【連載】チコちゃんに叱られる! 庭の由来
昨日に続いて、10月24日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
- 虫の鳴き声が心地よく聞こえるのはなぜ?
- 【正解が出たことによる罰ゲーム】ETCは何の略?
- クリームシチューはなんでできた?
- なぜ庭をつくる?
という4つの話題のうち、最後の4.について考察する。
4.の「なぜ庭をつくる?」という話題は、私が入会していた人間・植物関係学会【但し2018年3月の定年退職をもってすべての学会を退会】でも多角的に検討されている。単に庭造りの由来を時系列的に並べればよいという問題ではなく、それぞれの時代背景のもとに庭がどのような役割を果たしてきたのか、現代社会では何が庭に求められているのかを説明する必要がある。なので、チコちゃんのような雑学系エンタメ番組の中で短時間で解説するのは難しいように思われた。もっとも今回の番組では、
●そもそも人はなぜ庭をつくった?
という問題の立て方をしていたので、そこまで深く掘り下げなくてもよかったのかもしれない。
放送では「庭をつくるのは自然をコントロールしたかったから」が正解であると説明された。庭の歴史について研究している桑木野幸司さん(大阪大学)&ナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。
- 庭は、自然をコントロールしたいという思いから始まった、と考えられている。
- 古代の人類は生きるために広い自然の中を移動しながら狩りや木の実の採集をしていた。
- その後、定住し、農耕により安定した食料生活に変化。
- しかし定住していても、水害や猛獣に襲われる危険があった。そんな中、安心して暮らしたいという思いから、自分の家の近くに好きな花や果物を植えたりなどして、小さな自然を囲ってコントロールしようとした。
- それが庭造りのきっかけではなかったかと考えられている。
- わかりやすい例は、人類初の文明を造ったシュメール人の『ハンティングパーク』。ハンティングパークは紀元前4000年頃、シュメール人の王族が作った「狩り場」。広大な土地を柵で囲い、その中に狩りのための獲物を放し飼いにしていた。これにより猛獣から襲われることなく、安心して狩りを楽しむことができた。
- さらに別の国から珍しい植物を持ち帰って植えるなど、好みの景観に整備していたことも分かっている。
- その後、ハンティングパークに限らず、果物や植物を植えたり庭で食事を楽しむなど現代にも通じる庭が誕生していった。
- このように庭は、自然に振り回されずに自然をコントロールして楽しむ場所となった。
- 『ハンティングパーク』は古代ペルシャ語で『パイリダエーザ』(囲まれた庭)と呼ばれており、これが『楽園』(=パラダイス)の語源になったと考えられている。
- ヤン・ブリューゲルの『オデュッセウスとカリュプソ』という絵画には一年中果物が実り、花が咲いている楽園が描かれている。楽園を夢見た人々は、自由や権力の象徴として、楽園を模した庭を造っていたのではないかと考えられる。
放送ではさらに桑木野さんによる「世界の庭文化を探るワールドガーデンツアー」が紹介された。
- インドのタージ・マハル庭園
『イスラム様式』と呼ばれる庭園。暑さや砂嵐などから身を守るために壁や塀で囲まれ、中央に噴水を配置。水路で四分割された『チャハルバーグ』(四分庭園)はイスラム世界の楽園を表現している。4方向に分かれた水路はそれぞれ、水、酒、ミルク、はちみつを表しており、豊かさや清らかさなど永遠の幸福の象徴と言われる。
- ヴェルサイユ庭園
フランス庭園の最高傑作。中心には太陽神・アポロンの泉水。西洋の庭は特に自然を支配したいという欲求が特に強く、自然を思うがままに変化させていた。自然の成長を支配しいかに完璧に従わせられるかという庭づくりが進んだ。
- 岡山後楽園
西洋は刈り込みや彫刻など人の手を感じる庭が多いが、日本の庭は木や石がそのままの自然に見えるように配置されている。八百万の神の考えにより手入れを最低限にすることで自然を保っている。
なお桑木野さんがいちばん印象に残っているのはイタリアのボマルツォ庭園であるという。
ここからは私の感想・考察を述べる。
まず、『庭』を意味する『ガーデン』の語源についてYahooで検索したところ、AIアシスタントから以下のような解説をいただいた。
「ガーデン 語源」のAI回答
「ガーデン(garden)」の語源は、 「囲まれた場所」を意味する言葉に由来します。ヘブライ語の「gan(囲まれた)」と「eden(楽園)」が組み合わさった「囲まれた楽園」を意味するという説や、「ガード(囲い・守る)」と「エデン(喜び・楽しみ)」の合成語という説があります。
語源の詳細
「ガーデン」は、ゲルマン祖語の「gardaz(庭、囲い地)」や「gardô」に遡ります。これはさらにインド・ヨーロッパ祖語の「gher-(囲む)」に由来します。古フランク語の「gardo」やアングロ=ノルマン語の「gardin」を経て、現代英語の「garden」となりました。
関連する言葉
「庭」を意味する英語には「garden」の他に「yard」があります。これら二つの単語は、もともと同じ語源を持つ「二重語」です。
語源が示す意味
語源から、「ガーデン」は「囲まれたプライベートな空間」という意味合いが強いことがわかります。これは、家族や友人と過ごす安全で楽しい場所、植物との触れ合いの場といった、庭の役割にも通じています。
さて、放送では庭はもともと『ハンティングパーク』に由来し、猛獣から襲われることなく、安心して狩りを楽しむことができた、と解説されていたがこれにはイマイチ納得できないところがある。狩り場も貴族の庭園も確かにあるが、
●権力者の庭→一般家庭の庭
というように広まったのではなく、一般庶民は貴族や権力者とは無関係に自分の住み処の周りに果樹や野菜や草花を植えていたはず。大規模な庭園がどうあれ、個人が楽しむ庭は大昔からあったはず。但し記録には残されていないだけであるように思う。また、『ハンティングパーク』はむしろ、牧場や果樹園に変化していったようにも思う。
日本の庭園の由来についてももう少し多角的な解説が求められる。
- 平安時代の貴族は好き勝手に外に出歩いて外の自然にふれることができなかった。そこで自分の家に庭を造り、四季の変化を楽しむ他はなかった。
- 枯山水庭園のように宗教的な意味を持たせた庭園もある。
- 修学院、圓通寺、正伝寺、などのように、囲まれた庭を超えた借景庭園もある。
庭観賞の重要なポイントは、目の前の庭の景色からバーチャルな楽園をどこまで想像できるかにもかかっている。特に枯山水庭園。
次回に続く。
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