じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 昨日掲載した文学部中庭の花壇を3階から見下ろしたところ。手前側の白花はサルビア・コクネシアで、いちばん勢力が強い。


2014年7月14日(月)

【思ったこと】
140714(月)長谷川版「行動分析学入門」第13回(4)人間と社会に関する諸問題(4)地球環境を守る取り組み

 地球環境の悪化の原因が人間行動にあり、またそれを救う手段も人間行動にある以上、地球環境を守るための唯一かつ有効な方策は、人間行動を変えることにあると言わざるを得ません。宗教団体みたいな誤解を与える恐れも無いとは言えませんが、「Saving of the world with behavior analysis!」は行動分析学の大きな課題となっています。亡くなられた佐藤方哉先生も、しばしばこのスローガンを使っておられました。

 最近特に注目されている環境問題と言えば、温暖化およびそれに伴う気候変動、そして、この岡山では、PM2.5が深刻になってきました。これらの問題の原因が人間行動にあることは間違いありません。要するに、人間や動物は、自分自身を取り巻く狭い範囲の環境の中で、行動の直後の変化によって強化や弱化されにくいという宿命を背負っています。それゆえ、関心空間の外の世界での出来事や、50年後、100年後に起こりうる変化は、いかに重大であっても、直接効果的に行動を変えることはできません。また、行動の直後の変化であっても、あまりにもそれが小さすぎる場合(累積して初めて目に見える変化となる場合。「塵も積もれば山となる効果」)は、有効な好子や嫌子とはなりません。行動を変えるためには、それらとは別に、さまざまな好子や嫌子を付加的に随伴させていく必要があります。

 昨日の最後のところに、「結果の及ぶ範囲の広さと、結果の遅延の長さによる分類」という表を掲げましたが、地球環境にやさしい行動がとれるようになるためには、表の中の「個人×短期的」の左上セルから「人類、地球×死語」という右下のセルへ、空間的・時間的なスケールを広げることが不可欠です。そのためには、さまざまなメディアや教育を通じて、自然そのものが好子となり、地球環境破壊につながるような日常行動が好子消失の随伴性によって弱化されるような仕組みを作る必要があります。

 それを並行して、多方面において、地球環境にやさしい行動が直接効果的に強化されるような政策も必要です。少し前に「グリーン家電エコポイント」という制度がありました。この事業は、[1]地球温暖化対策の推進、[2]経済の活性化、[3]地上デジタル放送対応テレビの普及という3つの目的のもとで行われ、いろいろ問題点はあったとは思いますが、結果的に、環境に負担をかけない家庭用電気製品の普及に一定の効果があったことは間違いありません。エコカー減税や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度なども同様です。要するに、望ましい行動は、得をする(好子出現)ことで強化されなければなりません。環境保護のための啓蒙・啓発活動はもちろん必要ですが、多くの人たちを動かすためには、結局は、補助金や減税といった優遇策をとったり、市場原理の活用に委ねるほかは無さそうです。

 地球環境を守るための行動としてどういうものがあるのか、という新たな提案は、それぞれの分野の研究や実践の中から生まれるものであり、この点では行動分析学自体は無力かもしれません。しかし、いったん、こういう行動をすることが望ましいと判断された場合、その行動をいかにして強化するのかは、行動分析学の課題となります。これまでの諸々の施策の中でうまくいった例と失敗した例を挙げてみれば分かることですが、失敗事例の大半は、当該行動の強化の失敗にあります。

 例えば、ゴミの分別種類が多すぎると、人間の弁別行動の限界を超えてしまいます。ネットで検索したところ、熊本県水俣市では24分別、徳島県上勝町では34分別が実施されている模様ですが、これは、住民の環境意識が相当高いレベルにないと実行不可能であるようにも思えます。不適正排出率が50%を超えるというよう分別ルールであると「住民にとってそもそも遂行不可能な分別ルールではないか?」と指摘される事態になります。【こちらや、こちらの記事参照。こちらに関連情報あり。】

 地球環境を守るためには種々の規制も必要ですが、すでに述べたように、規制(罰金のような好子消失の随伴性、あるいは懲役刑となった嫌子出現の随伴性で弱化)の対象となる行動というのは、それ自体、別の好子出現で強化されていればこそたくさん起こっているのであり、根本となる強化因を取り除かなければ、なかなか根絶することができません。原則はやはり、望ましい行動を好子出現によって強化し、その行動に競合するような問題行動を減らしていくほかなないでしょう。例えば、白熱電球の代わりにLED電球を使う行動を強化すれば(LEDのほうが割安となるような仕組み導入など)、白熱電球の使用を規制しなくても、結果的に、LED電球が普及することになります。

次回に続く