、10月17日(木)に初回放送された、

がん対策

についてのメモと感想。本日から放送内容に戻る。

 放送ではナッジの事例として「ピアノの鍵盤のようにデザインされた音の出る階段」と「便器にハエの絵を描いた男性用トイレ」に続いて、溝田友里さん他の論文が紹介された【無料で閲覧可能】


Mizota & Yamamoto (2021).Rainbow of KIBOU project: Effectiveness of invitation materials for improving cancer screening rate using social marketing and behavioral economics approaches. Social Science & Medicine, 279, 113961.

 放送では、さらに、がん検診の案内状の工夫が紹介された。
  • 「どうせ受けるならセットでお得!! 肺・胃・大腸の3つのがん検診が、一日で受診できて3,000円!! 費用の70%市が負担」というようなキャッチコピーで、お得感を出す。
  • 案内チラシはどこでも印刷できるペラペラの紙をあえて使用し割安感を演出。
  • 肺がん検診では、「一年に5分ください。二人の医師が、じっくり診ます」というキャッチコピーを採用。喫煙者はタバコを吸うことで肩身が狭い思いをしているので、いまさら「肺がん=タバコ」なんて言われてももう知ってるよというふうになるので「肺がん=タバコ」とは言わないでお願いをした。

 4市の住民を対象にこうしたキャッチコピーを使った葉書を送付したことで、4市の受診率は、送付前が数%〜10%未満だったものが約5%〜45%に、増加率は3.4倍から5.5倍前後に上昇したという。

 さらに今回は新たな「秘策」として
  1. 子宮がん検診を受けない人100人以上の話を聞いた上でそれぞれの人へのメッセージを送る。
  2. 「大腸がん検診は自宅で簡単にできる便検査です。内視鏡ではないですよ」というキャッチコピー。おしりからカメラを入れるのは嫌だと思っている人に、便潜血検査の受診を促す。
  3. 「肺がん死の2人にひとりは、喫煙者でも受動喫煙者でもありません」というキャッチコピー。「喫煙・受動喫煙が原因」とされているのは男女合計では60%、女性だけでは37%、残りは「たばこが原因とはいえない」という円グラフを示し、「自分はタバコを吸わないから関係無い」という人の受診率を高める。
  4. 今回はさらに、トリセツの放送のタイミングに合わせて検診の案内状を送付。これは、テレビの通販のCMによく出てくる「今すぐお電話を! オペレーターを増員してお待ちしております」と同じ効果を狙ったもの。がん検診への関心は、親戚の人、有名人、友人などががんになった時に高まるが、自治体からの案内状はそれとは無関係に春に送られるのが一般的であり、関心が高まる時期とは一致していない。そこで、今回の「トリセツ」が放送され関心が高まった時期に検診案内を送付。このプロジェクトには280自治体(10月15日現在)が参加、送付対象者は150万人にのぼるという【岡山県では津山市のみ参加となっていた】。
が導入された。なお、4.の取り組みの成果については11月14日の放送の中で報告されるという。

 ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、まず溝田友里さんの行動力は畏れ入った。そのことに敬意を表した上での印象であるが、これまで拝聴した限りでは、ナッジの活用は「あの手この手」に及んでおり、その中の何が成果につながったのか、何はあまり役に立たなかったのかが分かりにくくなっているように思われた。ま、自治体の政策手法というのはそういった複合的なものであり、予算の範囲で、良かれと思われることはあれもこれもやってみよう、ということにならざるを得ない面はあるが、これでは研究にはならない。成功率がある程度高まった段階では必ず伸び悩みが起こると予想されるが、その際、何が伸び悩みの原因なのか、どうすれば伸び悩みを克服できるのか、を知るためには、実験計画のデザイン、もしくは、PDCAサイクルのような実践モデルを導入する必要がある。

 次に、案内状のキャッチコピーの工夫だが、これはあくまで案内状に目を通した人だけに有効な対策に過ぎない。いろいろな郵便物や宣伝メールは私のところにもが送られてくるが、私の場合、明らかに宣伝目的と推測できるようなものは開封せずに廃棄している。なのでいくらキャッチコピーが工夫されていても目にする機会は無いかもしれない。このこともあり、案内状送付とは別に、いろいろな情報発信手段を拡張する必要がある。私が比較的目にするのは病院や薬局の待合室内でのポスターや、液晶画面に表示される各種案内など。待ち合い時間は退屈なので目に入りやすくなっている。

 放送の中で、「今すぐお電話を! オペレーターを増員してお待ちしております」という通販CMに言及されていた。溝田さんは「私 もともと夜中にやってる通販番組が好きで衝動買いをすごいしちゃうほうだった。これってどういう心理なんだろうって自分で考えていて、それががん検診にも応用できるのでは、と思いついた」と語っておられたが、私などは全く逆で、通販のCMは視れば視るほど腹が立ってきて、映像に向かって「このインチキ野郎! さっさと引っ込め! つぶれてしまえ!」と怒鳴りだし、妻から静かにしてちょうだいと文句を言われることさえある。これは私自身がそもそも通販、特に健康食品の宣伝はこれっぽっちも信用していないことにある。また早朝5時台に「オペレーターを増員してお待ちしています」などと言うのは明らかに嘘っぱち、そんな時間帯に増員できるはずがないと、ますます腹を立ててしまう。だからどうせよ、という話でもないが、世の中には私のようなCM嫌いもいることは知って欲しいとは思う。

 次回に続く。