じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 10月6日は中秋の名月だった。月の出の瞬間(17時05分)を撮ろうとしたが日没前で空が明るすぎて月は見えなかった。「菜の花や月は東に日は西に」という俳句があるが、日が西にある時間帯は空が明るく、東の空の月を眺めるのは難しそうだ。
 月の出から30分後頃までは部分的に雲に覆われる時もあったが【写真上】、その後は雲の無い絶好の条件でお月見を楽しむことができた【写真下】。写真には写っていないが月の右側には土星も見えていた。
 その後真夜中を過ぎても煌煌と輝いていたが、翌朝4時頃からは雲に覆われて月の入りを眺めることはできなかった。

 なお、『中秋の名月』とは、旧暦の8月15日の月として定義されているが、真夜中を過ぎて旧暦8月16日になった後の月も『中秋の名月』と呼ぶのかどうか疑問が生じたが、ウィキペディアによれば、

月見は、主に陰暦(旧暦)8月15日から(午前0時を介して)陰暦16日の夜(八月十五夜)の月。

と説明されており、月の入りまで見えている月は『中秋の名月』と呼んで差し支えないようだ。

2025年10月7日(火)



【連載】チコちゃんに叱られる! 「考えるときに腕を組む理由」/あまりにもお粗末な心理実験

 昨日に続いて、10月3日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. なんでプロ野球の優勝チームがビールかけをするようになったの?
  2. なぜハンコに使う色は赤色?
  3. なぜ考えるときに腕を組む?
という3つの話題のうち最後の3.について考察する。

 放送では、考えるときに腕を組むのは「バリアを張るため」であると説明された。社会心理学や対人コミュニケーションについて研究している大坊郁夫さん(東京未来大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
  1. 人間は物事を考えるとき、考えることに集中したいという心理状態になる。その時に無意識に現れるのが腕組み。
  2. 腕組みは考える時の理想的なポーズ。
    1. 情報を減らす効果:
      • 周りの人に話しかけにくいという印象を与える。これがバリアの役割を果たしている。
      • 人間は考えている時も周りの風景や人の表情も情報処理をしているため、考え事の邪魔になる。
      • そこで腕を組んで話しかけづらい印象を与える。バリアを作ることで余計な情報を減らすことができる。
      • スポーツの監督や対局中の将棋棋士がよく腕を組んでいるのも、自分をまわりから遮断し、戦略を考えることに集中するため。
      • 考え事をする時に上を向く人も多いが、これも何も無い上を見ることで余計な情報を遮断している。
    2. 不安の解消
      • 人と人は肌が触れるとオキシトシンが分泌されることが分かっている。
      • オキシトシンは別名『幸せホルモン』と呼ばれていて、ストレス軽減や不安緩和の効果がある。
      • オキシトシンは自分で自分の肌に触れる時にも分泌される。腕を組めば、不安が解消され、考えようとしている物事だけに集中できる。
    3. 重心の安定
      • 腕組みは姿勢的にも最適。
      • からだがフワフワした状態だとそれだけで不安になるが、腕組みをすればフラつかない安定した状態になるので考え事に集中できる。
      • 国会答弁で発言台に手をついて発言するのも、考えながら発言するため安定した姿勢を求めているから。

 放送ではさらに、腕組みを含め、3つのポーズのどれが最適であるか実験が行われた。
  • 実験で比較されたのは
    • 腕組み:「腕を組む」
    • 肘をついて下を向く:「腕を×印に組んで机の上に肘をつき下を向く」
    • 顔を触る:「腕をX印に組んで手のひらを顔に触れて肌の接触面を広くしてオキシトシンを増やす」
    という3条件。
  • 大学生30人を上記3条件に10人ずつ割り当てる。
  • 同じ謎解き問題【絵を見せるトンチ問題、『答えられないと叱られる!? チコちゃんの激ムズ脳トレパズル』(宝島社)から出題】4問を解いてもらう。
  • 4問の平均タイムで比較。
  • その結果、平均タイムは、
    • 腕組み 2分20秒
    • 肘をついて下を向く 2分26秒
    • 顔を触る 2分16秒
    となった。

 大坊さんは、「人によって考えるポーズは結構違う。皆さんも自分にとってどれがいいのか試してください」と説明された。

 ここからは私の感想・考察を述べる。
 まず、今回の解説を担当された大坊郁夫さんは、こちらに記されているように大阪大学・大学院人間科学研究科教授(2000年4月-2012年3月)を務められたことのある心理学界の大御所であり、分野が異なっている私でもお名前は存じ上げていた。
 とはいえ、今回の解説はいくつかの点で不十分であったと言わざるを得ない。
 まず、解説では、腕組みが単なるクセではなくて、「情報遮断」、「不安の解消」、「重心の安定」という3つの効果が期待されることから理想的なポーズであるとされていたが、そもそも腕組みにそのような有用性があるのかどうか証拠が示されていなかった。本当にそのような効果があるならば例えば瞑想をするときにも腕組みをしたほうがよいはずだ。ちなみに私自身は考え事をする時には腕組みはしない。常にパソコンのキーボードに指を触れながら考えている。

 それにしても放送で紹介された実験はまことにお粗末なものだった。
  • この実験では「腕組みをしながらパズルを解くと腕組みをしない時より早く解ける」ということが暗黙の前提になっているが、まずはその前提が正しいかどうか確かめる必要がある。そのさい、
    1. 強制的に腕組みをさせる条件
    2. 自由なポーズで考えてもらう条件【腕組みをどの程度していたかも記録しておく】
    3. 自由なポーズ考えてもらうが、腕組みだけは禁止する条件
     これらを比較した上で1.の条件、あるいは2.の条件で腕組みが観察された参加者が3.よりも早く解けたとすれば、またその時に限って、腕組みの効果が実証されたことになる。また必ずしも早く解けなかったという結果になれば、今回の話題は最初から成り立たない。
  • 上記でも言及したが、強制的に腕組みをさせることと、参加者が任意に腕組みをすることでは効果が異なる可能性がある。今回の実験では任意に腕組みをしてもよいという条件は設定されなかった。
  • 実験ではトンチクイズのようなものが出題されたが、この種のクイズが解けるかどうかは得意不得意や同種のクイズを解いた経験の有無などが反映されるため個体差が大きすぎる。1条件につきわずか10人の参加者を割り当てた程度では個体差があまりにも大きく、平均タイムに統計学的な有意差が出るとは思えない。
  • 考え事にもいろいろな内容がある。トンチクイズを解くような場合は、周りからの刺激が多いほうが正解を思いつく上で有利にはたらく可能性もある。
 というように考えてみると、放送で紹介された実験はあまりにもお粗末であり、心理学の実験とはこんなものかという誤解をもたらす恐れがありそうな気がした。