じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
岡山大学構内でお花見(52)時計台前の彼岸花。
時計台前の芝地で1株の彼岸花が毎年花を咲かせているが、新装時計台とのツーショットは今回が初めてということになる。写真右は2005年9月19日掲載。耐震補強工事前の時計台が写っている。 |
【思ったこと】 _80923(火)[心理]日本心理学会第72回大会(5)乱数生成課題研究の応用的展開に向けて(5)ワーキングメモリ・モデル/男女差の原因 連載の5回目。 今回は話題提供の中味について感想を述べさせていただく【敬称略】。 1番目の板垣氏の話題提供の前半のほうでは、ランダムネスの分解や軸モデルについての紹介があったが、行動分析学的なアプローチとはかなり違うなあという印象を受けた。行動分析学であれば、乱数生成行動のコンポーネントにおいて、どの部分がどのように強化可能なのかという方法をとるであろう。いっぽう、板垣氏のアプローチでは、軸モデル(計算モデルからワーキングメモリ・モデルへ)という方向に展開した。ワーキングメモリ・モデルについて全く素人であった私にはこのあたりは大いに勉強になった。板垣氏が引用された文献の中にCowan(2001)の「マジカルナンバー4」というのがあった。「マジカルナンバー7」は私が学生時代からよく知られていたが、これに対して、注意の範囲は4±1の記憶容量限界をもつという点が興味深い。 もっとも、なぜ乱数生成課題がなぜワーキングメモリ・モデルに関連づけられるのかということについては、指定討論者の若林氏からも疑問が出されていた。もちろん乱数生成課題では、それぞれの反応の直前あるいはそれ以前にどういう数を生成していたのかということは大きな手がかりになる。しかし、過去の反応を忘れてしまったほうが、かえって系列依存効果が減るという可能性もある。このあたりの問題は、1992年の紀要論文で、私自身、言及したことがあった。 次に、自然数系列(1、2。3、4、5、6、...)におけるSemantic distance effect とSmall number effectについての言及があった。前者は、大小の差が大きいほど大小判断の時間が速くなるという効果、後者は、、自然数系列は数学的には等間隔であるが、心理的には、小さい数字(例えば1、2、3、4)であればあるほど、大きい数字(例えば8、9、10、...)よりも心理的な間隔が大きく、そのぶん弁別しやすいという効果のことを言う。これらは、自然数系列が上昇方向(小さい数から大きい数へ)にある場合と下降方向(大きい数から小さい数へ)にある場合の乱数生成方略の切り替えに影響を及ぼすとのことであった。 このあたりの分析は、10進乱数生成課題を研究目的対象とした場合(9月21日の日記参照)には大いに重要な分析の1つになると思う。しかし、10進乱数生成課題を、行動変動性研究の1つの手段と考えた場合には、かなりローカルなノイズ要因と言えないこともない。「なるべく魚のように及ぶ」(9月20日の日記参照)という喩え話に即して言えば、 ある種の被験者は、「魚のように泳ぐ」という教示を「深海魚のように泳ぐ」と解釈し、プールの底を潜るようにして泳ごうとした。この場合の行動には、被験者の肺活量や血中酸素濃度が影響を及ぼすことが分かった。というようなローカルな発見にとどまる恐れも出てくる。 話題提供の後半では、乱数生成課題における男女差について、興味深い仮説が紹介された。男女差というと何となく性差別を助長するような印象を受けてしまうが、種々の認知課題において男女間で差が見られることはよく知られている。今回の話題提供では、顔の左半分と右半分が異なる表情をしているようなイラストを見せ、左右の視野における視覚処理の優位性(←左脳と右脳の優位性に関連)を測るというテスト(Peter Brugger, 2007)が紹介された。このことと、「頭の中でサイコロを振る」というランダム生成課題を関連づけた上で、男性では、音韻シーケンスには依存せず、氏空間スキーマを利用して乱数を生成しているのではないかという大胆?な解釈が提案されていたように聞き取れたが、うーむ、このあたりはかなり慎重にならざるをえない。 なお、総合大学の学生を被験者として上記のような実験を行うと、どうしても、理工系の男子学生と文系の女子学生の被験者の比率が増えてしまう。すなわち、男女差ではなくて、理工系vs文系の差という可能性も否定できない。 認知課題における男女差については、指定討論者の若林氏からもご発言があった。主たる原因は、羊水のテストステロン(Testosterone)の差にあるとのことであった。と言っても、すでに大人になっている人を調べても、生まれる前の羊水が残っているわけではないから分析は不可能。どこぞの国では、長期間にわたる系統的な研究が行われているというようなお話もあったが、細かいことは忘れてしまった。 次回に続く。 |