じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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【インドネシアその35】イジェン山火口の「青い炎」
  •  写真上はスマホ、写真中はデジカメで撮影した「青い炎」。撮影から5分も経たないうちにあたりは明るくなってしまった。
  •  写真下は明るくなったあとの火口底の賑わい。「青い炎」の見物者はすでに戻っているので、半分以下に減っているがそれでも多い。大多数はアジア系の観光客だったが日本人は私たちのツアー参加者以外には見当たらなかった。





 【インドネシアその35】イジェン山火口の青い炎
 今回のツアーの最大の目玉は、イジェン山火口から立ち上る青い炎を見物することにあった。当日は
  • 深夜0時にモーニングコール。0時45分にホテル発。
  • 登山口で、ヘッドランプ着用。火口底で使用するためのガスマスクとゴーグルを点検。なおゴーグルは実際には使わなかった。
  • 登山ゲートが開く2時に登山開始の予定だったが、トイレが混雑しており2時半の出発となった。なお、有料トイレ(5000ルピア)は登山口のほか、山頂近くと火口壁山頂の2か所にもあった。
  • 登山口の標高は約1900m、火口外壁頂上は約2300mで所要時間約2時間、そこから火口底(約2100m)までは約30分を予定していたが、真夜中の登山でもあり高齢者も多かったことから想定以上に時間がかかり、暗いうちに火口まで降りることが難しくなってしまった【←あたりが明るくなると青い炎を見ることができない】。
  • そこで、
    1. 早足で火口まで下りるメンバー
    2. 明るくなってもよいからとにかく火口まで下りるメンバー
    3. 火口に降りるのを諦めて火口壁の頂上から朝日を浴びる火口を鑑賞するメンバー
    に分かれて行動することになった。
 私自身は上記1.に参加し真っ先に火口底に到着したが、すでにあたりは明るくなりかけていてヘッドランプ無しでも歩けるようになっていた。そのため「青い炎」を見られたのはほんの5分〜10分間程度であった。

 以上の経験から言えることは以下の通り。
  • 「青い炎」は火口斜面全体に燃え上がるほどの規模ではなく、ごく限られた場所で硫黄を含む塊が燃え落ちていく際に発せられる現象であった。なので、トルクメニスタンの地獄の門エチオピア・エルタアレの溶岩湖と同じ規模だと勘違いして訪れるとガッカリするかもしれない。
  • 完全に観光地化しており、秘境とは言いがたい。
  • 乾期とはいえ気象条件によっては見学できないこともある。ほぼ同時期に催行された別のツアーは、雨のため火口底には降りられなかったと聞いている。
  • 火口底からの風景【写真下】は、日本の草津白根山・湯釜によく似ていた。もっとも私が中学生の頃は湯釜の火口底まで降りられたが、現在は火山活動が活発のため草津白根山エリアには立ち入れないという。
  • 過去の登山経験が豊富な方でも、事前に深夜に600mほどの高低差のある山に登る訓練をしておいたほうがいい。特に高齢者の方は、過去の経験を過信しないほうがいい。


2025年08月10日(日)




【小さな話題】『決断』と『選択』(3)行動分析学における『決断』

 昨日の続き。

 昨日の日記で、Yahoo検索の際にAIによって回答された『決断』の定義を引用した。一部を再掲すると以下のようになる。
決断とは、心をはっきりと決めること、きっぱりと断を下すことを意味します。言い換えれば、何かを決めて、それ以外の選択肢を断つことです。

決断は、単に選択することとは異なり、何かを選ぶと同時に何かを捨てることを伴います。多くの人が決断をためらうのは、選ばなかった道に別の可能性があるかもしれないという迷いがあるからです。しかし、ビジネスの世界では、決断を先延ばしにすることが最大のリスクとなる場合もあります。
【以下略】


 以上は『決断』についての一般的な定義であるが、行動分析学では『決断』をどのように考えているのだろうか。私自身の考えは、

長谷川(2015).選択行動の実証的研究における5つの課題. 岡山大学文学部紀要, 63, 11-30.

などですでに述べているが、これはあくまで私の個人的な見解であって広く認められたものではない。そこでChatGPTに、

行動分析学からみると、『決断』とはどのような行動になりますか?

と尋ねてみた。いただいた回答は以下の通り。【但しこれが行動分析学会の公式見解というわけではない。念のため】。

行動分析学(応用行動分析、ABA)の視点から見ると、『決断』というのは\*\*「観察可能な行動」そのものではなく、複数の行動の選択(選択的反応)」として捉える\*\*のが基本です。

### ◆ 決断とは何か(行動分析学的解釈)

行動分析学では、「決断」は次のように考えられます:
**「複数の行動選択肢がある状況において、ある1つの行動を選んで実行すること」**
つまり、
  • **「Aをする」 vs 「Bをする」** という選択場面において、
  • そのときの\*\*過去の経験(強化・弱化の履歴)**や**現在の環境条件(文脈)\*\*に基づいて、
  • \*\*どちらかを選ぶ(= 実行する)\*\*という行動が「決断」とみなされます。

