【連載】チコちゃんに叱られる! アスファルトの正体/ホタテの貝殻はアスファルト舗装に混ぜるより海に捨てたほうがエコか?
昨日の続き。9月12日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日の話題は以下の通り。
- なぜ絵文字ができた?
- なぜ横浜に中華街がある?
- アスファルトってなに?
本日はこのうち最後の3.について考察する。
放送ではアスファルトは「はるか昔生きていた微生物の死がい」が正解であると説明された。土木材料について研究している加藤佳孝さん(東京理科大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- アスファルトの原料は原油。よく石油だと間違えられるが、
- 石油:総称。
- 原油:地中から採取したままの石油。原油の主な成分は、古代の海や湖にいたプランクトンなどの微生物の死骸。海中の底に積もった微生物の地層は、熱や圧力により数百万年〜数億年かけて化学変化を繰り返し原油となる。
- 原油を蒸留すると温度によってさまざまな物質に変化する。
- 35℃〜150℃:ガソリン
- 150℃〜250℃:ジェット機燃料
- 250℃〜350℃:軽油
- 350℃以上:重油やアスファルト
- 現在のアスファルトは原油を人工的に加熱して精製するのが多いが、天然アスファルトというのもあり、地層の中から地上に噴き出すケースもある。例えばトリニダード・トバゴのピッチ湖ではでは天然のアスファルトが湧き上がっていたり、日本でも昔から新潟や秋田などの地層で採れていた。
- アスファルトは非常に加工しやすい素材で、約50℃でやわらかくなり始め、冷ますと硬くなる。その性質を利用して、日本では縄文時代に石の矢じりと木の部分を固めたり土器を補修する接着剤に使われていたりした。
- 1800年代になるとロンドンやニューヨークの道路の舗装に使われるようになった。
- 日本でも1878年、東京・神田の昌平橋で初めてアスファルト舗装の道路工事が行われた。
放送では続いて、実際のアスファルト舗装の道路工事の工程が紹介された。道路の舗装には別にコンクリート舗装があるが、
- アスファルト舗装は冬場は1〜2時間、夏場でも2時間で完成するので夜間工事で朝には使えるようになるが、一般的なコンクリート舗装は1〜3週間程度かかる。
- コンクリート舗装の耐用年数は40〜70年。いっぽうアスファルト舗装は10〜20年。なので、多くの車が停車する高速道路の料金所周辺の路面、何度も補修工事をするのが大変なトンネルや坂道などにはコンクリートが必須。
- 現在日本の道路の舗装は、
- アスファルト 80%
- コンクリート 6%
- 未舗装14%
となっている。
また終わりのところでは、ホタテの貝殻を使ったエコなアスファルト舗装が紹介された。現在日本では年間25万トン以上のホタテの貝殻が廃棄されているが、埋めても分解されないうえに塩分を含んでいて土を汚してしまう。貝殻は海の中のCO2を吸収して成長しているので貝殻の中に大量にCO2を蓄積しており、燃やすとCO2が大量に出てしまう。そこでアスファルトに混ぜて再利用すれば貝殻に蓄積したCO2を道路に閉じ込めることができる。現在、北海道・八雲町で試験的に導入中。
ここからは私の感想・考察を述べる。
まずアスファルトの呼称だがウィキペディアによれば、日米とヨーロッパでは定義上の違いがあるという。
日本やアメリカ合衆国等では石油を精製して採れた減圧重質油をアスファルトと呼ぶのに対し、ヨーロッパではビチューメン(Bitumen = 歴青/瀝青)と呼び、このビチューメンに骨材や砂などを混合したものをアスファルト(日本ではアスファルト混合物またはアスファルト合材)と呼んでいる。したがって、ヨーロッパの技術論文を読む際には注意が必要となる。なぜこのように呼称が違ったのか不明であるが、おそらくは、アスファルトの種類が増えたことが原因ではないかと考えられる。
次に、原油価格が高騰したり採掘が減ったりするとアスファルトの価格が高騰し、道路の舗装ができなくなるのではないかという心配があるが、ChatGPTに尋ねた限りでは、
●影響は確かに出ているが「舗装そのものができなくなる」ほどではまだない、というのが現状の判断です。
とのことだった。
最後に、「ホタテ貝の貝殻をアスファルトに混ぜて舗装に使うと二酸化炭素を道路に閉じ込められるのでエコになる」という話だが、放送ではあたかも二酸化炭素という分子が貝殻の中に大量に蓄積されていて燃やすとその分子が気体化されて空中に排出されるというような印象を受けたが、これはイマイチ分からない。燃やした時に二酸化炭素が出るのはあくまで貝殻の炭素と空中の酸素が結びつくためではないだろうか? と思ってChatGPTに質問したところ以下のような回答をいただいた。
【質問】ある記事では、「ホタテ貝は成長の際に二酸化炭素を貝殻の中に大量に蓄積する。貝殻を燃やすとその二酸化炭素の分子が気体化されて空中に排出される。」というような説明をしていましたが、貝殻を燃やした時に二酸化炭素が出るのはあくまで貝殻の炭素と空中の酸素が結びつくためではないでしょうか?
