【思ったこと】 130428(日)すイエんサーの大人数じゃんけん必勝法
連休前半はもっぱら録画してあったテレビ番組のメモ・感想を記す予定である。
今回は、4月16日放送の、
NHK「すイエんサー」大人数じゃんけん必勝法!
一対一のじゃんけん必勝法については、昨年5月頃にすでに放送されており、このWeb日記でも取り上げたことがあった。
今回の企画は、5人でじゃんけんをして最後の一人まで勝ち抜くという方法を考えようというものであった。その方略は、番組記録サイトに紹介されている通りであり、
- ポイント1 「穴見せ作戦」
手を握り穴を作り、相手に見せる。すると中を覗こうとして近寄ってくるので、距離が詰まったところで、すかさずじゃんけんをして、グーを出す。狭い空間では、グーとチョキが出る確率が高いため、自分はグーを出し続ければ勝ち残りやすい。
- ポイント2 「両手握手作戦」
両手握手をし、相手の手を包み込み握る動作をさせる。すると、「グー」の感覚や印象を強く残すことができるので、じゃんけんすると、すかさずパーで勝つ!
という骨子であった。
このうち「ポイント1」は、エレベーターなど狭い空間でじゃんけんをすると、緊張によりグーを出しやすくなり、また、手がぶつかるのを避けるためにパーを出しにくくなる。ということで、多くの人はグーか、チョキを出すはずだから、チョキに勝てるグーを出すとお得という原理を応用したものであった。「穴見せ」というのは、要するに人を近寄らせるための一方法であり、別段、指紋や手相を見せても同じではないかと思われた。
もっとも、この論法はイマイチ分からないところがあった。人が近寄っている場面でグーが出やすいことは分かったが、チョキが出しやすい根拠はどこにも示されていない。もしチョキが出にくいのであれば、パーを出しても負ける確率は低いはず。ならば、多くの人がグーを出す場面ではパーを出せば一発で勝てるはずである。
ポイント2は、2回戦以降の必勝法の1つとして紹介されたようだが、3人勝ち残っている場合には、他の2人と握手して、急いでじゃんけんしなければならない。これはかなり不自然。勝ち残りが2人であるならば、むしろ、昨年5月に紹介されていた、目の前でチョキをちらつかせて相手の同調を誘いグーを出して勝つという「チョキ誘導催眠術法」のほうが有効であるようにも思えた。
もっとも、昨年5月も、今回も同様であるが、提案された「必勝法」なるものは、悪く言えば、相手を誘導して特定の手を出させようという姑息な手段に過ぎず、それも心理学と言えば心理学の1つではあるけれども、思考心理学の本流とは言えない。本流であれば、グーチョキパーの3枚のカードから1枚を選んで同時に出す、もしくは、パソコンのボタンを押す、といった、筋肉運動の差違が影響しない中で、他者がどういう手を出しやすいかを分析するべきであろう。もちろん、この場合、一発勝負では、グーチョキパーに好みの偏りが無い限りは、手を出す確率は1/3。しかし、2回目以降となると、同じ手を続けて出しにくいとか、win-stay, lose-switch (also win-stay, lose-shift) などの方略をとるといったクセが出てくる。そうしたクセから出やすい手を予測し、出やすい手に勝てる手を出せば勝率は偶然確率よりも上がるはずだ。このあたりはこちらの論文でも考察されているので参照されたい。
心理学の本流から提案できそうな必勝法は、例えば、以下のような具合である。
- 5人のうち、自分だけがパー、2人がグー、残り2人がチョキを出したとする。【あいこになる】
- じゃんけんでは、グーを出した次の回はチョキ、チョキを出した次の回はパーが出やすい【←と仮定する】。
- そうすると、自分以外の4人は、次の回には、チョキとパーで半々になる確率が高い。
- よって、自分がチョキを出せば、他にチョキを出した2人とともに勝ち残る確率が高くなる。
それぞれの回における手の出し方を瞬時に把握して、上掲のような臨機応変の対応ができれば、結果として勝率は上がるはずである。少なくとも言えることは、必勝法といっても、普遍的な方略は存在しない。ケースバイケースで最善の方略を採用することが重要かと思う。
なお、3人以上でじゃんけんをする場合は、オーソドックスなじゃんけんではなく、グーとパーだけで「少ないが勝ち」というじゃんけんをしたほうが、あいこが少なくて早く決着する。「少ないが勝ち」というのは、少数派の手を選んだほうが勝ちになるというルール。この種の話題は1998年11月頃の日記で詳しく考察したことがある。リンク切れが多いが、ご興味をお持ちの方は参照されたい。
ところで、番組では、
- 5人がじゃんけんをした時に1回戦で勝ち残る確率は50%
- 最後の1人まで勝ち抜く確率は20%
というのが理論上の確率だと言われていたが、これはどうやって計算したのだろうか?
まず素朴に考えると、1回戦は、勝つか負けるか、引き分けるかの3通りであるが、引き分けの場合はやり直すのでノーカウントとする。そうすると、勝つ確率と負ける確率のいずれかが大きいということはあり得ないので、五分五分、だから50%という推測ができる。同様に2.のほうも、5人のうち誰かが強いということは無いと考えれば、勝ち残る確率は平等なので1/5、すなわち20%であるとあっさり推測できる。しかし、これでは数学の解答としては大幅減点かもしれない。
数学的な解答としては、それぞれの人がグーチョキパーいずれかを出す可能性はランダム(毎試行で独立、かつ確率1/3)と仮定し、あいこを除外した事象について、敗退するケースと勝ち残るケースを比較してみると、勝者:敗者が1:4、2:3、3:2、4:1いずれの場合も、当人が勝者に含まれる確率は五分五分で差がないのでけっきょく50%という計算でよいのだろうか。
いっぽう、最終的に勝ち残る確率は、2人勝ち残った場合、3人勝ち残った場合、4人勝ち残った場合それぞれで場合分けしてくと膨大な事象の数になってしまう。また、いくら「あいこ」を除外するといっても、理論的には、あいこが無限に続くことだってありうる(例えば、3匹のイヌがじゃんけんをすれば、犬はグーしか出せないので、何度やってもあいこである)。
では、上記の「5人のうち誰かが強いということは無いと考えれば、勝ち残る確率は平等なので1/5」という素朴な計算法は常に正しいと言えるだろうか。勝負を始める前の時点の確率としては、おそらくその考え方で間違いない。しかし、例えば、大相撲で5人の力士が優勝決定戦をして3人勝ち上がったという時点では、それぞれの力士の勝つ確率が1/2であると仮定したからと言って、3人の力士が最後まで勝ち残る確率が1/3ずつであるという保証はない。大相撲では3人が勝ち残った時は巴戦になるが、この場合、巴戦の1回戦で土俵に上がる力士が優勝する確率は5/14、2回戦目で初めて土俵に上がる力士が優勝する確率は14/4となることが数学的に証明されている。(←もちろん、巴戦の順番を決めるクジを引く前の優勝確率は1/3ずつで平等。)
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