じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 昨日に続いて朝焼けの写真。朝焼けの様子は毎日異なるが、9月9日早朝は、半田山上空に赤いオーロラが展開するような朝焼けが見えていた。

 ちなみに、この時期に美しい朝焼けが見られるのは、季節的な条件もあるが、主たる理由は日の出の時刻が遅くなり早朝散歩時に美しい朝焼けに遭遇する機会が増えてきたためと考えられる。

9月8日(土)

【思ったこと】
_c0908(土)日本質的心理学会・第9回大会(7)個人の準拠枠の変容をTEM・TLMGで描く(7)胃瘻造設決定の事例(1)

●制度的な組織の境界を超えた繋がり、活動、学習による個人の準拠枠の変容をTEM・TLMGで描く

の話題の続き。企画者の説明に続いて、4件の話題提供と1件の指定討論が行われた。もっとも、このセッションが2時間に限られていたため、話題提供1件あたりの発表時間が少なく、一部省略などもあって、フロアのTEM・TLMG初心者からは専門用語が多くてわかりにくいという声も上がっていた。

 さて、1番目は、

●意思確認困難な高齢者への家族による胃ろう造設決定プロセスを描く

という話題提供であった。ここで念のため「胃瘻」について復習をしておく。

 ウィキペディア当該項目では、
胃瘻(いろう、英語表記はGastrostomy)とは腹壁を切開して胃内に管を通し、食物や水分や医薬品を流入させ投与するための処置である。
と説明されており、適用目的は
先天的な原因または後天的な病気や外傷による脳神経や口腔や咽頭や食道の機能に障害により、脳神経や口腔や咽頭や食道の機能に障害があり、口腔・咽頭・食道を経由して食物や水分や医薬品などの経口摂取が不可能または困難な嚥下障害がある場合、患者に胃瘻からの人工栄養や水分や医薬品を投与することにより、必要で十分な栄養や水分や医薬品を摂取し、患者の生命を維持しQOLを向上させる目的で造設する。
とされている。また、適用外の条件として下記の条件の少なくともどれかひとつに合致する場合は胃瘻の造設は行わない、または、造設済みの胃瘻からの人工栄養投与中止を中止する、とされている。。
  • 老衰やガンの終末期においては平穏死・尊厳死の観点から。
  • 患者本人または家族が胃瘻造設と人工栄養や水分や医薬品の投与による生存を望まず拒否した場合。
  • 胃や腸の機能に病気や障害があり、人工栄養を消化吸収することが不可能または困難な場合。
  • 妊娠中。
  • 内視鏡が使用不可能な身体状況の場合。
  • 胃瘻からの出血が継続し収束しない場合。
  • 胃前壁を腹壁に近接できない場合。
  • 著しい肥満で腹壁から胃内に胃瘻チューブが届かない場合。
これらの記述の中で、問題となるのは、「患者の生命を維持しQOLを向上させる目的で」という記述のところでほんとうに「QOL向上」がはかれるのかという議論、さらに、患者本人が胃瘻造設についての意思決定を表明できないような状況でどうするのかといった議論がある。

 今回の話題提供は、「【患者本人が】自分の意思で治療を決定することが困難となった高齢者 への家族による治療決定のプロセス」が対象となっており、新たな医療技術が家族にもたらす介護観の変容をTEM とTLMG によって描き、家族ならではの死生観の維持という視点から説明するという趣旨であった。

 ちなみに、胃瘻をめぐっては、昨年のダイバージョナルセラピーワーカー・フォーラム2011で、オーストラリアの高齢者施設入居者の死因でいちばん多いのが「餓死」だという話を聞いたことがあった。出典・根拠は不明だが、オーストラリアの場合、食物あるいは栄養物を摂取するというのは本人の権利であって、その権利行使を望まない人にまでチューブで流し込むようなことはしないという趣旨であった。上掲の「胃瘻適用外の条件」を見ると、日本でも「患者本人または家族が胃瘻造設と人工栄養や水分や医薬品の投与による生存を望まず拒否した場合」は胃瘻適用を行わない/中止するとされており、日本とオーストラリアで何が違うのかはイマイチ分からないところがあったが、おそらく日本では、当事者が意思表明困難な状況となった場合に家族の要望で胃瘻造設を行う頻度が多いこと、それに対してオーストラリアでは、当事者が明確な意思表明をしない限りは、家族から胃瘻増設を求めないというところにあるのではないかと思われるが、証拠が無いためはっきりしたことは言えない。なお余談だが、ダイバージョナルセラピーワーカー・フォーラム2011の理事長講演によれば、過度の延命治療を行わないにも関わらずオーストラリア人の平均寿命は80.9歳で世界5位。世界1位の日本人の82.3歳とは2歳しか違わない。また、日本の自殺率は24.4人/10万人であるのに対して、オーストラリアは10.8人/10万人とかなり少ない点も指摘されており、延命措置という形での胃瘻が当事者のQOL向上につながるのかどうか、検討する必要があるように思われる。

 次回に続く。