【回答。一部省略、改変あり】
- 貝殻を燃やして出るCO2は、貝殻に含まれていた炭酸カルシウム由来。
- 大気中の酸素と新たに反応して生じるわけではない。
- 言い換えると、「燃やすと貝殻がCO2を吐き出す」のは正しいけれど、その仕組みを「空気中の酸素と結びつくから」と説明するのは誤りで、「熱分解により内部の炭酸カルシウムからCO2が遊離する」が正確です。
- つまり「大気中の酸素が炭素と結びつく」のではなく、もともと貝殻にあった炭素が二酸化炭素の形で再び外に出るわけです。
- ちなみに、紙や木のような有機物を燃やすときは「炭素+酸素 → CO2」ですが、炭酸カルシウムの場合は「熱分解でCO?が放出される」というメカニズムです。
大学入試の時に満点をとった【←自己採点による】ほど化学が得意だった私であったが、これまで燃やすというのは何を燃やす場合でも「炭素+酸素 → CO2」という現象が起こっているものだと思い込んでいた。なるほど、「熱分解により内部の炭酸カルシウムからCO2が遊離する」という現象があったのか!? であるなら貝殻はやはり燃やさないほうが良さそうだ。
以上をふまえて、もう1つ、ChatGPTに、
●純粋に二酸化炭素の排出削減を目指す場合、貝殻をアスファルトに混ぜて舗装に使うのと、貝殻をそのまま深海に廃棄するんとではどちらのほうが効果が期待できるでしょうか?
と質問したところ、以下のような回答をいただいた。
いい問いです ? 結論を先に言うと **「純粋に長期の CO2削減(=永続的な固定)を狙うなら『深海に廃棄して安定に埋没させられた場合』の方が理論上はより長期的に留められる可能性が高い**一方で、**現実的・実務的・環境面のリスクや不確実性が大きいので、実効性・安全性・スケールの観点では『アスファルト混入』の方が現実的で有益**、という判断になります。以下、根拠と注意点を整理します。
- # 重要な前提(化学的に言うと)
- ホタテ貝殻は主に **炭酸カルシウム(CaCO?)**。化学組成とモル質量は公表データにある通りです(CaCO3のモル質量 ≒ 100.09 g/mol)。([ウィキペディア][1])
- 1 トンの CaCO3が完全に分解して CO2になると放出される CO2質量は概算で **約0.44 トン CO2相当**(44.01/100.09 ≒ 0.44)。(この換算式は CaCO3 → CO2のモル質量比に基づく計算です。)([WebQC][2])
- # 「深海に廃棄(投棄・散布)した場合」のポイント
- 長所
* 理論的には深海底で**堆積・埋没**されれば、炭酸塩中の炭素は何百?何千年単位で大気と隔離され得る(大規模な海洋貯留が地球規模の炭素サイクルに関与することは研究で示唆されています)。IPCC の海洋貯留のまとめも参照されます。([IPCC][3])
- 短所・リスク
* **溶解(CaCO3の溶けること)**:海水の酸性化(大気 CO2の増加に伴う)により、深海底でも CaCO3が溶けやすくなっているという観測・研究があり、投入物が長期に残るかは場所(pH、深さ、底質、攪拌)によって大きく変わる。つまり「埋めたら永久に閉じ込められる」とは限らない。([PubMed][4])
**生態影響・法規制・コスト**:深海投入は生態系影響の懸念、国際法・各国法や港湾管轄、輸送・沈設コスト、モニタリングコストが膨大。公的に容易に進められる手段ではない。([Cafe Thorium][5])
- # 「アスファルトに混ぜる(舗装材として利用)」のポイント
- 長所
* **実用化されている・循環利用**:廃貝殻を粉末化してアスファルト混合材の骨材や改質剤として使う研究・実証が多数あり、材料特性(耐熱性・高温挙動など)も実務的に扱えるレベルであるという報告があります(道路材料としての試験研究多数)。([PMC][6])
**CO2の放出リスクが低い**:CaCO3は熱分解して CO2? を放出するのに高温(数百度〜700―900°C 程度)を要します。舗装やアスファルトの通常の混合・再生・加熱は **おおむね 150―200°C 程度** で行われ、CaCO? の熱分解温度より遥かに低いため、舗装中や通常の舗装修繕サイクルで CaCO3が CO2として放出される可能性は小さいと考えられます。([アスファルト研究所][7])
* **短期?中期で確実に廃棄量を減らせる**:廃棄物処理コストの削減、資源循環の効果が期待でき、即効性がある。
- 短所・留意点
