じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 1月31日(金)初回放送の『チコちゃんに叱られる!』では「人見知りをするのは死にたくないから」と解説された。

私たち人間は太古から集団で生活していた。その集団に外部から訪れた見知らぬ人は、縄張りを奪いにきた敵かもしれない。そんな危険性を持った人間を易々と受け入れていたのでは命はいくつあっても足りない。この不安や警戒心があったからこそ人間はここまで繁栄できた。

という内容であったが、石斤を持った男が単身で集落に乗り込んできただけで縄張りが奪われることはない。村人たちは、別段人見知りをしなくても、正体を確認し適切に対処できるはずだ。

いっぽう、本当に縄張りを奪うことが目的であれば、武装した集団となって襲ってくるはず。そのような場面では最初から戦いが始まるので人見知りをしているヒマなどない。

ということで「人見知りするのは死にたくないから」という説明はかなりあやしい。

2025年02月1日(土)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「人見知りするのは死にたくないから」という奇を衒った説明

 1月31日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
  1. 人見知りするのはなぜ?
  2. なぜ下着もズボンもパンツという?
  3. 「仕出し」と「出前」なにが違う?
とい3つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。

 放送では「人見知りするのは死にたくないから」が正解であると説明された。心理療法についえ研究している清水栄司さん(千葉大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
  1. 『人見知り』とは、見慣れない人に対して、不安・緊張で積極的に会話できない状態を指す。
  2. 人見知りをするのは、「人見知りをしないと『死んでしまう』かもしれないと脳にインプットされているから。
  3. 公園で家族で遊んでいる時に見知らぬ人が近づいてきた警戒する。私たち人間は太古から集団で生活していた。その集団に外部から訪れた見知らぬ人は、縄張りを奪いにきた敵かもしれない。そんな危険性を持った人間を易々と受け入れていたのでは命はいくつあっても足りない。この不安や警戒心があったからこそ人間はここまで繁栄できた。
  4. つまり人間は、見知らぬ相手から自分の命を守るために不安や緊張という感情をいだき、人見知りという行動を本能的に行っている。
  5. 赤ちゃんが知らない人に対して泣いてしまうのは本能的な人見知り。
  6. しかし大人になると、見知らぬ人が知らない情報をもたらしてくれるなどのメリットを感じるようになり、人見知りは自然と無くなる。
  7. 大人になっても人見知りする人は、ささいなことを敏感に感じとることのできる繊細さを持っているから。さらに、自分自身に注意が向いてしまい、自分に問題があるのではないかと考えやすいクセを持っているから。
  8. 例えば誰かと会話中、話の途中で相手が視線をそらしたとする。人見知りしない人は「【窓の外を】何かが通ったのかな」くらいにしか思わないが、人見知りの人は「自分の話はつまらないのかな」と、自分に何か問題があるのではないかと不安感をいだいてしまい人見知りへとつながる。
  9. もう1つ、大人になっても人見知りする人は、恥をかいたり嫌な思いを経験している。
  10. 放送では芸能人2人がそれぞれ同業者の知り合いの人見知りの事例について語った。実名は挙げていないが、どちらも岡村さんについてのエピソードであったようだ。
  11. 人見知りを解決する方法は、自分に注意を向けすぎないこと。自分よりも相手に注意を向けるだけで楽になる。例えば緊張で顔が赤くなってしまった時、相手をよく見ると意外と何とも思っていないものだと分かる。
  12. そして人見知りをネガティブに捉えないこと。【人見知りの人が】繊細であるということは、マイナスな感情に敏感であると同時に幸せな感情にも敏感。つまり【人見知りの人は】幸せな気持ちを人よりも多く感じることができる。人見知りと上手に付き合っていこう。


 ここからは私の感想・考察を述べさせていただくが、今回の解説は前半と後半の2段階から構成されていた。
  • 【前半】「人見知りするのは死にたくないから」。人間は、見知らぬ相手から自分の命を守るために不安や緊張という感情をいだき、人見知りという行動を本能的に行っているという説明。
  • 【後半】大人になっても人見知りする人がいるのはなぜか。どうすれば解決できるか?

