じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



05月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

 文学部中庭と半田山の新緑。昨年のほぼ同時期と比較してみたが、違いは、今年は中庭の花壇にパンジーが植えられていることと、メタセコイアが少し枝を伸ばしていることの2点程度。桜やクスノキの殆ど変わっていない。


2014年5月6日(火)

【思ったこと】
140506(火)長谷川版「行動分析学入門」第5回(4)好子出現の随伴性による強化(4)習得性好子(1)

 前回まで、生得性好子についてお話をしてきました。生得性好子というのは「生得性」の名前の通り、特別の経験を必要とせずに好子になっているようなモノや出来事のことを言いますが、これに対して、中性的なモノや出来事が何らかの経験によって好子になった場合、これを「習得性好子」と呼びます。

 実は、「生得性好子」と思われているモノや出来事も、習得性好子との複合体であるという事例がしばしば見られます。例えば、
  • 食べ物は、大枠としては生得性好子ですが、食べ物の好みは、その人が育った食文化や、食中毒などの個人体験の有無によって異なってきます。
  • 水は生得性好子ですが、実際に摂取する飲み物には好みがあり、これまた、その人が育った環境や個人体験の有無に影響されます。
 ということで、私たちの行動を強化している好子の大部分は習得性好子であると言えます。個々人の経験は様々であり、このことが、価値観の多様化をもたらしており、個体差をもたらしていると考えられます。例えば、A、B、Cという3人が同じ日にテーマパークに出かけたとします。しかし、3人はレストランで別のメニューを選択し、それぞれ別のアトラクションを好み、別の土産物を買って帰りました。この場合、3人の行動の違いは、しばしば「性格の違い」であるとされますが、実際は、食事選択、アトラクション選択、土産物選択それぞれにおいて、異なる習得性好子が働いていたと考えることができます。私たちが「性格の違い」だと思い込んでいる大部分は、習得性好子の違いであると言っても過言ではありません。

 さて、それでは、中性的なモノや出来事【もともとは、その人の行動に何の影響も与えなかったようなモノや出来事】は、どのような経験を経て習得性好子になるのでしょうか?

 その最大の必要条件は、生得性好子、あるいはすでに習得性好子となっている別のモノや出来事と対提示されることです。杉山ほか(1998、『行動分析学入門』産業図書)のように、対提示されることを、習得性好子の定義に含めている入門書もあります。
【習得性好子とは】他の好子と対提示されることで好子としての機能を持った刺激、出来事、条件

 ちなみに、この「対提示」というのは、レスポンデント条件づけにおいて、中性刺激と無条件刺激を繰り返し同時提示するのと同じ操作を意味しています。但し、そのときにもお断りしたように、レスポンデント条件づけというのは、あくまで「レスポンデント行動」を主人公とした法則です。生得性好子と対提示することで中性的な刺激が習得性好子になるというプロセスは、特定のレスポンデント行動には言及していませんので、それだけではレスポンデント条件づけとは言えません()。
補足説明]食べ物と特定の音を対提示すると、その音が習得性好子になる可能性はあります。また、その際の唾液分泌の観察から、その音が唾液分泌を誘発する条件刺激になったことが確認されるかもしれません。つまり、対提示は、
  1. 中性刺激であった音を、習得性好子にする効果
  2. 中性刺激であった音を、唾液分泌を誘発するような条件刺激にする効果
という2つの効果を同時にもたらしていると言えます。しかし、習得性好子の研究をしている人は唾液分泌を測定していないので2.の効果は確認できませんし、レスポンデント条件づけの研究をしている人は、習得性好子としての機能を測定していないので1.の効果は確認できません。また対提示が1.と2.以外の効果をもたらしているかもしれませんが、これは研究の関心領域外ということになります。

 中性的なモノや出来事が、対提示【日常場面であれば、「同時出現」という体験】だけで習得性好子になるのかどうか【=十分条件を満たすかどうか】については、まだまだ議論が必要です。しかし、少なくとも、習得性好子になるための必要条件であることは間違いなさそうです。

次回に続く。