**永久性は限定的**:道路が摩耗して微粒子化→洗い流される、道路改修で撤去されたアスファルトが破砕・埋立処分されるなど、ライフサイクルの末端で CaCO? が環境に再放出され得る。とはいえ「加熱して CaCO3を CO2に戻す」ような工程は通常の舗装再生では行われないため、**短?中期(数十年―百年規模)では安定に貯留できる**可能性が高い。舗装材として使う利点は「現場で長く置く」「廃棄量を減らす」「法規制などがクリアしやすい」点です。([PMC][6])
- 比較(純粋な CO2削減効果での結論)
- **理想的な“永久埋没”が実現できれば(深海で確実に堆積・埋没され CaCO? が溶けない場合)**、深海 burial の方がより長期・恒久的な固定になり得る(=より大きな“永久固定”)。ただしその「確実に堆積して溶けない」という条件が成立するかは場所・海洋化学の変化(酸性化)・攪拌などで大きく左右され、現在の研究では不確実性が指摘されています。([IPCC][3])
- **現実的・実行可能性・スケール・環境影響(低いハザード)の観点からは、『アスファルト混入で道路材料に利用する』方が即効性があり、実務的に CO?(=炭酸カルシウムのかたちで既に固定された炭素)を長期間閉じ込める有効な手段**です。特に廃棄を減らす・焼却を避けることで、短中期での CO? 排出削減に確実に寄与します。([PMC][6])
- 定量の目安(簡単な換算)
* 貝殻(CaCO3)1 トン → 含まれる CO2相当 ≒ **0.44 トン CO?**(完全分解したら出る量)。つまり、例えば 1,000 トンの貝殻を舗装材に使えば理論上 **約440 トン CO2相当** を「既に固定された形」で扱うことになります(ただし“固定され続ける”前提が必要)。([ウィキペディア][1])
- # 最後に(現実的な勧め)
- 「純粋に CO2を減らしたい」なら、**深海投入は一見有効に見えるが、実施の社会的・生態学的コストと科学的不確実性(溶解リスク)が大きい**ため、現時点では広く推奨される手段ではありません。([PubMed][4])
- **実務的で即効性のある選択肢は舗装材への利用**です。廃棄削減、焼却回避、材料としての有用性があり、かつ通常の舗装再生工程では CaCO3が熱分解で CO2 として戻るリスクも小さい(=実質的な貯留効果が期待できる)。([PMC][6])
- 出典
- [1]: https://en.wikipedia.org/wiki/Calcium_carbonate?utm_source=chatgpt.com "Calcium carbonate - Wikipedia"
- [2]: https://www.webqc.org/molecular-weight-of-caco3.html?utm_source=chatgpt.com "CaCO3 (Calcium carbonate) molar mass"
- [3]: https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/03/srccs_chapter6-1.pdf?utm_source=chatgpt.com "Ocean storage"
- [4]: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30373837/?utm_source=chatgpt.com "Current CaCO3 dissolution at the seafloor caused by ..."
- [5]: https://cafethorium.whoi.edu/wp-content/uploads/sites/9/2022/01/Research-Strategy-for-Ocean-Based-CO2-removal-and-Sequestration.pdf?utm_source=chatgpt.com "A Research Strategy for Ocean-based Carbon Dioxide ..."
- [6]: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9570732/?utm_source=chatgpt.com "Analysis of the Influence of Waste Seashell as Modified ..."
- [7]: https://www.asphaltinstitute.org/wp-content/uploads/Establishing_HMA_Mixing_Temp_Project_Level.pdf?utm_source=chatgpt.com "Hot mix asphalt (HMA) mixing and"
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