### ◆ 決断に関与する要因
  1. **先行条件(Antecedents)**
    * 選択を迫る状況や、求められる課題の提示など。
  2. **行動(Behavior)**
    * どちらの行動を選んだか、または選ばなかったか(例:「退職する」vs「残る」)。
  3. **結果(Consequences)**
    • * 選んだ行動によって得られた結果(強化 or 弱化)。
    • * 将来の類似場面での選択に影響を与える。

### ◆ 「迷う」「決められない」はどう捉える?

「迷っている」「決めかねている」状態も、行動分析学では以下のように理解されます:
  • * **対立する強化履歴が拮抗している状態**
    例:「Aは安定しているけどつまらない」「Bは魅力的だが不安」→強化子の価値が接近していて、行動が定まらない。
  • * **選択の文脈が不明瞭**(情報不足・環境刺激が曖昧)
    → 反応が誘発されにくい。

### ◆ 行動としての「決断」を促すには

行動分析学では、次のような操作を通じて「決断行動」を促すことができます:
  • * **選択肢ごとの強化の見通しを明確化**
    * 例:「この選択をすれば、こういう良い結果が得られる」など、強化子を提示。
  • * **不確実性の低減**
    * 情報を増やし、「結果が予測できる」ようにする。

* **強化スケジュールの設計**
* 決断することそのものを強化する(例:小さな意思決定を繰り返すことで「決める力」を育てる)。

### ◆ まとめ
  • 一般的な意味の「決断」:意志や判断力によって何かを選ぶこと
  • 行動分析学的解釈:過去の強化履歴と現在の環境条件に基づく「選択行動」


 以上の回答内容はほぼ妥当であり、とりわけ、『決断』の説明要因を「意志」や「判断力」に委ねるのではなく、「過去の強化履歴と現在の環境条件に基づく『選択行動』として捉える点は大いに賛同できる。
 もっとも決断に関与する要因を

●「先行条件(Antecedents)→行動(Behavior)→結果(Consequences)

という直接効果的な随伴性の枠組みで捉えることには限界があるように思う。こちらの講義録でも論じているように、

●行動は、要素的な反応群の寄せ集めではなく、入れ子構造(nest)をなしている。

という巨視的な視点が求められる。
  • 例えば、「自転車通勤」という行動は、「ペダルをこぐ」、「自転車が倒れないように バランスをとる」といった行動から構成されている。また、もし自転車通勤が地球温 暖化防止策の一環として行われているのであれば、「環境配慮行動」の一要素として、 クールビズ着装行動、エアコンの省エネ設定行動などとともに総合的に強化されるで あろう。そのいっぽう、自転車通勤が、行動遂行者の健康増進の一環であるとすれば、 それらは日々の散歩、ダイエット、スポーツジムに通う、規則的な生活をする、禁煙 を維持するなどの諸行動とともに総合的に強化されるであろう。
  • 行動の入れ子構造は初めにありきではなく、社会の中で用意され、構成員によって相互に提供しあう強化随伴性、弱化随伴性の中で形づくられていくのであ る。そしてその随伴性こそが、Skinner(1981)が言う、「進化した社会的環境によって維持されている特殊な随伴性」であり、「文化」や「慣習」の根源であると考えられる(長谷川, 2010)。それゆえ、「文化」や「慣習」を分析するためには、当該行動の特徴や構造ばかりでなく、それを維持・強化している随伴性を同定しなければならない。
  • 反応クラスというのは一義的に定まるものではない。マクロな行動に注目するか、個々の要素的な行動に注目するか、というのは分析のニーズに依存している。例えば、
    • ある遊園地で、入園者に割引クーポンを配付するイベントを開催したとする。これによ って入園者が増えたとすれば、割引クーポンの配付は来園行動を強化したということができる。この場合は、「来園行動」が1つの反応クラスということになる。
    • いっぽう、この遊園地には 10種類の遊具とレストランがあったとしよう。上記の割引クーポンの配付によって、ジェットコースターとメリーゴーランドの利用者は増えたが、レストランの利用者は全く増えなかったとする。この場合は、レストラン利用行動を1つの反応クラスとして有効な強化随伴性を検討する必要がある。
ということで、とにかく、微視的な強化随伴性で『決断』を説明することはできない。賃貸における「引っ越しの決断」を例にとれば、決断の最も直接的・核心的な行動は、新たな物件の賃貸契約書にサインをして敷金・仲介手数料を支払うことにあるが、事前にサインをするという動作を繰り返し強化したからといって出現確率が高まるというものではない。契約という行動は、社会的に構築された随伴性(契約行為とその結果を記述したルール)によって強化されるものであり、さらに言えば、契約行為自体は本質的な問題ではない。「引っ越しをせずにそのまま住み続ける」という行動から「新たな住居で暮らす」という行動Bへ切り替える際に(入れ子構造をなした)どのような巨視的随伴性が働いているのかを見極めることが重要である。

 不定期ながら次回に続く。