 このうち前半部分の説明はかなり胡散臭い。昨年12月30日の日記でTop5を挙げたように、チコちゃんの番組で時たま胡散臭い説明が登場する。ほぼ共通しているのは、

●大昔(石器時代?)に有用であった習慣が脳にインプットされ(遺伝子に記憶され)、現代に受け継がれている。

といった進化心理学モドキのこじつけである【さらには脳科学の専門用語で権威づけしている場合もある】。なぜそれが問題なのか(説明になっていないのか)については改めて繰り返さないが、とにかく解説に「太古」、「遺伝子」、「進化」、「大脳」といった言葉が出てきた時には疑ってみる必要がある。

 今回の話題では「人見知りするのは死にたくないから」と解説されていたが、上掲のイラストに描かれているような場面、つまり見知らぬ男が単身で集落にやって来たような場面では、村人たちのほうがはるかに優勢であって、人見知りをしてもしなくても縄張りを奪われたり命を奪われたりする危険はきわめて小さい。また、本当に縄張りを奪うことが目的であれば、武装した集団となって襲ってくるはず。そのような場面では最初から戦いが始まるので人見知りをしているヒマなどないはずだ。
 さらに、今回の話題では、人見知りは「見慣れない人に対して、不安・緊張で積極的に会話できない状態を指す。」と定義されていたが、そうであるならば、

人見知りしない人:見慣れない人に対しても不安をいだいたり緊張したりせず積極的に会話ができる人

ということになるはず。であるなら、太古の集落においても、人見知りする人よりは人見知りしない人のほうが、見慣れない人に対して適切に対応できたはずで、「太古においては人見知りしたほうが命が助かるので適応的」という説明は矛盾してしまうことになる。

 念のためこちらこちらの情報を拝見したが、経歴や業績、役職などを拝見する限り、清水さんは進化心理学モドキのトンデモ説を唱えるような方とは到底思えない。おそらく番組制作者の意向を汲んで、視聴者が意外性を感じるように「死にたくないから」という説明にしてしまったのではないかと拝察する。いずれにせよ前半の進化心理学モドキの「説明」は、後半の「大人になって人見知りする」ことの説明にも、解決策のヒントにもなっていない。

 なお、この放送では人見知りを対人場面における現象として捉えていたが、人間以外を含めて、多くの動物は、新奇な対象や環境を警戒する性質を持つ。これは『新奇性恐怖』(Neophobiaと呼ばれる。この概念はたいがい新奇な食物を口にしない場合に使われるが、見知らぬ人や新しい環境に対する不安や緊張にも共通した特徴が含まれているようだ。この場合は、とにかく『慣れ』(habituation)で解消できる。

 もっとも、『人見知り』という現象は『慣れ』だけでは解決しない場合がある。これは、『対人恐怖』、『コミュ障』、『非社交性』、『人間嫌い(孤独志向)』などが、『新奇性恐怖』と混同されているためであろう。
 放送では解決策として「自分に注意を向けすぎないこと」と「人見知りをネガティブに捉えないこと」が推奨されたが、これらは見知らぬ人への人見知りを解消するというより、学校や職場における対人関係を円滑にするための方策であるように思われる。

 ところで、一般には「人見知りは解消すべきもの」が前提となりやすいが、どれだけ解消したほうが良いのかは、それぞれの人の生活環境、職業などによる。昨年12月の日記: で述べたように、私なんぞは、定年退職後はもっぱら孤独志向であり、妻・子・孫などとの交流を除けば、可能な限り対人接触を減らすことを好むようになっている。とにかく他人と会うのは煩わしいし、そのような対面場面を予定したりするのは束縛、じっさいに時間を費やすということは時間のムダであるように感じる。といっても別段、不安や緊張を避けているわけではなく、あくまで「煩わしい」と感じるからであって、人見知りとは異なっているように思う。とはいえ、介護施設に入居したり病院に入院すれば、対人接触は避けることができない。そうならないためにも(そういう期間を最短にするためにも)可能な限り健康寿命を延ばしたいと思っている。

 次回に続く。